怪談の話
ゆる弥
怪談
今日から住むアパートはここの築三十年の屋根の塗装が禿げているようなアパート。
ここを探すまでに新人社員の現実を突きつけられた。
それに、来る時に黒猫が横切ったのは胸がざわついた。
荷物は今日引越し業者さんが運び入れてくれたの。
すごく心配そうな顔で「気をつけてね」って声をかけてくれたんだ。
優しい人よね。
就職が決まってから、髪を思いきり切ったのがよかったのかしら。
押し入れに物を押し込もうとして開けたんだけど。
中の壁がなんでか真っ黒だったのよね。
カビかしら?凄い匂いしてたし。
ダンボール重ねておけばいいや。
お腹がすいたからコンビニで買ってきたご飯を食べたら眠くなってきてしまい、知らない間に寝入ってしまったの。
押し入れの方から女の人の泣く声が聞こえる気がする。
耳をすませてみたけど聞こえない。
その時は眠気に逆らえず気がついたら明るかった。
最初に声が聞こえたあの日から夜中になると泣き声が聞こえる気がするのよね。
仕事を終え帰宅する押し入れを一瞥し、かぶりを振ってシャワーを浴びることにしたんだけど。目を閉じたくない。
上を向いて髪を洗おうとしたら天井の染みが気になる。
目と鼻と、口?
水滴が涙のように付いている。
足が生暖かい。
髪がつまってる。
「えっ!?」
私の髪の毛じゃない!
そのまま風呂を飛び出すと布団にくるまった。
息が。息ができない。
「ゲホッ! ハァッハァッ」
口から出てきたのは長い髪の毛。
「ヤァァ!」
咄嗟に投げ捨てる。
冷や汗が酷い。
髪は濡れ、体も気持ち悪い。
すすり泣く声が押し入れから聞こえる。
最近何度も聞いた声。
「何なのよ全く! 私が疲れてるの? 幻聴?」
クローゼットまで走る。
乱暴に服を引っ張り出して着る。
「もういや。明日こんなとこ出る」
ベッドに戻る。
えっ? ちょっとまって?
さっき鏡に何か写ってなかった?
先程の鏡を思い出す。
閉まってたはずの押し入れが。
───視界に入る。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
玄関に突進して扉を開け廊下に飛び出る。
また息が。
喉を抑えて悶える。
「どうしました?」
「きゃぁっ!」
突然の声に驚いた。
気づいたら座って震えていた私を心配した大家さんが来てくれたのだった。
「大丈夫ですか? 何かありました?」
「人が! 押し入れの中に人が居たんです!」
息が。震えが。
「実は、この部屋の押し入れから死体が見つかったことがあるんですよ」
「ハァッ! ハッ! 絶対出ていきます!」
「そう。みんな、あなたと似たような人でしたよ?」
怪談の話 ゆる弥 @yuruya
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