第十五章 重要なポイントは、メモを取ってマークをして、そして口に出すことを忘れないで
「それでは、早速始めましょう!」相談小屋に入るとすぐに、患者を呼ぶように宋昱軒に頼んだ。間も無く、丁寧にドアをノックする音がした。
「あの……すみません……」
「ここにお座りください」この命令口調を普通患者に使ったら間違いなく死ぬほどクレームが来るが、冥官たちは私の性格について大体聞いたことがあり、その上で私にクレームを入れる勇気がある冥官はおそらくいないはずだ。
「初めてですよね?名前は?」
「
「昱軒、あなたの同期だね」私は思わずこう言った。
「いいえ、いいえ、昱軒先輩は僕たちよりずっと早いので、昱軒先輩と比べ物になりません」文官のローブを着ている宋思年は手を振り、慌てて言った。
どうしてそんなに怯えているように見えるの?でも、宋昱軒は冥官の間で評判が良く、確かな実力を持っていると言われており、冥官たちは彼のことを大体尊敬している。
本日のテーマに切り込み、まず定番の質問から始めよう。「今日はどうされましたか?」
「実は、僕が仕える部門は、現世の子孫から受刑亡霊への供物を分配する仕事を担当しています。仕事のため、冥銭を受け取る亡霊経理部と頻繁に連絡を取り合っています。」
私の困惑した表情を見て、宋昱軒は自発的に説明してくれた。「子孫が先祖を祀る時に、冥銭、紙製品、食べ物などの供物がある。これらは全て供物部または経理部が代わりに受け取り、両替を行い、そして受刑亡霊たちに分配するんだよ」
「両替?」
「人間界の冥銭の種類が多すぎるので、冥府共通の為替レートに再計算するんだよ」
「え、先祖は私たちが燃やした金額をそのまま全額を受け取るんじゃないんだ」
「冥銭にゼロがどれくらいあるか見たことある?」宋昱軒の聞き返しには一瞬反論できなかった。
そうだよね……
そうじゃないと、あのインフレ率はすごく怖いよね。
これで紹介は終わりだ。私は宋思年を見ることで、話を続けるように示した。
「最近……」冥官は少しためらうように宋昱軒を見て、話はここで止まった。
「クライエントの情報は全て機密情報で、誰にも開示しないのでご安心ください」無免許のカウンセラーとはいえ、最も基本的な職業論理は持っている。宋昱軒の口も堅いので心配する必要がない。
「……うちの部長と亡霊経理部の部長が対立しており……だから両方の部下とも八つ当たりされています……」
ああ……このようなカウンセリングなんだ。たまに私は自分が純粋な心理カウンセラーではなく、まるで便利屋と思っていた。看板のカウンセリングという言葉をもっとわかりやすいように書くべきか?それとも看板を見ても理解していない冥官を追い出し、中国語をもっと勉強して来いと言うべきか?どうせ冥官はすでに死んでいて、再び死ぬことはないので、勉強する時間はたくさんあるでしょう。
「どんな悩みを抱えているのか、もう少しわかりやすく説明してもらえますか?」
「えっと……」宋思年の目はキョロキョロして、ぎこちない態度であった。
長いカウンセリングになりそうな予感がした。
「えっと、僕たちは実はそこそこ仲が良くて、一緒に食事をしたり、一緒に社員旅行をしたりしていましたが、部長の関係で、僕たちの人間関係は多くの影響を受けています……」
私のようなベテランは、これは主な理由ではないことをもちろん知っている。彼に続けるように示した。
「元々仕事においてはとても良い協力関係を築いていましたが、今も上司の関係で仕事の進捗も影響を受けて……」
うーん……でも、冥官は死なないし、寝る必要もない。仕事の進捗に影響が出て機嫌が悪いというのは、正直納得がいかない。
私は彼を見つめ続け、彼が口ごもりながら、「……僕が好きな女の子が亡霊会計部にいて、もうすぐ行けそうなのに、両方の部長がギスギスしているので彼女を誘うことができなくなって……」
これが主な悩みだよね!
「坊ちゃんよ」私は冥官の肩に手を起き、意味深に呼びかけた。冥官を『坊ちゃん』と呼ぶのは、老若や年齢が全く合わないのだが、冥官は誰も私を指摘しない。「恋人の座は勝ち取るものなんですよ。困難が多いほど、成功した時の達成感が高くなりますよ」
「でも……」
「でも何?これくらいの困難は大したことないでしょ?冥官って親からの反対、身分の差、血縁問題などは無いんだから、追いかけたらいいじゃないですか?」
こう言ってから気がついたのだが、冥官の恋愛はなんと自由なのだろう!
「両部長間の問題の解決方法を探るように同僚に頼まれたんですけど……」
「……じゃあ、その二人の部長に来てもらおう!」
「佳芬、」宋昱軒が私の名前を呼び、優しい声で、「彼らは本当に悩んでるよ」と思い出させてくれた。
「でも──」
「彼らが部長を捕まえてあなたに会わせることは不可能だ。せめて彼らの部長たちが元々問題がなかったのに、突然不仲になった原因を聞いてみては?」
「……すみません、続けましょう」よく冥官を追い出したり『理学療法』を使ったりするとはいえ、さっきは自分がカウンセリングにうんざりして、しかもその気持ちを発散してしまった。
落ち着いた後、宋昱軒の言ったことは確かだと思った。冥官は死なないし、定年もないので、異動でない限り、元々は仲がよかったのにどうして急に不仲になったのか?
「……発端は、うちの部長とあちらの部長が家族ぐるみで食事に行って、うちの部長が酔っ払ってあちらの部長の奥さんをからかったようです……」
この理由を話すと宋思年ですら罪悪感を覚えたようだった。私は赤面して被害者を見て……
どうやって解決方法を考えてあげるの?それは完全にあなたの上司のせいだぞ!怒りを発散するためおたくの部長を捕まえて来て手を切ってあげるよ──
「でも、うちの部長は女ですよ!それに、普段から亡霊経理部部長の奥さんとは仲良しなんですけど、ただその日は酔っ払ってふざけすぎたけです。両方の部下は全員その場にいたんですよ!」
くそっ、物事はもっと複雑になった!これは浮気の問題ではなく、亡霊経理部の部長は嫉妬しやすいと言う問題だろう!
「あなたたちの所謂『ふざけすぎた』というのを具体的に教えてもらえる?」
「えっと……二人で剣戟を始めて……」
「それで?」酒飲んだ後で互いを磨き合うだけなら大丈夫そうだけど?
「──うちの部長があちらの部長の奥さんの顔に傷をつけてしまいました……」
さっきの私がとてもうんざりしていたと言うなら、今は目の前にいるこの冥官をドアの外に投げ捨てたいくらいの気持ちになった。
重要なポイントを早く教えてくれないか?一周回ってやっと重要なポイントに辿り着いたのは何なんだ!くそっ、毎日仕事で自分はどこが具合悪いのかわからなく、帰宅するように救急外来に来る患者にたくさん会っているが、心理カウンセリングでもこのような人──冥官と付き合わないといけないのはどういうこと?
私はテーブルの上のお茶を酒のように一気に飲み、カープを勢いよくテーブルの上にガーンと置いた。今回は宋昱軒でさえ、介入して私を落ち着かせようとはできなかった。
「おたくの部長があちらの部長の奥さんの顔に傷をつけた後は?」私は話がまだまだ続く予感がした。
「……そしてあちらの部長はうちの部長と喧嘩をしました」
「最後に勝ったのは?」
「うーん……僕たちがそれぞれの部長を引き離したので、勝者はいないと思いますけど?」
本当にため息をつきたい!
私は話を聞き出すための(無免許)心理カウンセラーだが、このように相手の話を促すのは心が疲れる……
「それで、両方の部長はギスギスした関係になったんですか?」
宋思年は下を向いてしばらく考えた後、口を開いた。「ギスギスというより……お互いに申し訳ないと思うのに、その思いを素直に言葉にできないって感じですかね?」
ここまで聞いて、私はカルテの最初にある『主訴』という欄にこのクライエントが私のところに来た理由を書いた。面子第一の部長二人が謝らないため、部下に波及し、そのせいでクライエントは彼女を追うことができずに困っている。
「佳芬、どうするつもり?」宋昱軒はこのようなケースが難しすぎるのではないかと心配しているかのように、眉をひそめた。
「簡単だ!」私は何も考えずにこのクライエントの処置を書いた。「宋思年が言ったのが本当の理由かどうかはどうでもいい……まずその二人の冥官に殴り合ってもらおう!」
ずっとそうしたかったよ!上司たちの不仲は部下と何の関係も無いだろう!全ての不満と憎しみを解決するために、二人を閉じ込めて殴り合ってもらうのが一番早いんだよ!部下は一番可哀想なんだからいじめないでくれ!
–
宋思年
主訴:面子第一の部長二人が謝らないため、部下に波及し、そのせいでクライエントは彼女を追うことができずに困っていること。
処置:両部長に殴り合ってもらうこと!
–
これを書いた後、私は顔を上げて私のアシスタントちゃんに尋ねた。「問題を解決するために殴り合ってもらわないといけないクライエントはまだたくさんいるの?」
宋昱軒は細かく数え始めた。「夫婦の不仲、友達同士の誤解、部下が上司への不満……似たようなクライエントは十数件あるだろう」
それを聞いた私は、両手を合わせて非常に喜んで言った。
「それじゃあ、みんなで殴り合って貰おう!」
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