第11話 美の確かめ合い

 競技場での美戦を終えた私は疲れを取るため、そしてリフレッシュするためにエールと共にシャワー室へと来た。

 そう、リフレッシュするために。

 それがどうしてだろうか。

 どうして、二人裸で向かい合いながら、おヘソを熱心に見つめられているのだろうか。


「綺麗なおヘソ……」

「あの、エール?」

「おへそだけじゃない。お腹周りのケアをしっかりしてるのがよくわかる……」

「ねぇ、エールってば」

「リノのお腹触ってもいい?」

「よくないからね? いくらエールでもお腹を触らせるのはちょっと……」


 血走った眼で、私のおヘソを熱心に見つめるエール。

 シャワーの湯気でエールの全貌は見えないけれど、きっと満足な表情をしているのだろう。

 そんな彼女の頼みでもお腹───おヘソを簡単に触らせるのは気が引けた。

 女神様の美の象徴というのは、その人にとって一番神経が通っていると言っても

 過言じゃないくらいに意識をしている場所。

 つまりは、身体の中で一番敏感な部位。よほどのことがない限り、人に触らせるわけにはいかないのだから。

 それは、エール自身も分かっているはず。

 そう……分かっているから、お腹を触っていいか提案してきたのだ……。


「私のお尻、触ってもいいよ。シルヴィお姉ちゃんに検査してもらってるとき、実はちょっと気になってたでしょ?」

「そんなことは……」

「誤魔化さなくて大丈夫だよ。私、ちょっとだけだけど、今どこ見られているのか分かっちゃうから。特にお尻は、ね?」


 互いの大事なところを触り合う。それは口にするほど簡単なものではなく、とても聞き入れることは難しかった。

 もちろん、只事ではないと分かってる。

 分かってはいても、どうしてもお腹を触らせる不安を消すには至らない。

 美戦の件で心配をかけさせたエールには悪いけれど、これは守らないといけない一線だと、危険感知してしまう。

 それでも、エールは止まらない。加速して、止まらない。


「私、アーシュ様を崇拝している人しか今まで会ったことないから、他の人がどんな感じなのか全然知らないの。だから、リノがネーベル様っていう女神様を崇拝してるって聞いて、初めはショックだったけど今は、チャンスだって思ってるの」


 止まらない思いが、涙という形で現れる。

 感情が高まって、昂って、やがて私の心に伝播する。


「だから、ちょっとだけお願い出来ないかな……?」


 エールの思いを知りたいという欲が、心のうちに広がっていく。


「ちょっと、だけだからね?」

「うん、ちょっとだけ。ありがとう、リノ」


 シルヴィさんのときといい、今のエールといい、なんて押しに弱いんだろうか。

 そんな自分を嘆きながらも。自然とお腹を突き出してしまうのが不思議でたまらない。

 まるで、誰かに触られるのを求めていたようじゃない……。

 そう自戒しながらも、お腹に伸ばされるエールの手をはねることは出来なかった。


「触るね」

「は……ぅん……」

 シルヴィさんに触られていたときのエールはきっとこんな感じなんだろうな。

 触られている部位は違っていても、そこは間違いなく敏感な場所。

 こそばゆく、それでいてどこか心地よい。

 恥ずかしいのに、どこか満たされてしまう。

 不思議で不思議でたまらない感覚。確かにこれは、気持ちよさそうな表情になってしまうのを納得してしまう。

 しかもそれを、心を許している相手にされているのだから尚更。


「ふふ、リノってば、かわいい顔してる」

「エールが変に、触るから……」

「そうかなぁ。私はただ、お尻を触られているみたいにリノのおヘソを可愛がってるだけだよぉ?」

「くひゅ……んひゅ……っ」

「本当に、かわいいね、リノは」


 おヘソの周りを撫でては、緩急をつけるようにおヘソを摘み上げてくるエール。

 全身が痺れる感覚に襲われては、エールにかわいいと揶揄われてしまう。

 それがたまらなく……たまらなく、悔しく思ってしまう……。

 だからこそ、たまらず無防備なエールのお尻に手を伸ばしてしまったのかもしれない。


「ひゃん!?」

「エールが言ったんだよ? お尻触ってもいいって」

「確かに言ったけどぉ……こんな、急にされるなんて……」

「その言葉、そっくりそのまま返すわね」

「ふ、ぁ……っ!?」


 耳元で鳴くエール。

 私が本当に触ってくるなんて思ってもみなかったのだろう。

 触るにしても、触っていいかと聞いてくると考えていたのだろう。

 焦りにも近い驚きが、エールのお尻を通じて伝わってくる。

 そして、耳元で感じるエールの荒い吐息からは気持ちよさが強く伝わってくる。

 少し、シルヴィさんの気持ちが分かってしまう。

 かわいいエールを揶揄いたくなって当然かもしれない、と。


「エールのお尻、もちもちしてる」

「そ、そりゃ、アーシュ様みたいになりたくて……毎日ケアしてるから……」

「耳、真っ赤だよ?」

「リノが変な風に触るから」

「変な風って、たとえばこういうこと?」

「ん、んにゅ……!?」

「ふふ、変な感じ。エールにされたことをそのまま返してるだけなのに、そんな驚かれるなんて」

「リノの、意地悪ぅ……」


 弾力のあるお尻に夢中になっていると、エールの口から泣き言が溢れた。

 あぁ、本当にかわいいなぁ。

 エールも、ちょっぴり刺激を与えるとピクンと跳ねる彼女の柔らかな身体が、可愛く美しくてたまらない。

 もっとこのまま、触っていたい。もっともっと、エールの反応を確かめたい。

 高まっていく欲求。純粋なのに、どこか悪いことをしているような感覚に襲われる欲求。

 あぁ、確かにその通りかもしれない。


「かもしれないね」

「え……?」


 確かに私は意地悪なのかもしれない。


「エールのことを蔑ろにして、シルヴィさんのことばっかりだったもの」

「あれは、お姉ちゃんも悪いし……」

「でも、私も悪いでしょ? だから、ね?」


 周りのことを考えられず、ただただ自分のことしか考えられていない私は、きっと意地悪なのかもしれない。

 だからこそ、エールにお腹を委ねてしまったのかもしれない。


「エールの気の済むまで、おヘソを可愛がって?」


 ───意地悪で美しくない私を、気の済むまで罰してほしくて。


 そこからの記憶はあまり覚えてない。ただただ心地よさに身を任せて、気がついたら、部屋のベッドで寝ていたのだから。

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