第二十三章 休みがなかったら僕は──

 旧正月が近づき、武術大会もついにベスト三十六が決定した。もちろん文官グループと武官グループはそれぞれ三十六人なので、私はまだ三十六試合を見なければならない。


「簡さん、始める前に、特に注目して指定したい試合はありますか?」曉蕾がオープニング前に尋ねた。


 注目か……クライエントに関する試合はほぼ全部見た。文官でも武官でも知り合いがいるので、彼らの戦いだけ見ると不公平に思える……どうせ、私はエンターテイメント効果を評価するので、どちらの花火が輝くに見えたらそれを見てみよう!


「本日の試合を始める前に、先に模範試合で盛り上がりましょう!」司会を務めた唐舞悅の情熱な声が冥府に響き渡った。「私の左側にいるのは──見間違いではありません。彼らは一見生財、天下太平であり、冥府双傑と呼ばれる白黒無常でございます!」


 リングの左側にスポットライトが当たり、白黒無常がリングに立ち、比較的に親切な白無常は観客に挨拶したり投げキスしたりすると、歓声が次から次に聞こえた。黒無常は真顔のまま、観客に向かって軽く頷くだけだった。


「もう一方、この方はすごいぞ!こちらは白黒無常が『助けを必要』なときに助けを求める専門家です。白黒無常に長年仕えている従者──明衡業ミンホンイェでございます!」


『助け』を必要……『引き止め』が必要だろう?明衡業はかつて私に、自分は従者ではなく、白黒無常を引き止める専門職であると不平を言った。いくら給料が高くても彼と仕事を交換する人はいないし、代わりも見つからない。家で休んでも白黒無常が暴走して人間を殴りつけるのではないかと心配する……そして恐怖のあまり、白黒無常の側に戻り、二人を注視する。


 コントロールできない時といえば、白無常の方が多いが、黒無常も一緒にコントロールできない惨劇があったため……二人とも同じ部類にしよう。


「衡業、あなたの友達の一人を協力者として選ぶことができます。あなたは誰かを選びますか?」


 明衡業はほとんど考えずに、私がよく知っている別の名前を言った。


「第六殿の処刑人、明廷深です」


「明廷深様、明廷深様、アナウンスが聞こえましたらリングに上がってください!」


 明廷深は相変わらず臆病な様子で、リングに上がる時に緊張のあまり階段でつまずいてしまい、観客を笑わせた。彼がリングに上がり、簡単な挨拶をした後、すぐに悲しそうな顔で衡業の袖を掴み、「なぜ僕を選んだのか?僕にはめようとしたいだろう!親友なのにこうやって陥れていいのか?」


「しょうがないよ、僕は本当に休みたいんだ」冥府の福利厚生を考えると、休めないのは本当に可哀想だ。


「では、二人は自分の位置に移動してください!ちなみに、模範試合とはいえ、我々の白黒無常は八百長をするつもりはありませんよ!」


 幼い頃から見慣れた白と黒兄さんは、申し訳なさそうに笑いながら彼らの持ち物を上げた。周囲に吹き付ける強い風で服の裾が揺れ、反対側で剣と曲刀を持っている明王朝の武官がはるかに弱そうに見える。冥官たちは白黒無常または二人の武官のどちらを応援したとしても、多かれ少なかれ野次馬している。


 廷深は一定レベルの実力があることはわかっているが、衡業は……。


 しかし、私も観客も一つのことを忘れてしまった。


 明衡業は白黒無常の理性が壊れたとき、殿主が駆けつけて止まらせるまでに二人の冥神を引き止めることができる冥官である。


 そこで司会の鶴の一声で、黒無常は衡業の行動を封じるためにフックチェーンを振り出した。衡業が余裕にそれを避けた後、先ほど悲しそうな顔をしていた処刑人はフックチェーンを引っ込められる前に剣を持って黒無常を刺そうとしたが、頭頂に風圧を感じたので慌てて回避した。彼がさっき踏んだところに、成人と同じくらい高さの火籤が落ちてきた──


 あの令牌れいはいのように見えるものが火籤ホセンと呼ばれることを知ったのは、子供の頃にその名前を本人に尋ねたからだ。しかし、白無常はいつも手に持っているめん棒より少し短い火籤がこんなに大きくなり、こんなにたくさんになるとは知らなかった。


「僕の存在を忘れないで!弟たちよ!」白無常は目を細めた笑顔を見せ、大きな火籤を肩に担ぎ、左手の指と指の間にそれぞれ通常サイズの火籤を挟んだ。チームメンバーが距離を取ったのを見て、衡業は急いでその位置を補填して白無常を攻撃した。廷深も立つポジションを取ってから黒無常と殴り合いをした。リング上、一時的に武器のぶつけ合う光以外に、火籤が放出した煌々とした炎もあった……


「誰がこの模範試合を企画したのかな?」私は顎を支え、リングの周りに咲く豪華な花火を眺めた。衡業が積もり積もった怨念は既に一度彼を怨霊に変えることができるので、上司を殴るチャンスを与えてみるのもいいだろう。


「僕が企画した」突然後ろから宋昱軒の声が聞こえたので、私は驚いてテーブルから転げ落ちそうになった。


「驚かせないでよ!」私は思わず文句を言った。「びっくりして魂が飛んでしまいそうだったわ」


「あなたの魂は曉蕾先輩の手の中にいるから、飛ばされないだろう」今日の試合時間が遅めの処刑人は冗談を言った。「任せてください!私は手に持っているこのロープを大切に扱います」曉蕾ちゃんは隣で元気よく付け加えた。


 曉蕾ちゃんは大先輩なので、宋昱軒と私はその場で固まり、彼女に離れてもらう勇気がなかった。でも、曉蕾ちゃんは二千年間無駄に生きてきたわけではないので、すぐに自分が少し離れる必要があると理解した。


「私はリングの結界を強化しに行きますね。そうしないと、彼らはもうすぐ結界を破壊しそうです」曉蕾ちゃんはロープを宋昱軒の手に置き、飛び跳ねてから体が飛び、リングの横に着陸して施術の準備をした。残されたのは私たち二人だけなので、クライエントのプライバシーが流出されることを恐れなくなった。「なぜそれを企画したの?」と私は尋ねた。


「その時、あなたが拗ねていたので、全てのカウンセリングは中止された。でも衡業のストレスは半端ないから、仕方なく僕のところに来て発散した」


 衡業はあなたのところに行って愚痴を言うのは私のせいなの?でも、私は聞こえないふりをすることにして、「発散しても足りなくて、上司を殴らないと解決できないのか?」と尋ね続けた。


「白黒無常は人間を傷つけていなかったが、二人は人間をとても怖がらせたので、衡業はとても自責した」


「この引き止める専門職は責任を果たしすぎるよね。おそらく衡業はその人間に対して申し訳ない……」


「衡業はその殺人犯に対して申し訳ないと思わない」と宋昱軒は言った。「彼は自分が長い間に白黒無常に仕えているのに、それでも敗北した。自分の能力が二人の上司に追いつかなくて自責し、彼にその任務を委託した殿主に申し訳ないと感じたことだ」


 ……そこまで責任を果たすなんて、衡業、あなたはデスマーチし続けよう!どうせあなたたち冥官は二度と死なないから。しかし、冥官は身体的な健康上の問題がないからこそ、精神的な健康がより重要になる。


「彼の予約を白黒無常と同じ時間にして、グループ療法をするわ」結局は『グループ理学療法』になると思うけど。


 リング上は一対一へと進み、廷深と黑無常は二人とも場外に飛ばされ、残りは曲刀対火籤になる。表面的には有利に見える曲刀を持っているが、衡業はまったく油断せず真剣に対峙した。しかも向かい側の白無常はオープニングのように人の背中が凍り付くような笑顔をしていた。


「僕たちはあなたに対してそんなに厳しいのか?全ての技を痛いところに使うなんて、業ちゃんが僕の心を深く傷つけたね……」


「白黒無常様は良くしてくれて、僕を弟のように可愛がってくれるけど──」


 明衡業は曲刀を振り下ろして腕を容赦なく切りつけそうになり、白無常は優雅に火籤を振り上げて激しい攻撃を止めた。


「でも、僕はもう三百年間休暇を取っていません。俺は本当に……や・す・み・た・いです!」


 自責の問題以外に、衡業の残業問題も解決しなければならない……「昱軒、処刑人は武官中に武術が最強だと言っていたよね?」


 宋昱軒がうなずくと、自分の結末を知っていたようで、死んだ目で私をじっと見つめた。「……佳芬,あなたは根に持つ人じゃないよね?」


 たぶん……ちょっとだけ?


「衡業を一ヶ月休ませるから、あなたは一時的に彼の代わりを務めよう!」


「……はい」


 たった一ヶ月、冥官にとってはあっという間に過ぎてしまうだろう、心配いらない!白黒無常もきっと顔を立ててくれるから、あまり宋昱軒を困らせないだろう!


 結局、衡業は負けた。ぎりぎりに避けた火籤は突然大きくなり、反応できなかった彼をぶっ飛ばせた。


「模範試合の勝者は白黒無常でございます!」白無常は優雅に長い白髪を振り、巨大な火籤を引っ込め、またいつもの腹黒の白無常に戻った。


「それで、三人は最近どうですか?」


「とても良い」


「悪くないと思う!」


「全然ダメです!休みたいです!」


 三人それぞれ一言を言ったが、どれが可哀そうな引き止める専門職が言ったかは明らかだった。


「簡さんに判断していただきたい。僕は一ヶ月の休暇を取るのはひどくないですよね。僕は白黒無常お二人様のために三百年間必死に働きましたよ!白黒無常様に仕えるシフト組む人が欲しくて殿主に申し込んでも許可を降りません。冥府は冥官を大切にしすぎて、僕たちのところに苦難をさせないですよ!でも僕は本当に休みたいですよ!簡さん、ぜひ公正な判断をお願いします!」


 なぜこの会話は、古代劇で庶民が包青天バオチンティエンに愛情を込めて叫んでいるセリフと非常に似ているのか?


 包青天は第五殿にいるから、閻魔大王に公正な判断を求めに行ったらどう?私はただ無資格・無免許の冥府心理カウンセラーだよ!


 私は拳を握り締め、聖水とリーンで加持されたオーブンミトンで白黒無常を両手同時に殴った。「ほら、あなたたちの部下はあなたたちのせいで休みすらできないです!そろそろいい加減しろ!」


 明衡業は激しく頷き、涙声になった。「簡さん、殿主に言ってくださいよ!模範試合をご覧になったでしょう?廷深の実力は悪くないですよね?」


「ダメ!」この候補者について私は直接に否決した。「廷深は自分に自信がなく、決断力を欠けています。白黒無常が誰かを殴る時に、おそらく彼らと一緒にやると思います」


 友人の人柄をよく知っている明衡業は一瞬固まったが、目に涙を浮かべながら同意してうなずいた。


 こいつは本当に可哀想だな……私は注意力を白無常に戻した。「前に教えた方法はどうですか?」


「えっと……ノートは使い切った」


「言い訳ですか?」拳は感情と共動いてしまい、再び白無常の頭を叩いた。「自分で新しいやつを探せないですか?」


「でも……同じデザインのノートが見つからないの」


「あれは大昔のアニメグッズだから!もう生産中止ですよ!」そんな愚かな白無常に対して、私はもう彼を殴る力がない。


「じゃあ、あなたは?どうして最近自分を抑えられずに一緒に殴ったんですか?」


 黒無常は三秒ほど沈黙し、最後にこう答えた。「見てられないから」


 こんなふざけた答えには、何も言う必要がなく、拳を振り上げて叩いてから考えよう!オーブンミトンのルーンに叩かれて痛みを感じた白無常は頭を抱えて私に叫んだ。「佳芬、僕たちも困っているんだよ!冥神なのに冥官のルールを守らないといけない……殿主に止めないでくれってアドバイスしてよ!」


「あなたは文明人ですか?」


「そうだよ」


「だったら、自分をコントロールしなさいよ!」


「佳芬はあの魂の死んだ状態がどれほど悲惨なのか本当に知りたいの?神は天罰を降りることができるが、なぜ僕たち二人はできないの?」白無常はもっともらしく言っていたが、私の白目をしかもらえなかった。


「これはあなたたちの制度面の問題ですけど、私には解決できないだろう!私はたまたま霊視できる小さな人間ですけど!」


 宋昱軒の声が後ろから軽く流れてきた。「この小さな人間が二人の冥神の顔をテーブルの上に抑えて転がしているんですけど」


 私は本当に先見の明があったね。今回のカウンセリングのためにダイニングテーブルの後ろにいくつかの呪文を追加するよう蒼藍に依頼しておいた。


 黒無常はよく私に言い返した。「ううっ、佳芬は幼い頃僕たちをこんな風に扱っていないのに……」


「そうよ、昔『無救お兄ちゃん、必安お兄ちゃん』って呼びながら僕たちの後ろについていたのに……」


「佳芬を悪くしたのはきっと大学のせいだ」


「本当にそれ!」


「二人は、私の『理学療法』の強度が足りないと思っているんですか?蒼藍を呼んできて呪文の効果を強化させようか?」


 白黒無常でさえ、蒼藍の名前を聞くとこれ以上何も言えず、黙るしかできない。私は彼らを許し、椅子にもたれかかって手を組んだ。「あなたたち冥神と冥官の気まずい状況について私はどうすることもできません、ただし──」私は横に干されていた被害者を見つめながら、「あなたの休暇問題を先に解決します。一ヶ月休みたいって言っていましたよね?」と言った。


 明衡業の目には希望という光が輝き、強くうなずいた。


「昱軒が一ヶ月間、あなたの代わりにしてあげます。この一ヶ月休暇の間に、あなたはこの時間を利用して、一緒にシフトを組んで白黒無常に仕える人を探す。昱軒、いつになったら手伝うことができるの?」


「三ヶ月後」


「それで、この三ヶ月間にどこで休日を過ごすってじっくり計画しましょう──どうしたんですか?」明衡業は俯いて、肩を震わせ、突然「わぁ」と叫んで私に抱きついた──一回目の時、魂が凝縮しきれず幽鬼全体が私の体を通りつけてしまったが、二回目彼が振り返ってもう一度私に向かったとき本当に私を抱きしめた。冷たい感触が彼の涙と重なり、私は冬で雨に濡れたような気持ちになった。


「簡さん、優しくしてくれてありがとうございます。たとえ休暇中であっても、あなたの恩を決して忘れません!」


 彼はなんと本当に泣いた!休みが取れるのは感動だけど、こんなに泣く必要があるの?やっと休暇取れた引き止める専門職に強く抱きしめられたとき、私は唖然とする白黒無常を指差した。「昱軒をいじめないで!昱軒、何か悪い兆しが見えたり、止められないと思ったりするとき、私の名前を使ってください!現場に止めに行けなかったとしても、後で彼らにモップを味見させてみせる!」


「はい」


「昱軒先輩がいれば、僕も安心して休めますね!ううっ……」


「佳芬、あなたは僕たちにとても残酷だね!彼は宋昱軒だぞ……」


「僕はどうかしましたか?」


 宋昱軒と白黒無常はすぐに視線を交わし、沈黙の会話を進んだ。最後、白無常は下唇をきつく噛み、全ての抗議を飲み込んだ。黒無常は「業ちゃんの休暇期間中、僕たちは自制する」と敗北を認めるかのように言った。


 あなたたちは普段から自制すべきだろう!



明衡業

主訴:責任感が強すぎることによる過労

処置:アシスタントの宋昱軒に一ヶ月間代わりに行ってもらい、その間クライエントは交代で一緒にやってくれる人選を探してもらうこと

備考:根本的には、やはり白黒無常側から治療する必要

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