第六章 デブオタク万歳!
「先輩、もう帰りますか?」
「仕事が終わったから家に帰らないとここで何をするんですか?」もちろん早くタイムカードを押して家に帰って休むでしょう!前日は「下の階」で午前の三時半までにカウンセリングし、魂が家に戻ってきたのは四時近くだった……昼間に十分な睡眠を取れたとしても夜勤を終えるとここにいたくないよ!
「先輩、一緒に帰りましょう!どうぜ、同じ方向ですからね」楊育玟は自分の持ち物を手に取り、私の後ろについてきて期待している様子で私を見て、「一緒に帰った方が安全ですね!」と言った。
安全……でも後輩さん、うちはもう何年も一人で歩いて帰っているのに何もなったよ、どうして付き添いに来たの?後輩に水を差したくないので、仕方なく一緒に帰ることを黙認した。結局、後輩は私にアドバイスを求めたい質問を抱えているのがわかった。若干その気がしたが、どうして私に聞きたいのが全く理解できなかった。何と言っても普段私は同僚たちとは丁寧な距離を保っており、特に親切な人ではなかった。
最初、育玟後輩は仕事の話でウォームアップし、そろそろいい雰囲気になってきた時、今日の重要な質問をした。「先輩の大家さんはどうですか?」
私の大家さんはどうって?入居者の私が家を幽霊屋敷に変えようとしていても私を追い出してなくてとても良い方であった。家具が壊れてもすぐに駆けつけてくれるし、キッチンが水漏れしても翌日に修理しに来る人を探してくれるし、家賃も高くなく妥当な範囲内であり、このような大家さんに出会えて真に私の功徳を積んだ結果であった。
おそらく、超自然的な理由が私を助けたのかもしれない。
先に言っとくけど、副業で壊れた家具や電球は大家の手を煩わせることはなかった。私は類稀な入居者だ。
「いい人ですよ。最近家を探していますか?」左手中指の婚約指輪をちらりと見た。「婚約者と同棲しているじゃない?慣れないですか?」
「引越しを考えていますが……」後輩の言葉が喉に詰まる表情して言いたくても言えなかった様子を見ると、見慣れている表情だと思った。初めてカウンセリングする冥官はだいたい同様な状況がある。
「なぜですか?」さあ、話題誘導を始めよう!これは私の得意技だ。
「えっと……」楊育玟はためらいがちに私をちらりと見て、彼女と目が合い、続けるように励ました。
「元々電気代は一単位あたり五元で少し高いですが、古いアパートですし、どう見ても高すぎると思います」楊育玟はそう言ったが、これは彼女が困っている原因ではないと思った。本当の原因は隣人なのか?それとも……
「それと、最近私たち二人とも変な音が聞こえていて……」
原因はこの『……』であるのに違いない。偶然だが、私はこのものに精通している。
「隣人ですか?」
「でも、隣人はうちに来てノックして、音量に注意するように言いました」楊育玟は辛そうに言った。「しかも、テーブルを動かす音や壁を叩くような音だったので、毎日『仲良し』ですねと隣人に笑われてます……」
もうすぐ夫婦になるもんね!毎日『仲良し』していると思われても当然のことだ。
助けるか?放置するか?それともプロへ紹介するか?宋昱軒に少し見てもらおうと頼んでもひどい要求ではないよね?
しかし、電気代一単位あたり五元は高すぎると思う。後輩はこれで別のところに引っ越すのがいいことかもしれない。そんな理由で後輩は亡霊に弄ばせてはいけないよね?
「先輩、私の家はここです」楊育玟は振り返って私に言ったが、私がずっとこのほとんど明かりがついていない古いアパートを見つめていたことに気づいた。
「先輩?」
「家は何階ですか?」
「三階です。どうしましたか?家に来ますか?」
三階……なんと偶然……ちょうど三階のベランダーから真っ赤な影がこちらをじっと見ているのを発見した。
しかも、この亡霊は凶悪すぎるでしょう!
私は後輩を引っ張って、明確な目的に向かって全力疾走した。
「先……先輩、どうしたんですか?」
「最近幽霊屋敷に行きましたか?」
「えっと……うちの病院はカウントされますか?」
しないよ!私の安全のために、冥官は定期的にそこを掃除している!全ての超自然現象は、彼らが任務を遂行したときに発生したことだった。
「変なお寺も行ってない?」
「それもない──先輩、私の靴が落ちちゃった──」
靴なんてどうでもいいよ、今あなたの命の方が大事だ!
あの真っ赤な亡霊はずっとあなたを追っていることを知っている?
くそ、亡霊の性別が男性なのにどうしてそんなに怖い?手を手刀にしてダッシュで来ることはなぜでしょう?亡霊であれば漂ってこいよ。
「変な御守りまたはプラクルアンとか持っている?」私は続けて質問した。
「えっと……婚約者のお母さんがタイで買ってきたプラクルアンはカウントされますか?」
もちろん!出所不明のプラクルアンは買っちゃいけないよ!ほら!悪霊を買って来たぞ!義母は嫁姑問題を完全回避するために息子の嫁を殺したいのか?
「えっと……先輩!私を連れて走った理由がわかったようですが……」後輩さんがこれを言ったとき、彼女のスピードは速くなり、私が小柄のため、あっという間に私を超え、私を待つために速度を落とさなければならなかった。
ぶっちゃけ、命懸けで走っても私の短足は目立った。神さまも笑っちゃうだろう。
私と後輩の間に真っ赤な手が程なく現れ、鋭い爪が九十度回転し、後輩が反応する前に彼女の肩を掴み、その皮膚に深く沈み込んだ。
「あああ──!」後輩は泣きそうだった。私はすぐに今日身につけたばかりのハート型ネックレスを引きちぎり、悪霊の顔に投げつけた。道端の屋台にて百元で買える激安ネックレスのように見えたが、悪霊に触れた瞬間に火傷のような音がした。
「うおおお──」
大声で叫ぶな!お前が先に私たちを標的にしたよね。まぁ、目標は後輩だけど、私は連帯被害者だよ!
悪霊が手を引いて顔を覆った時、後輩の悲鳴を無視し、彼女を引っ張って走り続け、最後に三本通り離れた高校寮にたどり着いた。私が近づくと閉めていたドアが開いた。
どうもありがとう!門限の問題を心配する必要がなかった。さもなければここで中にいる特定の居住者に電話をしながら、おそらくこの悪霊と戦わなければならないでしょう。
私の援軍は一三二号室で住んでいた。この寮の一階は特別需要のある方専用になっているため、他の住人の邪魔になることはなかった。つまり、この寮の一階は『特別な』人だけ住むことができ、それ以外の人は大体驚かせられて収驚(魂のお祓い)をしに行かなければならなかった。そして部屋を変えてもらうことになった。
「バンバンバン!」私は一三二号室のドアを勢いよくノックした。「蒼藍!佳芬です!早く開けて!」
悪霊はすでに廊下の入り口に立っていて、私たちは廊下の端にいた。赤い彼は壁の方を向いていて、体がゾンビのようにガチガチにこちらに向き合い、次に頭を向け、最後に誰かがスターターピストルを鳴らしたように手を手刀にして再び私たちに向かってダッシュしてきた。
なにそれ!どうしてこの悪霊が走る時に手を手刀にすることをそんなに執着しているの!宋昱軒に今来てもらっても時間がかかるし、最速のエースに迷惑かけたくないし、一番近い救助者はこの扉の後ろにいるのに、遠水は近火を救わず、でしょう!
「蒼藍!聞こえてないふりしないで!この時間に寝るわけがない!早く扉を開けて!本当に助けが必要だ!」
彼は、彼の体の特徴と細部をはっきり見ることができるほど私に近づいてきた。彼の全身は変な宗教儀式によって処理されたようで、お腹や腕には包帯で緩く包み、包帯は暗赤色の液体(絶対に血である)で呪文を刻み、引き裂かれた口が奇妙な角度で微笑んだ。彼は再び楊育玟に爪を伸ばし、骨しか残っていない手からベタベタしている血が流れ出て滴り落ちた。
私は後輩を後ろに庇い、二人の背中が扉に押し付けられていた。
もし蒼藍がアニメに夢中になって出て来たくなければ、私が亡霊になっても彼を許さない。冥府を統治する閻魔大王はきっと喜んで手伝ってくれるでしょう。私と一緒に蒼藍を殴りに行くかもしれない。
「何だよ──」
「うわああ!」ドアが突然開き、私と楊育玟は部屋の中に倒れてしまった。
部屋から出てきた人は、ボサボサの髪を掻きながら、外の悪霊を見ると、退廃的な目がわずかに明るくなった。
「お?タイのやつか?これは俺へのプレゼントなのか?」
悪霊は蒼藍に向かって爪を伸ばした。
おそらく、蒼藍の外見はごく普通で、部屋のインテリアに加えて警戒心を解きやすかった。
蒼藍はデブオタクである。
蒼藍がデブオタクであると言っても、差別をする意味は全くなかった。蒼藍自身でさえ、自分がデブオタクであることを誇りに思っており、彼曰く、「太っている俺を誇りに思っている」だった。
そう、私の目の前にいる人がボサボサ頭で、百八十センチで百キロ超えを自ら吹聴し(この数字はご本人から提供されてもので、とても嬉しそうに私に「体重が百キロになった」と報告した)、某バーチャルアイドルグループのTシャツを着ていてる。さらに、そのアイドルグループのフィギュアやグッズが溢れた部屋の中で、太いフレームのメガネをかけて、非常に興味深く悪霊を上から下まで見ている高校生は蒼藍だった。
蒼藍の前に突然奇妙な白い光が現れ、悪霊の腕も白い光に跳ね返された。苦しむ悪霊の体の赤みはより深くなり、彼は口を開いて咆哮した。蒼藍は片手で魔除け札を取り出し、黄色の魔除け札が彼の手の中で燃え、白い光で作られたロープに変わって悪霊を縛った。悪霊の怒鳴りが甲高い悲鳴に変わり、寮の一階に響き渡った。
「この咒式はなかなか面白いね。俺が研究した後にお前を済度して冥府まで送るよ」蒼藍のもう一方の手は何も持たずに持ち上げ、机から飲み物のコップを召喚してきた。
中のタピオカですら吸いきっていなかった。
彼はコップを悪霊に向けると、悪霊はまるでブラックホールに吸い込まれるようにコップに吸い込まれた。コップの中に閉じ込められた後、蒼藍は開口部で適当に手を振ると、真っ白なフィルムが現れ、ドリンクコップの開口部を封じた。彼はコップを手放して落下させたが、悪霊が入っているコップは床にぶつかる前に消えた。
「デブオタク道士」とは、うちの蒼藍のことだった。
冷静だった私に比べると、楊育玟は怯えすぎて呆然としていた。
仕方がない。全ての超自然的なことは蒼藍に頼めば解決ができる。彼の見た目はとても退廃的に見え、実際にもとても退廃的だが、こういうことを最もよく解決できる人であった。
「よし!もう解決したから、出て行ってくれる?」蒼藍はパソコンを見ながらうんざりして言った。「俺がいなければヒーラーが足りない──痛っ!」
「何のヒーラーかよ!」一八〇センチの頭には届きにくいので脛を蹴ることにした。「彼女はまだここにいるから、綺麗に片付けてから帰らせてよ!きちんと始末しなさい、わかる?」
「わかったよ!」蒼藍はかがみこみ、痛むふくらはぎを片手で触り、もう一方の手で何かをし始めた。
彼は空気から不吉なプラクルアンを掴み、そのプラクルアンは私の目の前で白い炎に呑み込まれて灰すら残ってなかった。さりげなく楊育玟の方向を指さすだけで、彼女の肩にある血まみれの傷は血が止まり、服についた血も消えて元の状態に戻った。蒼藍の指が楊育玟の額に触れると、彼女は気を失った。そして蒼藍が指を鳴らすと、後輩さんはその場から姿を消した。
蒼藍は最初から最後まで顔を上げたことがなく、自分のふくらはぎが青あざ出来ているかどうかだけ心配した。
「呪われた物は処分済み、人も治療済み、記憶も修正済み、人も送り返した。俺はゲームに戻ってもいい?」
目の前にいるこのデブオタク道士はほぼ全能だと言ったことある?
「あなたがくれたお守りを使ってしまった」
「今朝渡したばかりなのに、午後に使ってしまったって、佳芬姐さんひどくない?」
「さっきのやつあんなに凶悪なのに、使わずに冥官を先に呼ぶなんて、バカじゃないの?」
「じゃ報酬として、佳芬姐さんに相談を乗ってもいい?進学について聞きたい……」
「人間のカウンセリングを受け付けない」私はあっさり断った。これが私のカウンセリングの大きな原則の一つであり、ただ単に人間って面倒だから。育玟後輩の件は、せいぜい雑談だったので原則を破ってはいなかった。クライエントとして受け入れないと言ったが、他のオプションを提案してあげた。「私は無免許だからあなたが本当に狂ったり障害になったりしたらどうする?学校の心理カウンセラーに予約して」
「学校のカウンセラーが嫌いだから佳芬姐さんに聞きたかったよ」
「じゃお守りはいらない」
「わかった、わかったよ。あげるから。ケチ!」蒼藍は口をとがらせて、猫キャラクターの型ペンダントがついているネックレスを引き出しから取り出した。ネックレスの白い光が消えた後に普通のネックレスであって、霊視者の私でも違いがわからなかった。
「本当に命が危ないなら、一番偉い奴を呼んだらいいじゃん……」
「お守りを作るだけで別に減るもんじゃないし?文句多いやつだな」一番偉い奴を呼んだら私は本当に何かを失うんだ!もしくは何かが増えるよ。例えば、肝臓数値や血糖値など体を壊されるだろう。
肝臓数値の話になると、職業病が発症して目の前のデブオタクに、「せめて体重をコントロールした方がいいよ……肥満すぎると早死するぞ」と説教せずにはいられなかった。
「俺は痩せやすいの」蒼藍はパソコンの前に戻り、ゲーム画面を見つめた。「生死簿も見たし、健康問題で死なないので安心して」
「蒼藍、言わせてもらうけど、私は毎日のように肥満の患者が胸の痛みや呼吸困難で運ばれてくるのを目にしている──」
蒼藍がイヤホンを耳にする前に、私の方向に指を鳴らし、私の目の前はもうオタク臭い部屋ではなく、私の家になった。
私に強制転送をするなんて!この失礼なやつ!
覚えとけ!今度もっと説教してやろう!
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