私、冥界で心理カウンセラーをやってます／雙慧(ソウホゥイ)

第十一章 38.3℃以下の高熱

「私、一体何をしたんだ……」私は裂けそうな額を押さえ、希望を持たずにこう尋ねた。「蒼藍は彼らの記憶を削除してくれたの？」

　目を開けると翌日の昼間であり、知らないうちにベッドに横たわっている自分がいて、宋昱軒がそばに気遣っていてくれたのを見ると、何かがやばいと思った。

　私は酔っ払っていた。しかも泥酔してしまって、酒乱になった。

　小さなグラス二杯のビールと師長から頂いたカクテルを飲んだだけじゃないか？師長がくれた飲料は一体何が入っていたんだ？五十八度の金（キン）門（ムン）高（ゴー）粱（リョン）酒（ジュー）なの？酔うのが早すぎるだろう！

　宋昱軒が答えてくれた時の表情はまるで哀悼の意を示した。「蒼藍は僕に、ごめんなさいと伝えるように頼んだ。彼はその時たまたま忙しかった」

　うう……蒼藍は忙しいと言うなら、おそらく手を離せないほど忙しかった。私と冥官が知っているヘルパーは彼しかいない……

　記憶の修正は三十分以内にしかできず、三十分を超えると記憶の修正はとても危険になり、修正された人は知的障害になる可能性があるため、万能の蒼藍でさえこのリスクを背負いたくはないだろう。

「だから、私は一体何をしたの？」

「看護師長をクライエントとして心理カウンセリングをした」

「いつものカウンセリングのように？」

　宋昱軒は頷いた。

「『理学療法』は行ったの？」

「多分していなかった」

　少なくとも、少なくとも師長に『理学療法』を行わなかったことについて喜ぶべきだよね……多分、行っていない……よね？

　……

　恥ずかしくて仕事に行けないよ！

　ちょっと待ってよ！もっと重要なことは……記憶を失ってから、私は一体何をしたの？カウンセリングのことはぼんやりと覚えているが、その後はどうなったか？どうやって帰ってきたか？何度聞いても、宋昱軒は教えてくれず、そして明滅している照明の下に姿がきえていった。

　私が悩んでいる間に、時針は進んでおり、仕事に直面することを余儀なくされた。

　ナースステーションで夜勤の同僚と交替しようとした時、何かが違和感を覚え、誰かに変な目で見られているような気がしたが、皆は何事もなかったかのように振舞ってくれた。師長ですら昨日の話を聞きに来なかった。

　昨日の事は思ったほど悪くないかも？山ほどの仕事や患者を引き継がれたので、昨日のことはひとまず置いといた……

「佳芬！」小魚は謎めいた笑みを浮かべながら、弁当箱を持って私の向かいに座った。看護師の食事は戦時下のように、不規則な食生活が常態化してる。しかし今日のナースステーションは、留守番の新人一人以外、ほぼ全員が揃った。

　向き合いたくなくても、向き合わなければならない……

「どうしました？」何が起こったのは知らないふりをした。たとえ本当に私の『アルバイト』のことを聞かれたとしても、ふざけて最後まで否定をするつもりだった。

「あなたは……上層部の知り合いがいますか？」

「え？」予想外の質問に私は不意を突かれ、首を傾げ、「いいえ？どうしましたか？」と理解できないが真摯な表情で答えた。

「いや……昨日酔っ払って何か言ってたから、もしかしてコネがあるけど、ただ言わずに隠してるじゃなかいと私たちが推測しただけで──」

「そんな事はないですよ……というか、昨日酔った私は一体何をしたんですか？本当に覚えていないですけど……」ついでに昨日の私はどんなふうに暴れたのかを確認しておこう！

　小魚は首を横に振り、長いため息をついた。「佳芬、今後はお酒を控えたほうがいいよ」

　まさにそうするつもりです。

「皆の気持ちを代弁してくれたが……私たちは所詮、給料をもらっている側だから、上層部に反抗する訳にはいかない。プライベートで愚痴をこぼすくらいでいいよ。私たちは自分と家族を養わないと！」

　わかっている。これが人間と冥官の違いだ。

　冥官はお金の心配はほとんどない。住宅ローンの悩みもなく（家は支給される）、老人や子供を養うこともない。水子を養子にした冥官夫婦の給料は子供を養うのに十分である。衣食住及び交通手段のうち、冥官は「衣」の部分だけを気にすればいいのだが、それでもあまりお金がかからない。より良い家に住みたければ、お金を貯めて家を購入したり増築したりすることができる。したがって、心配することがないので、冥官の心理カウンセリングは簡単で成功しやすい。

　さらに、彼らには直属の上司と直接対決しても勝つことができる心理カウンセラーがいる。

　冥府は本当にホワイト企業だよね！彼らの福利厚生を見たことがあるが、めちゃくちゃ良かった。私の有給休暇は年間七日しかなく、週末は取れるかどうかわからない！冥官の彼らは一日八時間勤務で、三日間労働すると一日休みがある。年間三十日の有給休暇があり、しかも消化を推奨する。

　我々生者の福利厚生は幽鬼に負けている。

　それは、冥府は労働者を搾取する常習犯のオーナーが死後に何が起こるかを知っているためであるに違いない。だから冥官に対して常に最善を尽くしている。

　私はほとんど見えないように頷き、「ごめんなさい」と囁いた。

「謝らなくていいよ……謝るよりも、今度の飲み会に彼氏を連れてきて紹介してね！」

「彼氏？」

「知らん振りしないでよ！」突然小魚に私の肩を叩かれ、口の中の食べ物を吐き出しそうになった。育玟後輩はスマホを取り出し、動画を見せてくれた。

　宋昱軒が私の手を握り締めた画面を見た。

　見える状態の冥官は映像に影を残すことができるのか？冥官と十年以上一緒にいる私は、この事実を初めて知った。

「佳芬、あなたは酔っ払っている。傷つけたくないから、ちょっと覚めて──」動画が始まった時、宋昱軒はすでに私の手を握り締めた。手を握り締められた私はアルコールの関係で顔が紅潮した。

　私の目はぼやけていたが、はっきり答えていて、全身の力でもがいた。「酔っ払い？あなたが酔っ払っているのよ！さっき酔い潰れたのは誰なんだよ！」

　動画では、激しい運動した私は少し息が切れていて、顔がさらに赤くなっていた。しかし、宋昱軒は動揺せず私を見ていた。彼の言う通りに、私を傷つけることができないので、私を気絶させて連れて帰るのはできなかった。

「昱軒、私の領域は私のルールだと言った。あなた、その度胸はどこから来た？」ここまで聞くと、心の中で驚いた。残りがあと三分の動画が心配になってきて、自分がどれくらい暴露したかに直面できなくなってきた。

　黒いシャツを着ていた宋昱軒の口調が慌てるように聞こえ、「佳芬、もう言わない──」彼は私を皆の視界から離れるように引きずり、カメラも宋昱軒の行動に合わせて移動した。もちろん、泥酔した私は彼に従わない。

「何をしているんだよ！私は口で世界を動かしているじゃないか！放して！すぐ！は、な、し、て！」遊園地を出たくないわがままな子供のように、椅子を掴んで最後までもがいた。宋昱軒はどうしようもなく私を見ていたが、私は急に怒鳴り始めた。「くそっ、私が足短いからいじめだろう！あ、クライエントはまだいる──」

　キーワードを聞いた時、心臓が一瞬強く鼓動した。しかし次に起こったことは、一瞬で心拍数爆上がった。。

　宋昱軒は、私が口を滑らせそうになっていることに気づき、彼の体に巻き付いた黒い陰気が私の手に沿って素早く私を取り込んだことが見えた。私のぼやけた目はピントが合わなくなり、糸を失った操り人形のように全身がぐったりした。私がテーブルや椅子にぶつからないように、宋昱軒は私を引っ張り、それで私は彼の……腕の中に落ちてしまった。

　私の顔全体と首は四十一度の熱があるように熱くなり、鏡を見なくても自分の顔が極めて赤くなっていることがわかった。

　隣の誰かが興奮で気絶しそうだ。最も恐ろしいのは、動画まだ続いていること！

　冥官は私を横向きに抱え上げ、救急部門の同僚全員に小さく頷いた。「すみません、佳芬は酔っ払った。先に連れて帰ります」

　宋昱軒と私はカメラのフレームを出たが、今度はスマホが私たちの移動について来なかった──おそらく呆然したので。三秒後、空を突き破るほど叫び声が響き渡り、男の声も女の声もいたからだ。動画を再生している今でも、数人の看護師の先輩たちは興奮した表情を隠せなかった。

「先輩、彼はデパートで出会ったあのイケメンですよね！」後輩よ、恨むぞ！これ以上火に油を注がないでくれる？

「佳芬、これは彼氏じゃなければ何よ？」小魚は大袈裟な表情をしながら、興奮しているイケメン好きな女子になり、テーブルを叩き続けた。「優しすぎるだろう！しかもちょうどいいタイミングに現れて気を失わせて連れて行くなんて──」

「彼は私の彼氏じゃないです！」私は『恋人』関係を強く否定した！前回宋昱軒が教えてくれた言い訳を言い出した。「彼はもう結婚しています！」

　話を終えるや否や、盛り上がっている看護師たちの顔がおかしくなり、小魚でさえ言うのを躊躇した。「佳芬……もしかして……」

「私は不倫相手じゃないです！」これについて私はさらに速く否定した。「彼の奥さんは亡くなりました」

　変な表情をしていた看護師の同僚たちは理解した表情に変わり、また盛り上がり続けた。

「私たちは、本当に、本当にただの友達です」

「佳芬、こんなに素敵でかっこいい男を逃しちゃうといけないよ！再婚相手になっても大丈夫だよ！」

　本当に違うんだよ！彼は冥官だよ！

「彼氏じゃないなら紹介してもらえない？」

「私も！」

「……」

　誰か私を助けてくれよ……