第五章 「愛は偉大なり」この言葉を発案した人がここに来なさい、あなたを殴らないことを約束する

「……次またこんなことに遭遇したら、先に呼んでくれないか?」私の話を聞いた後、宋昱軒は文句を言ったが、既に発生したことだからどうしようもなかった。


「とにかく、蒼藍が解決したから、この件は放って置こう!」


 蒼藍の名前が言及されると、宋昱軒の口角が不快に下がった。こいつが好きな冥官はこの世にいないはずだった。


「……彼のことが好きじゃないが、護身用のものを作ってもらっていいと思う」


 しかし、蒼藍は問題を本当に解決できる数少ない人物の一人でもあり、もちろん、それは「亡霊」についてのことで、冥官でさえ同意見だった。冥官が彼を嫌っている理由については……道士と冥官の相性が合わないと薄々推測していた。冥官は亡霊を捕まえて連れて帰るが、道士は亡霊を帰らせない。でも、蒼藍は亡霊に会うとすぐ消滅させる派ではないのに、なぜかが冥官に嫌われていた。


 もしかして前に何かあったかもしれない?誰も言わなければ、私も当然聞かない。


 時々、無知は幸せである。霊視者にとってさらに感慨深い。

「では、次の番号を呼び出すね?」宋昱軒は私の許可を待っていたので、私も頷き、次の方──霊を入れようと示した。このような良好な協力関係を築くには、五年間のトレーニングがあったからだった。あの頃、閻魔が突然彼をアシスタントとして私に押し付けた時、私だけは唖然したでなく、彼も慌てていた。病院に行かせて外来で一週間に看護師と医師がどのように協力しているかを観察してもらい、やっと一緒に仕事ができた。


 冥官が真っ黒の木製扉を開けると、泣きすぎてメイクが崩れた少女がいた。頬に黒い涙跡がついて、泣いた赤い目で私を見た。


 おそらく、恋愛相談だと予想した。


 口を開く前に、少女の押さえつけられた強い感情がついに捌け口を見つけて吐き出したようだった。


「簡さん!もうどうしたらいいのかわかりません!五十年前に彼と知り合った時、私にとても優しくて、デートの時もカバンを持ってくれました……でも今は……最初は普通の口論だけど、最近は私を殴るようになってきました……でも彼は未だに私を愛していると信じています!私は何を間違えたのかな?夫婦関係を修復するためどうすればいいですか?簡さん、教えていただけないですか?」


 やはり、推測が正しかった。彼女を見て、どうやって彼女をクズ男の影響から抜け出させる方法について考え始めた。


 ポイントは、彼女は未だにその男が彼女を愛していると信じるとこだった。「叱るは愛情、怒るは感情」は子供向きだが、恋人同士なら絶対に問題があるよね?


「移動陣できますか?」


 私の突然の問いかけに、啜り泣き続けいた少女が驚いたように、しばらく時間をおいてから頷いた。


「お仕事は何ですか?」


「私は……孟婆です」


 孟婆は奈何橋で新しい亡霊に孟婆湯を飲ます方だった。毎日多くの新しい亡霊が来るため、奈何橋に常駐する孟婆は一人では足らない。


「冥官は子供を産むことができませんので、大体水子を養子にしています。子供いますか?」


「いいえ……彼は子供が好きじゃないので……」ここまで話すと、孟婆は自分の悲しみに触れたように下を向いた。


「あなたは子供が欲しかったですよね?彼はそれにずっと反対していますか?」


 彼女は軽く頷いた。


「彼があなたを殴るって言ってましたよね?」


「あれは……私は時間配分ができてなくて、家の片付けはしてませんでした──」


 私は突然テーブルを勢いよく叩き、患者より気持ちが高ぶって叫んだ。「まだこのクズ男のために言い訳を探してあげてんの?」


 私の突然の攻撃に、若い孟婆は縮み、怖がって私を見ていた。私は彼女の鼻を指差して叫び続けた。「何を恐れているの?あなたの旦那のほうが怖いだろ!彼のどこがいいのかを教えて」


「彼は……彼もいいところがいっぱいあります!仕事に対してとても責任感があって……」


「じゃ、あなたにとっては?単刀直入に聞くけど、あなたのお金はもしかして全部彼に渡してる?」


「え……えっと、そうです。まとめて管理したほうがいいかなと思って」


「本当にバカだな……」私は無力に額を押さえ、こんなに無邪気な冥官は久しぶりに見た。「通帳を確認したことある?」


「いいえ、彼に任せておいても問題がないと思います」


「昱軒、彼らの通帳明細を調べて」宋昱軒は法陣の前に座り、五年に渡っても理解できないやり方で昔のダイヤル式電話を回すように緑の法陣を回し、少しの間にそこから本書二通の冥府銀行口座取引記録を取り出した。一通は若い孟婆に、もう一通は私に渡した。


 この男もよくやるな……預金通帳の大きなゼロを見て感嘆した。


「えっと……」


 旦那の言い訳をどう考えるのか見てみるわ。


「もしかして私にサプライスをするため家を買ったのでは?」


 あらまあ!こんなありえない言い訳も思いつくの?こいつはもう無理だな……


「あのさ、バレないように旦那を一週間尾行してきなさい」


「え?どうしてそんなことをしますか?」


「関係を修復する方法があるかと聞いたんだろ?」私は「抵抗も質問も許さず」という態度で若い孟婆をじっと見ていた。「私はあなたの旦那ではないから知るわけがない。彼を尾行して彼のことをもっと知るようになったら、どうやったら修復できるとわかってくるじゃないか?」


「うーん……」私の言ったことに認めたように見え、若い孟婆は小さく頷いた。


「他の聞きたいことがなければこれで終わり」クライエントが帰ってから昱軒に指示を出した、「この方のカウンセリング記録は『浮気』のテンプレートを使う。次の方を呼んで」宋昱軒はすぐに呼び出しベルを押さず、「今日は何番まで見る?」と尋ねた。


「カウンセリング時間の最後まで見るかな?アルバイトまで残業したくない」


 頭上の目覚まし時計は、突然殺される豚のような悲鳴を上げた。


「残り何名?」


「七名」


「あと一名だけ見るわ。他の方は次にする」


 宋昱軒は死んだ目で私を見た。「こんなことを発表したらクライエントたちに殴り殺されるけど」


「あなたは死なないし」私は冷たく言った。「私が言うよ。攻撃されたらあなたが彼らをぶっ飛ばせ!」


 私は薄暗い診療室を出て、真っ黒な扉を力強く押し開け、腰に手を当てて小さな木造の小屋に座っている冥官たちを見ました。


「表示する診療時間は朝の三時までです。私は人間なので睡眠が必要です。今日はあと一名だけ見ます。他の方は次回にしますが何か意見ありますか?」


 冥官たち皆は無言で私を見つめ、息を吐くことすらできなかった……もし彼らが息をしていたとしても。


 当たり前でしょ、誰もが従順だ。私は冥府で初めての、そしてたった一人の心理カウンセラーである。ストライキをしたらこの仕事をできる人がいない。言うまでもなく、宋昱軒は私の後ろに剣の柄に手を置いて殺意満々で立っていた。


「よかったです」私は満足そうに頷き、振り向いて宋昱軒に指示した。


「番号を呼び出して、終わったら寝る」


 宋昱軒は呼び出した後、診療室に戻ってきてカウンセリング記録を取り出してくれた。「タンヨンシー、これも旦那が浮気している、再診の方だ」


 私はこのクライエントを覚えている。さっきの若い孟婆のように、診療室に入るとすぐにボロ泣きしていた。結局、旦那を尾行してと私に言われたかわいそうな女性だった。


「簡さん!」扉を開けた女性は、まるで別人のようになって勘違いしそうだった。


 唐詠詩が小柄で細身で、優しく器用そうな女の子であることを覚えている。高潔な女性が着るようなシャツとロングスカートの格好をして、絵に描いたような良家のお嬢様であったのに。


 目の前に透け透けブラウスとショーツバンツを着用している厚化粧の女の子は誰?

「何がありました?旦那を尾行して行動をチェックしてって言ったんですけど、イメージを変えろって言ってないですよね?」


「彼の好みをもっと知ることができましたよ!彼が人界に行った時はこのタイプの女の子に会っているのを見ましたから、私も彼が好きそうな服を着て見ました──」


「出て行って、また後で入って来て」


 唐詠詩が出て行った後、私は椅子に身を沈め、鼻梁に指を押し付けた。


「宋昱軒」


「うん?」


「彼女の旦那を殺してくれ!」


「詠詩の頭を開けて中身を見てと言うだろうと思った」


「これもいいね……本当にバカ女だ!あの男がそんなにいいのか……経済力がないわけじゃないのに、そんなクズにくっついて何が良いんだよ!」


 しかも、冥官が人界に遊びに行けるの?お姉さんたちが隣に寝ている方は実は幽鬼だと知っていたらどう思うでしょう?


 こういうバカ女……気持ちが少し落ち着いてからもう一度入らせた。そうしないと唐詠詩は私の目の前にもう一秒とどまると、手元のモップで彼女が目を覚めるまで殴りそうだった。


 困惑した顔で唐詠詩が入って来て私の隣に座った。


「詠詩、はっきり言いますと」私は彼女に心の準備をさせるために少し間を置いた。「あなたの旦那は浮気をしています」


「知ってますよ」


 知っていますか?知っているのにどうしてこんなに冷静に入られるの?


「だから、頑張って取り戻したいと思ってます」


「じゃ聞かせてください、今は楽しいですか?幸せですか?」


「辛いですけど、愛ってこういうものではないですか?辛くても最後は甘くなります。全てはプロセスです」詠詩は率直に言った。「私は彼を選びました。彼を愛しています」


 こういう女は愚の骨頂だな……一体なぜ、自分を愛していない男性にそこまで尽くすの?


 多分、愛の偉大さを理解していないため、私は今まで恋愛したことがない。


 自分を悩ませる男の子を探してどうする?私はマゾじゃないのよ!


 でも、彼女を救いたかった。優しい心を持った女は、男に粗末に扱われることはもったいない。たとえ彼女がこんな状況を受け入れても、介入したかった。


 あの絶技を使おうか。


「環境を変えさせてあげるよ。あなたに会わなくなったら旦那が会いに来るかもしれないから、この期間中に自分から旦那に連絡しないで」


 あの旦那は奥さんがいなくなったことさえ気づかないと思うけど。話を終えた後、私は電話を取り、内線番号五五五五に電話した。「もしもし、閻魔大王様、ある冥官──孟婆を異動させたいですが、名前は唐詠詩です。──どこへ異動させれば良いですか?そうですね……人界にはさまよえる亡霊のサービスセンターがあるじゃないですか?スムーズに冥府にたどり着くことができない亡霊を助けるところです」


 電話の向こう側は、「なんで君は俺の役職より上って感じがするの?俺に人事異動を命令するんだ?」と無力感でいっぱいだった。


「冥府で開診することを誘った時、需要があれば遠慮なく言ってねと言ったのに、約束を破るつもりですか?」このように閻魔大王と話しているのを聞いて、唐詠詩の目玉が飛び出しそうになり、宋昱軒は驚くもせず、カウンセリング記録を整理し続けていた。


「わかった、わかったよ。異動を命じるから、なんでそんなに怒ってるんだ……」おい!約束を破りたいのはあなただろ、なんでいじめられているように見せるんだよ!閻魔大王は話題を変え、リラックスした口調で、「診療時間が終わったらこっちに飲みに来ないか?」と尋ねた。


「明日は日勤ですから、別の日にしましょう!だって私の夜勤がいつなのかは調べたらわかりますから」私は電話を切り、唐詠詩に後処理の内容を説明した。「人界に異動させたのでそこで気分転換してきて。再診は三ヶ月後にしていい?」


「彼女はおそらく聞いていない」宋昱軒は知らせてくれた。


 そうだよね。彼女の顔はまだ「閻魔大王に対してこんな態度を取っていいの?」という表情のままだった。


 私は伸びをして、「彼女は同意したと思う!本日の診療はこれで終わりにして、もう寝よう!」と言った。



唐詠詩

診断:旦那が浮気している、夫婦関係を修復したく旦那の気持ちを取り戻したい。

治療評価:夫を尾行して浮気現場を目撃させても無効だった

処置:そのクズ男から離れるため、閻魔大王に人事異動を頼んだ。三ヶ月後再診すること。要観察。

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