第6話 三女神様と告白
「というわけで、ほらほら。リノちゃんもお尻出してみ? 身体検査してあげるから」
「えっと、どういうわけで身体検査なんでしょうか?」
「おや、そんなに警戒しなくてもいいじゃないか。流石の私でも傷つくぞ?」
警戒しないで。そういう割には、シルヴィさんの手つきは妖しさ満点である。
ワキワキと指を動かしては、したり顔でこちらを見つめてくる寮長に、距離を取らずにはいられない。
傷つく? むしろ、私が距離を取ってシルヴィさんはあからさまに頬を緩めた。
まるで私が逃げることを知っていたかの様子にさらに警戒度が高まる。
とはいえ、ただただ嫌悪感で警戒しているわけでもない。
「いや、分かりますよ? ちゃんと健康維持できているかってことですよね?」
「そういうこと。健康を整えることこそ美しさ。美しさの継続及び向上が国際美立ヴァルガント学園学生としての義務。それを出来ているかを監督、指導するのが私たち寮長の仕事よ」
「の割には、エールのときはお尻しか見てなかったような気がしてならなくて……」
「そんなの当たり前じゃない」
私の問いに対して、真剣な瞳でシルヴィさんは言い切る。当たり前だと。妹分であるエールのお尻を見るのが、揉み撫で下すのが当たり前だと。
シルヴィさん個人としてではなく、寮長として。美を極める学園の学生代表としての義務として。
健康維持の確認としてなら、納得は出来た。
学生同士、どこをどのようにしたらもっと美しくなれるのかを教え合える。そして互いに美しさを高めていく。そんな好循環を起こすことが出来るだろうから。
だけど、お尻を重点的に検査するというのはいささか度が過ぎている気がして仕方がない。
いくら美を高めに高めたであろう寮長だとしても、彼女のやり方に疑問を抱かずにはいられなかった。
けれど、その疑問はすぐさま解決するに至った。
「私はアーシュ様を崇拝する家系の当代でもあるんだから。同じ派閥の子の様子を確認するのなんて当然のことよ」
「派閥……アーシュ様の派閥、ですか……」
「あ、もちろんエールちゃんは特別よ? なんてたって、心の妹だからな」
「エールもアーシュ様を崇拝してますものね。……そうですよね、アーシュ様の美は確かにそうでしたね」
美を司る女神の一柱、アーシュ様。シルヴィさんがその女神様を祭る家系の現当主だというのなら、私の中ですべてが納得出来た。
エールがシルヴィさんのことをお姉ちゃんと呼ぶのは、小さいころからの付き合いがあったからだろう。
当然、スキンシップも激しくなるもの。そしてそのスキンシップがシルヴィさんのいう派閥内で当たり前だったのなら、エールが特に抵抗する様子なく、むしろ艶めいていたのはごく自然のことなのだろう。
アーシュ様の教えでは、それが普通なのだから。
とはいえ、流石のエールも私に見られたのは恥ずかしかったようだ。
今にも爆発してしまいそうなほどに顔を赤らめている。
「だからってリノの前ですることないじゃないですか! あぁいうのは、もっと……人気の少ないところが……」
「ん〜? そんなモジモジしちゃって、もしかして身体検査足りなかったぁ?」
「ぴえっ!?」
「リノちゃんのが終わったらまたしてあげるから、もうちょっとだけ待ってな、ね?」
「は、はひ……」
なんてかわいらしいことだろうか。一歩二歩、そして三歩目で接近すると共に、エールに甘く囁くシルヴィさん。
今度はお尻ではなく、太ももを撫でまわしているが、どちらにせよエールには効果抜群だったようだ。
さっきと同じようにビクンと体を跳ねさせ、ちょっぴり虚ろで満足気な瞳の友達。
もうしないでくれと言わないのが、全てを表している。
だったらもう、私の答えは決まっている。
「というわけで、エールちゃんがお利口さんにしている間に検査をしたいんだけど、いいかな?」
「それって、さっきみたいにお尻を重点的に、ですか?」
「うん、そうなるね」
「そうですか……」
念のために内容確認をしてみたけど、やっぱりエールと同じようだ。
分かってた。分かってたけど、もしかしたら見逃してくれるかもと心のどこかで思っていた。
「すみません。その検査、拒否することってできますか?」
「……へぇ」
結局、取る手段は一つしかなかったのだ。
「きょ、拒否ってどうして!? あんなにキモチ───身体の美しさを測れる絶好の機会なのに!!」
「あはは。確かにエール気持ちよさそうにしてたものね」
「うぅぅぅ……っ!」
「自分からキモチイイって言いかけてたのに、私から指摘されると頬を赤らめるエールはかわいいなぁ」
さっきまでシルヴィさんにトロトロにされたエールだったが、身体検査拒否という私の対応に驚き、余韻どころではなくなった様子。
とはいえ、エールはシルヴィさん側の人。私とエールとでは、事情が違う。
「ごめんねエール。身体検査はとても気になるけど、お尻である必要が私にはないの」
「それって……」
「エールが目を輝かせて、女神様のことを聞くから本当のこと言いそびれちゃったんだ。誤魔化すつもりも、隠すつもりもなかったの」
「……そっか。ううん、そうだよね。二大女神様だもの、リノがテッテ様に憧れていてもおかしくないわよね」
流石にここまでになると察しがついたのか、派閥違いに気が付くエール。
だけど、違うのエール。合ってるけど、違うの。
謝ると共に、自然と私の手がお腹へと伸びる。お腹のくぼみを、清めに清めたおへそを撫でては気を落ち着かせる。
私の住んでいた地域では女神様は、二大女神様ではない───。
「そのことも、謝らないと」
「え?」
「私の女神様は、おへその美を司るネーベル様だから」
アーシュ様、テッテ様。そして、私の家が代々祭ってきたネーベル様の三大女神様として教わってきたのだから。
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