移動中に

 電気を薄暗くつけ、カーテンを閉め切った部屋。

 借りた竹刀が壁にかかり、白濁とした液が残るペットボトルも机の上から二人を見守る。


 春から使い始めたベッドの上に、主と意中の彼が二人向かい合い。

 

 「わ、私こういうの初めてだから……」


 不安を訴えつつも正直に彼に体をゆっくりと預けて行く。

 彼の唇が柔らかく、ほんのり甘い。

 

 「はじめてはどうって? そんなのいじわる」


 ファーストキスなの? 彼はどっち?

 彼は唇にとどまらず、目元や頬にも降り注ぐ。


 「え? 大人なキスってなあに?

  舌って。ベロを? 入れるの。待ってまだそんな––」


 戸惑うように言いながら彼女は舌をタイミングよく舌を出す。


 「んむっ、んん」


 彼も興奮しているのか、私はその勢いに蹂躙された。

 息継ぎの仕方も下手くそで苦しい、ただそれが心地よい。

 離れてなお彼と彼女を繋ぐ糸を愛おしく、彼は再び彼女をベッドへ押し倒すよう強引に唇から重ねた。

 

 「んん、うう、はむ」


 全身が熱い。

 部活動で汗をかくのとは違った快感。

 こんなに脳がビリビリするのも未経験だった。


 「こんなんでも感じちゃう。もう……あ、んむ! んふっ」


 彼の手が彼女の後頭部へ。

 あなたも下手じゃない、圧迫するかも……でも、すごくいい。


 「え? 次ってなに? ––!? 

  そんな私Cだけど、見せるのはまだ……」


 恥ずかしい。

 え?

 彼、私に懇願させようとしてる?

 やだあ、変態。

 

 彼女の言葉と同時に彼はブラウスの裾を捲り、そのまま上に上げた。

 

 「手伝うってどこを」


 あっという間に彼は私の背に手を伸ばし、それを外した。

 ぱらりとはだけ、彼女一部は彼の前に露に。


 「あんっ!」


 彼の指に彼女は弾かれた。

 先程熱くなったせいかビンビンになった彼女を彼は執拗に攻める。

 弾くだけでなく、優しく撫で、指でつまんでくりくりと。

 彼女は快楽に溺れ、嫌悪感を感じる余裕もなくただただ受け入れていく。


 「お腹の方まで熱くなってきちゃった」


 下腹部が熱く、何かを求めるようような気がする。

 その正体は彼と話を進めることで徐々に理解し始める。


 良いのかな?

 でも、彼女はそれを欲しているのだ。


 股を広げ、彼女は意を決して彼に言った。


 「ケント、ねえ来て!」



 ◆◆◆



 「おーい、薄村。まだ寝てんのか?」

 「むにゃむにゃ……ケント、ねえ来て」

 「隣にいるだろ」

 

 普通電車で隣同士に座る絢斗と彩智。

 学校も部活もない、日曜日。

 午前中から二人でのんびりと目的へと向かう。


 先日体育後の雰囲気を絢斗なりに打破しようとして言った「今度どっか遊びに行かない?」という、ある意味ダメっぷり、ダメな甘やかし方を高校一年生なりに言った結果。

 

 大盛り上がりのクラス。

 勘違いに高揚した絢斗と、しめしめと心中で呟く彩智。


 前日には亮磨から「電車では必ず隣同士で座るように」とアドバイス貰う。

 基本だろ! とつっこむ絢斗も「ん? まだ付き合ったりとかそんな関係じゃないのに」と色々なドキドキが頭の中で入り混じる。


 「ねえケント」


 また寝言だ。

 俺の夢なのか? 一体なんの夢を?

 昨日も一緒に自主練習した時も激しく当たってきたけど、やっぱ竹刀を貸してから調子が良いのかな?


 「……むにゃ、次は後ろがいい」

 「後ろ?」


 競技場はそれをすると反則に近い。

 何がなんでも勝ちたい姿勢は評価できるけど、下手くそでも絢斗はしない。


 「しっかし、それにしてもだなあ……」


 絢斗は寝ている彩智の私服をしっかりと直視できない。

 ベースは白のブラウスに大胆な黒のミニスカート。あまり私服を持っていない年代で、特に女気がない絢斗には刺激が強い。

 

 「(えっろい)」


 つい鼻の下が伸びる。

 時々もぞもぞと動く彩智がまた味を出す。


 「ん、ふぅ」


 彼女の上肢の一部も右に左にと揺れ、それに合わせて絢斗の視線も右に左に。


 「男女のデートって、これが常識なのかな?」

 

 無防備な彼女を見て、理性と保つのが苦しくなり始めた。

 絢斗の手つきが動き始めて、止める。

 

 「何を俺は馬鹿な考えを。さ、さささ、ささささ触ろうとか変なことを」


 でも?


 「手を繋ぐだけなら、いいよな?」


 そっと手が伸びて、寝ている彼女の右手……その小指に触れた。


 「いやいやいや……落ち着け。考えろ。普通に怒られるから。嫌われるから」


 これは怯えているのではない。

 そう戦略的撤退なのだと自分に言い聞かせる。

 だが絢斗のケントは固まりはじめ、体は正直に求めていた。


 上をさわれば見えてしまう。それなら……下はどうだ?

 彼女がもぞもぞ動くせいか、両足が開き栄光への掛橋見えるではないか。


 絢斗は息を飲んだ。


 「大丈夫、大丈夫だから落ち着け」


 ケントも熱く叫び汗が出始める。

 絢斗はアナウンスを聞く余裕もなく、手を目的地へと誘い始めた。


 『間もなく、栗と栗鼠駅。栗と栗鼠駅。お出口は左側––』


 

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