第12話 目を覚まし、入学式
「リノ? ねぇリノってば!」
「うぅ、んぅ……?」
耳元で何度も囁かれる私の名前。私はただそれを、生返事することしかできない。
生返事をすることくらいの気力しか湧かない。
それくらいまでに、私は眠気に襲われていた。
「ねぇ、リノってばぁ! 起きてってばぁ!」
それでもエールはめげずに、私の名前を呼ぶ。何度も揺らしては起こしにかかる。
その度に、眩しさが閉じた目に刺さる。
ん、眩しさ……。
ふと、私は違和感を覚えた。どうして、エールはこんなにも必死に私を起こそうとするのかな、と。
それを確かめようと、自然と重い瞼が浮いていた。
「やっと起きた! もうそろそろ準備しないと、入学式始まっちゃうよ!?」
「え、にゅうがくしき……?」
開かれた視界の先で、心配そうにエールが顔を覗きこんでいた。
昨日とは少し違って、綺麗さに磨きがかかったエールが。
そんな友達の言葉をポツリと口にする私。
なんの意味もなく、ただポツリと。
けれど、それはただの一瞬のこと。すぐに、今の事態を感知する。
今、自分がどんな状況に置かれているのかを。
「あ、入学式!!!!」
バッと起き上がり、壁掛け時計に目をやってみれば時刻は入学式の一時間前。
早めに入場することを考えたら、いくら寮と学校が近いとは言っても油断できない時間。
エールが必死になって私を起こそうとしてくれたのがよくわかる。
「軽くメイクするくらいの時間はあると思うから、急いで準備しよ? 私も手伝うから、ね?」
「ごめんね、エール。昨日の今日で迷惑かけて」
「ううん、お互い様だよ。昨日は荷物整理手伝って貰ったし」
「相部屋がエールで本当に良かった」
正直なことを言えば、エールが私を起こさずに入学式会場へと向かっていても、怒るつもりなんて一切ない。
余裕もって起きれなかったのは自己管理できてなかった自分のせいだし、それをエールのせいにするのは違う。
それでもエールは私を必死に起こしてくれた。
それだけじゃない。その後の準備を手伝ってくれるというのだから、なんて素敵な子なのだろうか。
エールが相部屋でよかったと心の底で思う。
そしてそれは、私だけではなかったようだ。
「それは私の方だよ。リノが相部屋じゃなかったら、世界を知らないままだった」
「世界、って?」
「世界の女神様は、アーシュ様やテッテ様だけじゃないってこと。リノのネーベル様以外にも、女神様がいるなんて昨日までの私じゃ考えられなかったから」
急に規模の大きな話になって、戸惑うところがあるけれど、それこそ感謝するのは私の方。
エールの期待を裏切った私を受け入れるどころか、ネーベル様への信仰を分かろうとしてくれた。
それだけで、私は感無量だ。
「よし、準備オッケーだよ! 遅れる前に行こ、エール!」
「ギリギリセーフだね! 初日から遅刻なんて大変だもの!」
「エールのおかげで助かった。今度お礼するね」
「じゃあ、またおヘソ触らせて?」
「こ、今度ね?」
「ふふ、楽しみにしてる」
そうこうしているうちに、準備が整った。
顔のファンデーションから始まり、ナチュラル気味にメイクして、淡いピンクの口紅。
制服に少し香水を撒いて、華やかしさをプラス。
当然、普段は見えていないおヘソにもケア用のオイルを塗り広げる。
いつでもネーベル様に恥ずかしくない私を魅せられるように、ケアは怠らない。
大事な入学式に寝坊しかけた私が言うのも、変かもしれないけど。
それでもやっぱり、入学式ということもあって普段よりもオイルを多めに塗ってしまう。
それだけ、これからの生活が楽しみということなのだろう。
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