第15話 国際美立ヴァルガント学園
「やったね、同じクラスだよリノ!!」
「そうだね。エールと一緒でよかったよ。知ってる人がエールしかいないし、もし別々のクラスだったら、どうなることか……」
「私はともかく、リノはそういうことにはならないと思うわよ?」
「そんなことないよ。だって、ほら」
「え?」
教室棟の入口前に大きな掲示板。そこには、新一年生のクラス分けが発表されていた。
幸いなことに唯一の友達といっても過言じゃないエールとは同じクラスになれて、心の底から安心している。
たとえ、別のクラスでも仲良くしてくれるだろうとはいえ、クラスメイトとも仲良くなるに違いない。
すぐに私と仲良くしてくれるような彼女が、誰とも仲良くなれないはずがない。
となれば、必然的に寮以外は一人で過ごすことになるのではないかと、危惧していたところに、同じクラスという救いの手。
神様、女神様。本当にありがとうございます。このご恩は忘れません。今すぐご神体の元へ行って感謝の想いを伝えたいくらいです。
そんな私の想いとは違い、エールは別々になっても問題ないんじゃないかと口にした。
エールのことを疑うわけではないけれど、流石にそれは言い過ぎではないだろうか。
疑心暗鬼になりながら、エールの視線の先に目線を送ってみることに。
「あの子が、最優秀者……」
「しかも、シルヴィ寮長推薦……」
「フローラ様とは違って、見た目の華やかさはないけれど、きっと普段は美しさを隠してるのね……」
「なんてつつましやか。きっと、アーシュ様の教えを一番に学んできたはずだわ」
待ち伏せていたのは、私への熱視線。成績最優秀者、寮長からの推薦、華やかさが際立っていたフローラとの違い、憧れている女神様の推測などなど。
あげればキリがないほどの目線が集まっていた。
耳に入るだけの言葉でも、頭がパニックになってしまいそうだ。
私はシルヴィさんの気まぐれで選ばれただけなのに。
美しさを隠してるんじゃなく、フローラの美しさが数段も上なだけなのに。
それに、私が教えを貰ってきたのはアーシュ様ではなくネーベル様だというのに。
人のうわさは七十五日というけれど、一日持たずに、ナイーブになってしまう。
少なくとも、エールがいなかったら本当にそうなってたかもしれない。
「ね?」
「誤解が広がって、なおさらエールが一緒でよかったと思ったわ」
「そんなことないよ。エールは本当に称賛されるだけの人なんだから」
「エール……」
「だから、胸張って教室入ろ?」
心の底から信頼しているエールに励まされているからこそ、ナイーブにならずに済んだのだと思う。
本当にありがとうね、エール。
彼女に手を引っ張られるがまま、教室棟の中へと入り、自教室へと向かう。
柔らかくも、意外としっかりとしたエールの手をしっかりと感じながら。
「ありがとね、エール」
「どういたしまして」
熱視線が送られ続けているあの場から引っ張り出してくれた友達に、心の底から感謝したくなった。
彼女はそれを会釈一つで済ませてしまう。
エールにとっては、当たり前の行動なんだろう。それがまた、彼女らしくて好きなのかもしれない。
と、そんなことを考えていると、不満そうに口を開くエール。
「それにしても、シルヴィお姉ちゃんには困ったものだよね」
「どうして?」
「だってそうでしょ? 昨日、美戦をリノにふっかけた挙句、何も言わずに最優秀者に推薦するんだもの。リノに確認くらいとってもいいと思うのよね」
「あ、あはは。シルヴィさんは、そういうところザックリ気がするよ……」
昨日の美戦でよくわかった。シルヴィさんの攻め方は大雑把で、それはきっと性格から来るものなのだろう。
攻撃を受け止めてから、カウンターとして膝蹴り。光の玉を蹴り飛ばしていたときも、全て玉の回転が不規則だった。蹴り方もだけれど、蹴るポイントがその度に違うからなのだろう。
だからこそ、最後はよけるのが精一杯だったのだけれども。
それがまた、エールを心配させる要因でもあるのだろうけれど。
「ちゃんと寮長が出来てるのか不安になってきちゃった。道場にいたときは、しっかりしてたんだけどなぁ……」
「道場? 教会じゃなくて?」
「あぁ、リノのところは教会なんだ。私のところは、道場の神棚に女神様像を祀って、いつでも私たちの頑張りを見守ってもらってたの」
「へぇ。そういうのも、いいわね」
なるほど。アーシュ様のところは、道場で教えを受けるのか。
普段では知ることのできない、美を極めるヴァルガント学園だからこその情報に、私は胸を躍らせずにはいられない。
もちろん、相手に深いところには踏み込まない。人それぞれ想いは違うし、知られたくないことはたくさんあるから。
私も同じ。まだ、エールに言えないことはたくさんある……。
たとえば、そう。どうやって、鍛えてきたのか、とかね。
「リノのところはどんな感じだったの? 教会ってことは、女神様へ定期的に報告してたの?」
「うん。毎日通ってたよ」
「きっと、素敵な教会と女神様なんだろうね。リノの……ネーベル様!」
「ありがと、女神様のこと覚えてくれて」
「どういたしまして」
ネーベル様の教えの実情はまだ明かすことは出来ないけれど、それでも女神様の名前を覚えてもらえただけでも、うれしくてたまらない。
私のことをもっと知ろうとしてくれてることも、うれしくてたまらない。
初めての友達が、エールでよかったと本当に良かった。
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