第十四章 ゴミの分別はみんなの責任

 私は外出が嫌いだと言ったはずだよね。


 しかし、雅棠がわざわざ私の家にきて、最近さまよう魂や怨霊が急増していることを調査するための同行依頼されたとき、私は断ることができなかった。


「私は霊能探偵じゃないですよ!」 私が抗議したとき、雅棠はすでに私を家から引きずり出していた。


 ちなみに、今の雅棠は一般人でも見える状態で、冥官はこの状態にしか実体が持っていないので、私を家から外へ連れだすことができた。


「ただ生者が同行してくれればいいよ、内境の過激派に遭遇したくないですから。そばに生者の息があればレベルが低い新人は騙せるだろう」


 内境の過激派とは……おそらく蒼藍が言った『冥官と怨霊の区別がつかない目が節穴の奴ら』でしょうね?蒼藍はデブオタク道士で、表面上は内境の管轄下にあるように見えるが、内境に言及するたびに、彼は冥官と同じようにうんざりした表情をしていた。


 理由は単純で、内境は理不尽な連中の集まりだからだ。


「彼らに尋ねられたら、何と答えればいい?あなたは私の守護霊ですか?」


「それでもいいですよ!」現代のカジュアルな服を着用している雅棠はこの偽装身分を快く受け止めた。私たちは道を歩く普通の女性のように見える。「だって、あなたの守護霊になれたら嬉しいです」


「嫌です。大人しく道案内してください!」


「私を嫌なんですか?」雅棠は叫んだ。「私は『晉』ですよ!唐、宋、元、明、清の者よりもはるかに強いの!冥府で晉王朝の者を守護霊にするのは非常に難しいですよ!」


「別に守護霊を頼まなくても、あなたたちの大ボスは無理矢理につけてくれるのよ!」この頃ずっとそばにいた宋昱軒のことを考えると白目をむきたくなる。幸いに昱軒は最近本職に戻り、相談小屋以外ではあまり会わず、人間界に現れる回数もだいぶ減った。そうでなければ、いつか我慢できなくなり、箒と聖水で彼を追い払ってしまうかもしれない。


 冥官との付き添いなので、時間帯はもちろん夜だ。雅棠が連れて行く道はどんどん遠くなって行き、途中でバスにも乗っていたので、「一体どこへ行くの?」と思わず聞いた。


「知らない」


「じゃあ、何でそんな僻地に連れてきたのよ!」ここまで来るのは疲れるよ!


「ただ怨念の方向へ向かっているんですけど。私たちの領域から伸びてきてる……」雅棠は星のない空を指して言った。「見えるかしら?空気中に暗赤色の気流が漂っていて、しかもどんどん濃くなっていく……」


 虛空を必死に見つめていたが、暗赤色の気流は全然見えず、逆に黄色の閃光が見えた。


 閃光?


「チクショウ、本当に会っちゃったんだ!」


「なに──」突然、雅棠がいきなり私を地面に飛びかかった。私たちが立っていた場所に雷が落ち、落雷が床に広がったが、電流は雅棠と彼女に守られていた私を避けた。


「クソ野郎、雷術を使うということはあなたまで殺すつもりだ!」雅棠の手に突然漆黒の長鞭が現れ、彼女は勢いよく振り、私を押しのけ、空に向かって叫んだ。「私は勤務中の冥官です!怨霊ではありません!」


 戦争が始まろうとしているのを見て、私みたいなポンコツは隅っこで自分のマスクをちゃんと着用しているかを確認し、パーカーを脱いで頭を覆い、見られないようにするしかできなかった。


 顔を見られたら今後やばいよ……


 雅棠の大声は逆にもう一度の落雷をもたらした。彼女は長鞭を振り、稲妻が撃ち飛ばされて空中に霧散した。息をつく隙も与えないような猛烈な雷撃に対し、雅棠は難なく応対した。そして、この攻撃が完全にかわされる前に、紺色の人影が雷の間に隠れ、手に持った短銃が魔法陣のようなものを動かし、彼は引き金を引いた──


「雅棠!」私は叫んだ。銃声は耳をつんざくような雷鳴に呑まれ、飛び散る砂と石が落ちた後、雅棠が薄い陰気で自分を守っており、無傷でいるのが見えた。。長鞭の攻撃範囲に踏み込んだにもかかわらず、目標を殺せなかったのを見て、紺色の人影は慌てて距離を置いた。


 目が節穴である内境関係者にはっきり見せるため、雅棠の服が変わった。簡単に下ろした長い髪を巻き上げ、現代のカジュアルな服装から道案内人の白黒のシャツとタイトスカートの制服に変わり、襟の辺に暗赤色のスカーフを巻き、礼儀の正しい印象を与える黒いハイヒールを履いていた。


 私に言わせると、このオフィスレディの格好は、前のTシャツとジーンズよりも間違いなくはるかに不便だ。しかし、この時の雅棠の勢いはどう見ても向こうの内境関係者より二倍高いのだ。


 雅棠は長鞭を『パチン』と大きく振った。「目にうんこがついた盲人よ、はっきり見てくれ!私は冥官だ!」


 雅棠よ、言霊恐るべし……まあ、いいか。彼女は内境関係者に会うたびにこうなる。悪口を言いながら言葉使いは汚いが、もう慣れている。


「あの凡人に近寄るな!冥官の制服を着ているだけで、冥官だと信じると思うのか?」無風の状況で、紺色のロングコートがはためき、手に持っている二丁の拳銃をクロスし、いつでも攻撃できるように準備できたようだ。


「怨霊は意味のある言葉を言わない」雅棠はまた怨霊と冥官の最も大きな違いをあげた。存外、反対側の紺色のコートを着た男が止まる気配が全くなく、銃をあけて怒鳴った。「たとえ百人を誤って殺しても,一つを見逃してはいけない!」


 左手の銃を空に向けて発砲したが、なにも起こらなかった……


 ふと、地面で魔法陣が動き出し、私はその端にいた。アニメをよく見ている私は、用心深く魔法陣から離れ、うつ伏せになり頭を守る動作までした。魔法陣の中心にいる雅棠がこちらを一瞥し、私が魔法陣を離れたのを見て安堵したようで、すぐに長鞭を振り回して内境関係者を襲った。


 魔法陣はゆっくりと回転している、おそらく全速ではないだろう。ただし一般人である私には、これが何に使われるのかまったくわからず、ただいくつかの円とたくさんミミズのような記号で構成されるテキストのように見えた。しかし、それが何であれ、良いことではないとわかっている。何故ならば、雅棠が低い唸り声で「愚か者が」と言い、内境関係者の銃を弾き飛ばした後、不安そうに空を見上げた。


「気を散らしている場合じゃないぞ!」内境関係者は虚空からまた二丁の短銃を引き出した──この魔法はいいな!これがあればもうリュックを持ち歩く必要はないね──人差し指二本でもう一度引くと、二つの魔法陣が現れ、それは飛び出す弾丸だった。雅棠の長鞭がますます切迫し、攻撃もどんどん激しくなってきていると感じられる──


 まあ、正直に言うと、見ても理解できない。最初は長鞭が見えたが、今は影しか見えない。


 長鞭は内境関係者の手首に巻きつけられ、黒気が雅棠の手から内境関係者に伝わった。内境関係者の足がすくんで地面に倒れ、魔法陣も消えてしまった。


 だから……こんな大きな魔法陣は何のためだったの?


 突然、背筋に悪寒が走った。寒気の源に目を向けると、近くの茂みに真っ赤な怨霊が横たわって私を見つめていた。


「雅棠──」


 しかし、雅棠も突然彼女の側に現れたいくつかの怨霊と戦っている。


 そんなに多くの怨霊はどこから来たのだろう!


「彼に引き寄せられたんだ」雅棠は鞭を一振りして彼女に向かって駆けつけた怨霊の口をぐじゃぐじゃにした。「近くに怨霊が多すぎる。本来なら大型魔法陣が彼らを怖がらせるけど、この数だから逆に挑発になってしまった」


 これが私の目の前に赤い点が次々と現れる理由なのか!


 私は財布から折り鶴を取り出して燃やしながら、ゆっくりと雅棠のそばに移動した。宋昱軒を呼ぶだけでは足りないと漠然と感じたので、私は『洪深仁』との三文字を囁いた。


 二人の処刑人を呼んだ私が過剰反応したとは思わないでね。後ろにいる雅棠は部下の本名がいっぱい書かれている山ほどの紙を私に渡した。彼女は何かを言う必要がなく、私はすべての紙に火をつけ、自身の前に振りかけた。


 直接魂呼びでも冥銭で魂呼びでも、生者しかできない。招魂との同じコンセプトなので……死者は死者の魂を召喚できないよね。


 私の経験上、直接呼ばされた明廷深以外に、冥銭で呼んだ冥官が現れるまでに少なくてとも五分はかかる。


 雅棠は雑談する余裕すらなく、威圧感を全開した。長鞭を絡みついた黒気は、先ほど内境関係者と対峙したときよりも濃くなり、周囲の妖しい光が放っている赤い影に近づかないように警告した。最初に現れた明廷深はこの現象を見ると、何も聞かずに鞘から剣を抜き、真剣に待ち構えていた。


 明廷深の行動が怨霊たちを怒らせたかもしれないが、赤い影が突然一気に攻撃し始め、私たちに向かって飛びかかった。


「彼を見といて」雅棠がそう言いつけ、暗黙の了解により明廷深と一緒に私と気絶した内境関係者を後ろに保護し、武器とロープを持って違う方向に駆けた。


 しかし、怨霊に取り囲まれる状態には、二人だけでは絶対足りない。私を守るために、彼らは私から遠く離れることができず、その上気を配って彼らを通り過ぎる怨霊がいるかどうかを注意しないといけなかった。


「……あなたは最近本当に厄払いしに行ったほうがいい。また怨霊か、しかも多い!」


「それは私の問題じゃないよ!」私は反論せずにはいられなかった。宋昱軒が現れると同時に、地面に撒いた冥銭から出た青い煙の中に他の冥官が次々と現れ、全員雅棠と同じ制服を着ていた。


 これで人員が十分になり、雅棠や明廷深が止めていない怨霊が私に飛びかかることを心配して注意する必要がなくなった。冥官たちは取り囲んで私と気絶した人を真ん中に守ってくれた。


 冥官の戦い方はいつもシンプルで暴力的である。彼らの剣が怨霊に突き刺さっても傷つくことはなく、ただ相手は麻痺するだけで、怨霊がもがけばもがくほど痛く感じると言われている。従って、大量の怨霊がいる場合、通常は二人でチームを組み、一人は怨霊を斬ったり麻痺させたりして、もう一人はロープで怨霊を縛り、数珠つなぎにして下へ連れていく……


 正直、面白いと言うしかない。特に、数珠繋ぎになった怨霊たちが地面に引きずり込まれている時、誰かがゴミ袋を地面に引きずっているようなものだろう。


 そういえば、冥官の武器は人間に使ったらどのような結果になるのでしょう……


 突然、下から低い咆哮が聞こえた。「たとえ百人を誤って殺しても,一つを見逃してはいけない!」


「黙れよ!」私は何かを拾い、地面にいるこいつの後頭部に叩きつけた。


 冥官があなたを救っているのよ!そうでなければ、周りの怨霊に引き裂かれていたんだろう!


 突然、すべての冥官が一瞬立ち止まり、私の方向を見た。この時、内境関係者が取り戻していない銃を持っていることがわかった。すごく叩きやすいと言わざるを得ない。


「彼の魂をぶっ飛ばしてしまいそうだったよ」宋昱軒は皮肉を言った。


「知ってる……見たけど」その魂がゆっくりと体中に引き込まれていくからだ。


「冥官を叩くのに慣れすぎて、彼が人間であることを忘れたでしょ?」


 言わないでよ!


 徐々に、周りの怨霊はほとんど片付けられていった。


「でも、空の怨念はまだ残ってます」明廷深は空を見上げた。「そこから来ているような感じです」


「市内からここまで追いかけて来たが、まだその源を見つけていない」と雅棠が言った。


「しかし、この程度なら処理しないといけない。どうせあなたの部下は全員ここにいるから、一緒に行こう!」宋昱軒は振り向いて私を見た。「佳芬、先に帰って──」


「私は帰らない!」


「霊能探偵じゃないって誰かが言ってたじゃない?」


「なんだそれ!だってどんなところに連れて来られたと思う?」私は周りの何にもない廃棄コンテナターミナルを指した。「どうやって帰るのよ!スマホもさっきの陰気に干渉されて起動すらできないよ!」


 誰かの陰気が私を襲ったのだ!請求書を受け取れよ!


 雅棠はこれ以上私と議論せず、一緒に連れて行くことに同意した。結局、私たちの目的地は、廃棄コンテナターミナルの後ろにある資源回収ステーションであった。


 十人近くの冥官が輪になり、資源回収車のあるゴミ袋を黙って見ていた。数十個のドリンクカップと弁当箱は嫌な悪臭を放っており、悪寒を感じさせた。その中のいつくかのカップに怨霊が閉じ込められ、絶え間なく揺れていた。


 ……


 冥官が蒼藍をあまり好きではない理由を大体理解した。


「ああ、皆いるんだ!」聞くと殴りたくなる声が響き渡り、全員が声の元を見ると、バーチャルアイドルグループがプリントされた服を着た大柄な姿がゆっくりと立ち去ろうとした。「解決したので先に失礼します──」


 宋昱軒は機敏に蒼藍の姿が消える前に彼の体にロープをかけた。


「おい!どうして俺を縛霊縄で縛ったのよ!」


 そのロープの名称は初めて聞いたよ!


 宋昱軒だけでなく、雅棠の眼差しを見た他の道案内人も飛び出して蒼藍をしっかりと縛り付けた。一人と十人の冥官と絡み合い、しばらくすると、宋昱軒と明廷深がそれぞれ蒼藍の手を引っ張って……


「おいおい!冥官が人を傷づけるのは禁物だぞ!」


「安心してください。廷深と僕は処刑人としての訓練を十分に受けており、馬裂きの刑を行う力を十分に把握できています」昱軒の言葉を検証するように、二人は言葉を交わさずに同時に縛霊縄を締め上げていた。「もがかないでください。自分を傷付けてほしくないです。魂を引き裂く時はとても痛いです」


 蒼藍はまだ抗議したかったが、黒い影が彼の頭を覆っていた。彼は頭を上げ、晉雅棠が腰に手を当てて彼を見下ろして睨んでいるのを見ると、蒼藍でさえ怯んだ。


「あの……晉雅棠さん、ゆっくりと話そう──」


「魏蒼藍殿」蒼蘭が自分の言っていることを理解させるように、彼女はゆっくりとはっきりと言った。「怨霊を適当に捨てるなって何度も言ってますよね?」


「あははは……ちょっと忘れてしまった……」


「忘れたと?」もし冥官が人間を傷付けることができるなら、雅棠は間違いなく蒼藍の母親ですら自分の息子を認識できなくなるくらい蒼藍を殴るでしょう。「片付けとリサイクルを手伝う人を派遣するように提案したのに、あなたは私の部下を追い出しました!」


「自分のゴミは自分で片付けるから──」


「ついでに怨霊も捨てることですか?」雅棠が声を上げ、罵り続けようとしたその時、私は蒼蘭の後ろに立った。


「佳芬?」


「佳芬姐さん?」


「叱り続けてください。適切なタイミングでこいつを殴るから。私は冥官じゃないし」と私は目の前のデブオタクの頭を強く叩いた。「──私はこいつを殴ってあげる」


「イタタタ、痛い──、佳芬姐さん!俺の味方でいるべきだ!」


「あなたの味方?どうして私はあなたの味方でいないといけない?」私は蒼藍の耳をひねり、凶悪で言った。「物事を行うには責任を持ってやらないといけない、最初から最後まできちんとやらないといけないと何度言った?聞いていないだろう!」


「そうなんですよ!これ以上我々の仕事量を増やさないでよ!わかってますか?」


「怨霊の処理はどれも大変だよ!」


「佳芬姐さん、もう殴らないでよ!縛霊縄が引っかかると、魂を引き裂くから超痛いのよ!」


 蒼藍のめちゃくちゃ真摯な願いを聞いて、私は全く心を動かされた感じをせず、もっと力を入れながら言った。「大丈夫、私は処刑人のプロ度を信じてる。あなたを縛る力をうまくコントロールできると思う」


「今度また怨霊を適当に捨ててみたら?」


「実力が強いなら、このような行動してもいいと思ってる?」


「報告書を書くのはあなたじゃないからそんなにデカい態度していいと思ってる?」


「佳芬姐さん、ごめんなさい、俺が間違ったよ!お願いだから、彼らを止めてよ──」

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