第二十章 第三種接近遭遇

「珍しいですね、佳芬、今日は私たちと一緒に夜食を食べに行くなんて!」


「いつも準夜勤が終わったらすぐに消えますけどね、これはおそらく……佳芬は救急外来に来てどれくらいですか?」


「三年です」つい最近三年が経つことになった。


「三年間初めてですよね!後で赤い雨が降っても驚かないよ!」


 以前はいつも急いで帰宅して心理カウンセリングをやるので、同僚と夜食を食べに行くことはなかった。三年間働いている私は、ここに来て一年も経っていない楊育玟後輩に比べると、皆のことに詳しくないかもしれない。幸いなことに、私は職場では親しみやすい人物なので、付き合いにくいという評価をされることはなかった。


 冥官とずっと一緒にいるよりも、私はもっと時間をかけて『人間』と付き合うべきかもしれない。


「先輩、メニューです」優しい後輩が私にメニューを渡してくれた。実はお腹が空いていないので、ダンピン一つを注文すれば十分だ。


 皆は仕事や噂話など取り留めのない話をしており、普段ナースステーションで小さい声でこぼした愚痴と似たような内容だった。ただいつもより遠慮なく言っており……しかも食べ物付きだった。


 この人たちは私が霊視できることを知らないので、もしかしたら本当に友達になれるかもしれない……


 ……しかし、どうやって話題に入ればよいのかわからなかった。彼らの話題に合わせて笑うことはできるが、距離感を感じていた。冥官と一緒にいるときはそう思わないけど。


 私は人間なのに……


「ナースステーションから電話があり、ナースカートにスマホが忘れる人がいるらしいです。今鳴っています。黒色です」


「私のじゃないです」


「私のはここにあります」


「……私のです」私は死んだ目でスマホのないバッグを見つめながら言った。


 重要な電話ではないことを望むが、今私に電話する人はあまりいないはずよね?誰だかわからないが……おそらく広告電話でしょうね?ナースステーションにスマホを忘れたことは、ちょっとどう対処したらいいかわからない夜食会から離れる言い訳を与えてくれた。


 今日深夜勤の緊急救命室は比較的に空いている。今日のエリア担当者は皆大丈夫そうで事故が発生していない。パイナップルを食べる同僚もおらず、体質の悪い同僚も正常発揮していないよう……


「こんにちは、スマホを取りに来ました」


「あなたは本当にすごいですね。スマホをナースカートに置いて忘れてしまったって、仕事中にこっそりスマホをいじっていませんか?」


「いやいや」仕事中にスマホをいじったことを認めるのは不可能でしょう。私はすぐに話題を変えた。「十一番のベッドに横たわっている人の診断はとても深刻そうに見えますね!なぜ手術室または集中治療室に送られてなかったのですか?」


「ああ、彼はもうすぐ退院しますよ」


「退院?!」自分の声はあまりにもうるさかったことに気づき、慌てて声を低くして看護師の先輩に確認した。「ホウ医師は頭蓋骨、顔の骨、肋骨骨折、気胸、ふくらはぎの開放骨折など書いていますよね?これを見なくても、脳出血だけで彼を直接に手術室に送らせないといけないですよね?」


 研修医のホウシァオルゥンは私たちの会話を聞いた後、顔を上げずにこう言った。「信じて、我々は何度も勧告しました。治療を受けなければいつでも命の危険がありますってはっきりと伝えましたが、彼は聞く耳を持たないです」


 ……しかもまるで患者に語りかけるようにわざと大声で話した。


 ある男性が突然寄ってきて、「すみませんが、退院の際に署名する書類は印刷されましたか?」と丁寧に尋ねた。


「本当に友達を説得しないですか?」侯医師は口酸っぱくなるほど再び尋ねた。「彼が今病院から出ると──はっきり言うと──数日後に死ぬかもしれません。後で後悔しても、長期介護の問題に直面しなければなりません」


「大丈夫です。友達の家は入院や治療させるお金がありません──」


「当院では分割払いも受け入れておりますし、社会福祉機関への紹介も行っております……」


「本当に大丈夫です。もう退院したいです」


 先輩はそっとため息をつき、少し嫌そうに声明書を取り出した。男はすぐに書類たちを受け取り、戻すときにすでに重度の外傷患者が震える手で書いたサインがあった。それをテーブルに置いた瞬間、男性は振り向いて患者を起き上がるのを手伝った。


「何を急いでいるんだよ。生まれ変わりに行くの?」侯医師は低い声でつぶやいたが、私たちにしか聞こえない音量だった。


「血に汚さないように制服を持ってあげるよ」


「あり……がとう……」患者は傷口をできるだけ触らないように慎重に病院のベッドから車椅子に移った。しかし、重傷を負った患者にとって、この行為は非常に困難であり、あんなに怪我をしても起きて歩けるというのは、心の底から感心するしかない。


「彼はどうして怪我をしたのですか?」私は尋ねずにいられなかった。


「わかりません、彼は道端で意識を失っているのを発見され、ここに運ばれてきました。おそらく建物から転落しましたよね。現場にガラスや他の車両の欠片は見られなかったと救急隊が言いました……」


 患者の友人はベッドからコートを取り、コートが垂れ下がり、その全貌が目の前に現れた──


 紺色のロングコートだった。


 詠詩が消散した時の緑の光は再び私の目の前に現れたように見えて、私の心臓は止まりそうになった。無意識のうちに、私は自分の体に一番近くにある支えになれる物をぎゅっと握りしめた──


「佳芬?」


 あの紺色のコートがさらに近づいてきた。こんなに近くなると今まで気に留めていなかった細部が見えてきた。例えば、その紺色のコートには、もう少し明るい刺繍糸で複雑な模様を入れているほか、襟にはさまざまなスタイルのバッジが取り付けられており、袖の折り返し、左胸ポケットには鷲の模様が入れているなど……


 彼らは私の視線から離れようとしている、追いつくか?ついていくか?


「佳芬、顔色が悪いですけど、大丈夫ですか?」


 周りの音は私から遠く離れているようで、ただ大きな騒音のように聞こえた。しかし、その騒音に紺色の長いコートを持っている男が振り向いて来て、彼の鋭い目は私の目に合わせた。


 隔離された時に戻ったかのように息が詰まり、私はもがきたくて、内境関係者たちに怒鳴りたかったが、蛇に見つめられているカエルのように動くことができなかった……


「……呆然となった?変なことをしていないですよね?」


「僕がイケメンすぎるから見惚れてしまったじゃない?」


「よく言うよ」


 二人はどうでもよく私の視界を去り、彼らが立ち去った後、私の足の力が抜けてしまい、尻もちをついていて茫然と彼女の名前を呟いた──


「詠詩……」


「佳芬、一体どうしたの?今あなたの状態はちょっと怖いのよ──えっ?」


 しゃがんで私の様子を確認する先輩に抱きつき、私は子供のように泣き続けた。


 私は冥府の心理カウンセラー・簡佳芬だ。冥官が生活、仕事、人間関係で悩みを抱えた時は私のところに来る。


 ──じゃあ、私は心理的なサポートが必要な時、誰のところに行けばいいのでしょうか?


「……もしもし?」


「お姉さん?」電話の向こうから聞き慣れた男性の声が聞こえるから、また泣きたくなった。


「今時間がある?」


「ちょっと待って……」電話の向こうの男性が遠くに叫んだ。「お母さん、コンビニに行ってくるよ!」


「今は大丈夫」電話の向こうがうるさくなり、おそらく道路の脇に立って私と話しているはずだった……毎回私と電話すると冷たい風を浴びないといけないので彼にも辛い思いをさせてしまった。


「お姉さん、最近どう?」


「よくない」私は一言を返事してから、唐詠詩についてあれこれと全部喋った。相手は私が冥府、冥官という言葉を言ったときも、口を挟まずにただ黙って聞いていた。


「それで、私はどうしたらいいと思う?」


「あなたが何をしたらいいかわかるわけがないよ……」


 そうだよね。弟から建設的な意見が聞けるとは思ったことがない。


 私はため息をつき、質問を変えた。「お父さんとお母さんは最近元気?」


「元気だよ。何も問題ない」弟はしばらくためらった後、言いつらそうに口を開いた。「お姉さん、本当に家に帰って見てもいいのに」


「いらない」


「はあ……わかった」


 私の弟はこんな感じで、他人を問い詰めないので、話し相手にはとても向いている。


「でもお姉さん、冥府で起こったことはとても危なそうに聞こえる!お姉さんは怪我をしないように気を付けてね!」


 怪我をしないように……周りの人達は私が怪我することを恐れているようだ。私はガラスで作られたわけではないのに。


「ガラスで作られたじゃないけど、それでもお姉さんは生身なので、あなたが傷つくことを誰も見たくないよ」


「城隍」私は挨拶として軽くうなずき、リュックの中に入れた一列のヤクルトを渡した。「全部聞いてたね」


「僕の管轄内にいるので、聞こえないふりはできないでしょう?」城隍はヤクルトを開け、ゆっくりと味わい始めた。彼は私の知り合いの中に唯一お茶を飲むのと同じくらい優雅にヤクルトを飲むことができる人──幽鬼である。「僕たちに文句があっても、悩みがあると城隍廟に来る習慣は今でも変わらないね」


「じゃあ、帰るわ」


「待ってよ!ヤクルトをただで飲むわけにはいかないよ」城隍が私の服を掴んだので、私は石の椅子に戻るしかない。「黒無常に会いに来たじゃないの?彼に伝えたよ。後で来るからここでちょっと待ってね!」


 話が終わると、城隍は一列のヤクルトを持って姿を消し、夜の城隍廟の奥に私一人を残した。日中は賑やかで信者がたくさん来る城隍廟が夜になるとほんのりと光るだけ……


「なぜ突然僕を指名した?」真っ黒の官服を着ている方が私の前に現れ、白無常と同じ形の黒い官帽を持っており、そこに『天下太平』と書かれていた。「必安はどうしたの?」


「白無常とは何の関係もない。白無常は何があるときだけあなたのところに来るわけじゃないよ。たまには昔のようにおしゃべりしてもダメなの?」


「いいけど、佳芬が田舎を出て以来、僕たちがこのように話すことはめったにないようだ」黒無常は警戒が解けて私の隣に座った。私たちはしばらく沈黙していたが、最初に沈黙を破ったのは黒無常のほうだった。「雅棠から聞いたけど……唐詠詩の事は残念だ」


「残念って……あなたたちも生者が使うような言い方も使うの?」


「僕と必安が最も頻繁に現れる時点は人が死んだ直後じゃないか?いつも耳にしている言葉なので自然に使うようになった」黒無常は嫌な顔をせず説明してくれた。「今日僕に会いに来た理由は、唐詠詩のことのためなの?」


「フルネームで呼ぶのか……詠詩と面識ないの?」


「面識ないけど、冥官の消散を聞くたびに僕たちはいつも感慨深い」


 悲しいのではなく、つらいでもなく、感慨深い?


「僕もたまに思うけど……消散も安らかに眠ることの一つではないか?」


「あなたたちも、安らかに眠りたいと思うの?」


「当たり前よ!」黒無常は怪訝そうに眉をひそめた。「人間は百年生きるだけで面倒くさくなるけど、僕たちをどう思う?」


 冥官には長い時間があるが、彼らはこんな長い時間はどうやって過ごしているか?


「幸い人間界はいつも僕たちを驚かせてくれる。そうでなければ、僕たちはこの時間を耐えることができないよ」黒無常の話の内容はとても優しいが、その笑顔のないまじめな外見と相まって、その言葉には温もりが感じられなかった。「人間界は時々、僕たちを悩ませるけどね」


「私もあなたたちを悩ませたの?」生者の私はこう尋ねた。


「自分はどう思う?」


 私は笑った。おそらく最近珍しく心からの笑顔かもしれない。「いいね!とても良いカウンセリングだったよ。別の考え方で私に詠詩の消散を考えさせたんだよ。冥府があなたを心理カウンセラーにしても悪くないよ!」


「僕?」黒無常は大声で何度も笑った。「僕のような凶悪なやつに相談する方はいないだろう。外見を変えたとしても、僕の黒顔のイメージはとても有名だよ!」


 そうかもしれない……黒無常は白無常ほど背が高くなく、体も白無常ほど細長くない。全身黒で顔が怖くて悪党(それでもかっこいい悪党だ。知っている通りに冥官はすべて美男美女である)に見えるかもしれない。しかも白無常を躾ける冷酷なキャラーなので、冥官は多かれ少なかれ彼を怖がっている。そのイメージは根強く定着しており、それを変えることがおそらく難しい。でも、私は黒無常と知り合った時、彼らの伝説を真面目に読んでいなかったので、私にとって彼は隣のお兄さんのようだ……しかも妹を甘やかすような超良いお兄さんである。


「あのね、無救ウンジョー兄ちゃん、あなたは決して私に嘘つかないよね?」


「……こうやって僕を呼んだとき大体いいことがない」


「──内境と冥府の間に何が起こっているのか教えてくれる?」


 黒無常は話すかどうか思案しているかのように、私をちらっと見た。


「……どこから始めるか?」


「やっぱり、無救兄ちゃんが私に対して一番優しい!」まだ情報を入手していないけど、まず甘えてから話そう!私は、「どうして内境が冥官を狩るのか知りたい」と問い続けた。


 誰も説明してくれないし、蒼藍は私に彼と関係者の会話を聞かせないように私を気絶させることさえした。それなら私は他の人に聞くのだ!


「それか……冥官が人を傷つけることは大きなタブーだということは知っているよね?」


「知っているよ!」清慕希の事件の後、私はさらにそう感じた。


「じゃあ、正当防衛はカウントされないことも知っているよね?」私がうなずいているのを見て、黒無常は言い続けた。「約百年前に、ある冥官は正当防衛で誤って内境関係者を殺した」


「正当防衛だから……」


「正当防衛なので、冥府は責任を取らせなかった。内境はあの冥官を引き渡すように我々に要求したが、我々はそうしたくなかった……その冥官が誰なのかわからない。その事は本当かどうかですらわからない」


 内境は冥府に濡れ衣を着せたいが、冥府はそれが自分たちには関係ないと考えていたので、責任を負う気はなかった。


「内境関係者でも、その魂は殿主の審判を受けたのだろう?それなら--」


「そこが問題だ。当時殿主はそのような内境関係者を審判していなかったよ--どう考えてもそれは内境が我々を嫌っていたので、汚名を着せただけだ。冥府はいかなる魂を逃す事を許さない。審判を受けて孟婆湯を飲ませてから輪廻に入る事が絶対なので、殿主の審判を逃げられる魂がいるわけがない」黒無常は仕方なく言った。「それで内境は冥官の存在が危険視されている。百年後の今は、現在の『冥官を狩る活動』へと発展した」


「この件はせいぜい導火線に過ぎなかった。僕が黒無常になって以来、内境と冥府の関係は良くなったことがない。ずっと恐怖の均衡が続く--」黒無常の言葉は私の耳に響いた。黒無常を送り出したとしても、苦労して得た情報が蒼藍に消されないように、私は城隍廟に三十分留まっていた。


 私は左右確認し、デブオタク高校生が交差点で私を待っていないことを確認してから安心して城隍廟の範囲から離れた。道中は気持ちがとてもリラックスできて、やっぱり黒無常に会ったのは正しい選択だった--


「さっきと全く違って、今はご機嫌が良さそうですね」


 私は唖然とし、しばらくその声がどこから聞こえているのかわからなかった。過去の経験によって左右を見て声の発生源を探さないようにしなければならず、そうしないと亡霊を見る可能性が非常に高い。


 でも今回は亡霊ではなく人間だと思う。


 斜め前方の街灯の下で人影が動いた。彼は優雅な足取りでこちらに向かってきて、私は反射的にリュックサックからスマホを探そうとしていたが、どう探しても見つからなかった。


「これをお探しですか?」彼は手にはスマホを持っており、それにぶら下がっているストラップが私の携帯と同じ……今になって初めて、なぜ彼を見た覚えがあると思い出した。


 彼は私が緊急救命室で出会ったばかりの内境関係者の一人だった。


「あなたの表情を見ると、僕は誰であるかを思い出したようですね。さらに僕は誰であるかを知っていますね」彼は普通に私に話しかけているかのように何気なく言ったが、私の硬直した体が伝わる身体言語は答えを明らかにしたに違いない。彼はすまなさそうに「申し訳ないですが、僕の友人は重傷なので、先に治療師のところに連れて行かないといけません。仕方なくあなたを放っておきました」と言った。


 彼の言葉遣いがどんなに上品であっても、彼は憎むべき内境関係者で、詠詩を消滅させた野郎と同じギャングである事を私に忘れさせることはできない。


「何を言っているのかわかりません」最後までとぼけてやる!冥官に関する情報は絶対に漏らさない!


「そんなに警戒しなくてもいいです。あなたを傷つけたりはしませんので──」


 でも、あなたは私の友達を傷つける事をするでしょう、さらに私も傷つける事もするかもしれない。


 城隍、どこにいるの?早く現れて私を助けてよ!


「──ただ、あなたは亡霊が見えるということは、日常生活が大変だろうと思っています。特にあなたは自衛能力が全くありませんから……これは僕の連絡先です。何か困った事があれば、僕はあなたを助けます」私は憑依されたようにその名刺を受け取り、名刺には『イー』という苗字と電話番号しか書かれていなかった。


「質問がありましたら今聞いてもいいですよ」


「私に何をしたいんですか?」私は恐る恐ると尋ねた。突然現れた不審者が報酬を求めずに助けたいと言うなんて、どう考えてもおかしいよ!


「それはね……」彼は謎めいた笑みを浮かべて、「もしかしたら、あなたは僕が探している女性かもしれないと思っています」と言った。


 はあ?


 彼はもう一歩前に進み、私から腕一本しか離れていないところまで近づいてきて、あまりにも近い距離で私は怖くなって振り返って逃げた。不意に男に手首を掴まれ、突然の衝撃で私は地面に顔を向いて転びそうになった。彼は慌ててもう一方の手で私の腰を支え、私がずっこけずに済んだ。


 私、私は……セクハラで訴えるよ!私はセクハラされたよ!


 しっかり立った後、私は振り返ってまずパンチをしたが、残念ながら相手に止められ、さらにスマホを私のコートのポケットに戻してくれた。


「よし、元の持ち主に返しました」彼は礼儀正しく言った。「もう帰っていいですよ!気をつけてお帰りください」


 私が最も気をつけなければならないのはあなただよ!突然突風が吹いて私は目を閉じてしまい、再び目を開けるとその人は消えてしまった。


 ふん、ベタだね!


 そういえば私のスマホ……変な魔法がかけられてしまったのでは?まず蒼藍に確認してもらう必要がある?いや、テレキネシスができるから、魔法をかけるなら何も言わずにかけられるし、わざわざ私の前に出して見せる必要がない。しかも、追跡または監視類の魔法なら、突然魔法が中断されるのは逆に怪しい……


 自分を安心させるため、私は向きを変えて城隍廟に戻る事に決めた。三本の線香に火をつけて心の中で話した。


「城隍、さっき私は内境関係者に出会った。私が魔法にかけられているかどうかを確認してくれる?次に来るときは、ヤクルトだけでなく、プリンも持ってきて城隍お爺さんに味わってもらうよ」


「あなたが言ったよね!今度は忘れずに持ってきてね!」食べ物があると聞いた城隍は、真面目に私の頭からつめ先までに確認し、きちんと確認してから私を帰らせた。


「プリンだけじゃなく、ヨーグルトも欲しい!」


 はい、はい。確認してくれたので報酬をあげるのは当然のことだ。私からのお供え物を受け取った城隍はとても喜んで助けてくれる。


 冥府とのやりとりはとても簡単だった。


 少なくとも当時の私はそう思っていた。

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