第13話 華ある栄誉、二人
「生徒諸君、栄えある国際美立ヴァルガント学園にようこそ。この学園は、“強く華やかなれ”をモットーに美の様々なことを学ぶ場所である。ただ美しさを求めるのなら、別の学園もあるがこの学校に来たということは、皆は強くあることを選んだということに違いないだろう」
入学式が始まった。
とは言っても、長い長い役員挨拶なるものがあるわけでもなく、学園長の話がメインと言っても過言ではない。
今まさに、この時間がその学園長の話である。
壇上には黒髪オールバックの男性。けれどそこに厳つさはなく、むしろ堂々とした立ち振る舞いに色気を感じるほど。
美しさを極めた人とはおそらくこういうことなのだろうと、実感させられるほどの堂々とした姿に目を離さずにはいられない。
そしてその言葉にも。
「では、諸君らに伝えることはただ一つ───」
人差し指を立てて、高い天井を指差す学園長。当然、会場に集まる生徒の視線が指先及び学園長へと向かう。
その末に、会場中に学園の理念が放たれる。
「勝つことが美しさではない」
ざわつく新一年生を反面に、他の学年は皆拍手をしている。
分からないのは、私たち一年生だけ。
けれど、一年ここにいれば学園長の言葉の意味がわかるようになるのか。
そう思うと、これからの学園生活が楽しみで仕方なかった。
そんな私たち新一年生の反応が学園長にとって心地よいものだったのか、爽やかな笑顔を浮かべている。
「悩んでくれ。ぜひとも苦悩してくれ。そして、悩みを超えて強く華やかに旅立って欲しい。これで、私の挨拶を終えさせてもらう」
終始、堂々たる立ち振る舞いに魅了されていた学園長の話が終わりを迎えた。
けれど、まだ入学式の終わりではなかった。
むしろ、新一年生としての生活が次の瞬間から始まると言っても過言ではないのだろう。
「あ、シルヴィさん」
「本当だね。なんであそこにお姉ちゃんがいるんだろ。それに隣の人も……」
「寮長って言ってたけど、その関連かな? ほら、寮って二つあるし」
「あぁ、確かにそうかも。お姉ちゃん、性格はちょっとあれでも、寮長任されるくらいだものね!」
「あれ、って……」
エールの言葉に苦笑しながらも、否定することはできなかった。
昨日は色々と振り回されたのだから、これくらいは許してほしい。
もちろん、上級生としての強さや美しさを見せてくれたのは感謝してるし、エールと仲良くなるきっかけも感謝してる。
けれど、やっぱり性格に難ありというのは否定しきることは私にはできなかった。
それだけ、昨日一日がとても濃いものだったのだから。
とはいえ、シルヴィさんの寮じゃなかったらと思うとまた少し不安にもなる。
学園内に二つある寮のうち、シルヴィさんのところがまともだったら果たしてどうなのだろうか。
いや、もしかしたらもう一つの方のがまともかもしれない。
不安が積もる。壇上でシルヴィさんの横に立つ赤髪ショートの美女が、どっちの人なのか気になって仕方ない。
派閥ではない。真面目な性格なのか、セクハラしてしまう性格なのか、である。
そんなことを考えていると、その赤髪の美女がマイクを持つ。
「では次に、新一年生の成績最優秀者の発表に映る」
凛々しくも落ち着く低音の声が会場中に響き渡る。キリリとした表情にぴったりの場が締まる声に、自然とおヘソに力が入ってしまう。
あの人のような女性になりたい。心の底から、そう思わずにはいられないほどの美しさが彼女にはあった。
───が、今集中するべきことは彼女にではない。
「成績最優秀者……?」
「ほら、きっと昨日のアレだよ。身体検査」
ポツリと疑問をこぼすと、真面目に入学式へ取り組んでいたエールが補足をしてくれた。
なるほど、昨日の身体検査はそういうことだったのか。
「シルヴィさんがエールに変なことするからてっきりおふざけかと思っちゃってた」
「リノってば……。その割にはお姉ちゃんとの美戦ノリノリだったじゃない……」
「上級生の実力を知りたくなるのは、当然じゃない?」
「それは、うん、分かるけど」
「でしょ?」
入学試験のないヴァルガント学園がどうやって成績優秀者なるものを決めたのかを、あっという間に納得してしまった。
昨日の触診でどこまで正確な数値が測れるのかは分からないけれど、きっと上級生になればそのことも自ずと分かってくるのだろうか。
そんなことを考えていると、成績優秀者の名前が声高に呼ばれる。
「フローラ・ユーシェ、前へ」
「はい!!」
甲高い返事と共に、一人の美少女が壇上へと向かっていく。
フローラ。そんな華やかな名前を裏付けるかのような、煌々とした金髪をなびかせる。
そして、そんな彼女の立ち振る舞いは、成績最優秀者たるべく堂々といたものだった。
「入寮と共に行った身体検査にて、秀でた数値を記していた。よってここに、暫定ではあるが成績優秀者のペンダントを授与する」
「ありがとうございます!!」
壇上にてフローラが貰っていたものはどことなく、先輩が持っていたペンダントと似ていた。
遠目からでも分かるほどに独特な輝きを見せるペンダント。昨日、競技場で見た鮮やかな輝きにとてもよく似ていた。
思わず、見惚れてしまうほどに。
けれど、発表はまだ終わっていなかった。終わってなんていなかった。
「続けて、もう一人。特別推薦枠としての発表を行う」
「特別推薦枠?」
「すごいね、推薦貰える人もいるなんて」
「ねー」
ペンダントや称号に相応しい立ち振る舞いを見せた、フローラと同等かそれ以上の人がいるのだから。
どんな人だろうか。フローラのような華やかな人だろうか。それとも、司会をしている赤髪の人のような凛々しい人だろうか。
どちらにしても、推薦を貰えるような人がすごくないわけがない。
一体どんな人なのだろうか。そんなことを考えている刹那のこと───。
「リノ・グラッセ、前へ!」
私の名前が呼ばれた。
「はい!!!?」
「どうした。リノ・グラッセ、いないのか!」
「い、います!!」
「では、壇上へ」
「は、はいッッッ!!」
名前が呼ばれ返事をする度に、いちいち声が裏返ってしまう。
いや、裏返りもするだろう。
推薦? 一体誰がそんなことを?
今の現状を半信半疑で壇上へと足を運ぶ私。
「リノ・グラッセ。寮長シルヴィ・リンスの推薦の元、あなたにも暫定の成績優秀者のペンダントを授与します。推薦者の顔に泥を塗らないように、勉学、美学共に励みなさい」
「は、はいっ! ありがとうございます」
ペンダントを手渡してくれる赤髪の女性の横で、ドヤ顔をしながら親指を突き上げているシルヴィさん。
さっきまでの真面目なものとは違い、お茶目な表情。
つまりは、彼女の仕組んだことなのだろう。
エールの言葉はやっぱり間違ってないのかもしれない。
シルヴィさんの性格はちょっとあれだ。
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