第17話 贖罪のお尻
「もう……ヒヤヒヤしたよ!」
「ごめん。ちょっと、熱くなっちゃったかも」
「ちょっとどころじゃないわよ。また昨日みたいに美戦が起きたらなんて思ったら気が気じゃなかったんだから」
「次は気を付けるよ」
「お願いね? じゃないと、私の気が持たないよ……」
フローラとの対話を終え、校舎内の一本道。私はエールに愚痴をこぼされながら、教室へと向かっている最中。
もう間もなく目的地だというのに、エールの気が休まる気配はない。
タイミングが悪かったとはいえ、エールをいつまでも苦しませるわけにはいかなく、下手な言葉を掛けるワケにはいかなかった。
とはいえ、何もせずにいるというのも出来ない。
そうして私が取った行動はただ一つ。
「エール。機嫌直して? ね、お願いだから」
「ちょっと、リノ!? 急にお尻なんて撫でて、どうしたの!!?」
「少しでも、エールの辛さを和らげてあげようかなって。嫌だったら、やめるから」
エールのお尻を優しく撫でてあげることだった。
私が、辛いときにおヘソを弄るように、きっとエールにも効果があるはず。そう思って、動いてみたけど、どうやら少なからず効果があるみたいだ。
その証拠に、さっきまで憂鬱そうだったエールの表情が一瞬にして赤くなった。
やっぱり暗い顔よりも、恥じらいで顔を赤くしているエールのが何倍もかわいい。
暗い顔でよりも、少し元気の取り戻した顔で私のことを見て欲しいから。
だから、エールに拒絶されるまでは彼女のお尻を撫でていよう、そう決めた。
そして、肝心のエールは───案外、まんざらじゃなさそうだ。
「嫌とかじゃないけど、もっとこう……タイミングが、ううんっ!!?」
「こうやって、撫でられるの好きなんだよね」
「はうっ!? う、ひゃう……っっ!!」
入学初日。静寂に包まれた廊下。きっと教室では一向に到着しない私たちを待つクラスメイト。
そんな状況の中で行う私とエールのリラクゼーションタイムに背徳感が襲い掛かる。
今か今かと待ちわびている人がいる中で、二人して癒し合っている罪悪感が、気持ちよさとして襲い掛かってくる。
決して許されない。誰にも言えないことをしているこの事実が、エールに背徳の美しさを覚えさせてしまう。
そして、エールの美しさにあてられて、私もつられておかしくなってしまう。
身体の奥が熱くなってしまう。
「はぁ……はぁっ!!」
触りたくて触りたくて堪らない。自分のおヘソを弄りに弄って、背徳を直に味わいたい。
熱に侵されたくなってしまって仕方ない。
でも、それはダメだ。絶対に、今だけは我慢しないといけない。
こうなったのは、全部私の我慢が効かなかったからなんだから。
「リノ、辛いなら私も……」
「ダメ……今は、エールだけでいいの……」
「でも、辛そうだよ?」
「それでいいの。そうじゃなきゃいけないの」
「そう……」
エールの誘いを断る罪悪感。悲しむ友達の表情に、胸とお腹の奥がずきりと痛んで堪らない。
だけど、これが私なりの償い。友達が苦しんでいたのに、私が気持ちよくなるわけにはいかないないのだから。
美しくなるのは、今はエールだけでいい。私はまだ、同時に美しさをあげるに足る人間じゃないから。
だから、エールだけ。エールだけが救われるのが一番だ。
「リノ、ずるい……」
「かも、しれないね……」
訴えかけるリノの瞳は、私の考えなんてお見通しだと言わんばかりに透き通っていた。そしてそれが強く、言葉に現れていた。
そうなのかもしれない。私はずるいのかもしれない。
もしかしたら、知らぬ間にシルヴィさんに気に入られて、温情で成績最優秀者として選ばれたのかもしれない。
もしかしたら、エールと私が仲のいいことを理由に、同じクラスにしてもらえたのかもしれない。
思い当たる節はこれくらいだけども、きっと知らぬ間にずるいことを知らぬ間にしてしまっているのかもしれない。
だから、その分、罰を受けないといけない。許されるのなら、いくらでも受ける。
「んぁ……っっ!」
エールの美しい嬌声を腹の奥に響かせながら、贖罪を終えた。
いよいよ、クラスメイトとのご対面だ。
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