第四章 後輩が困難に出会った時、先輩が手を貸すのは美徳である

 結局、宋昱軒に関する話は職場に広がった。


 私は深いため息をつき、ゴシップの当事者を見て文句を言った。「やることを増やさないと気が済まないの?私は暇だと思ってる?」


「本当にごめんなさい、まさに佳芬の知り合いに会うとは思ってなかった」


 宋昱軒がいくら心から謝っていたとしても無駄だった!後輩だけでなく、今先輩ですら何ということなしに「彼氏はどこの大手企業で勤めていますか?」と聞くようになった。


 大手企業?地下世界という大手企業で働いてるんだよ!また聞かれたら、彼は炭鉱夫だと言おう。


「僕は結婚しているとみんなに言ってもいいよ」


「それも一つの方法だけど……」深く考えて頷いた後、宋昱軒の言葉の衝撃的な部分に気付いた。


「結婚?結婚したの?生前か死後か?」


「生前……ちょっと、僕の時代の男は結婚しなければ恥ずかしいよ!何と言っても仲人が縁談を持ち出してくれるよ。別にブサイクでもないし」


 そうだね!古代の男性は、妻や妾の三、四人くらいはいなければ家族への愛が深いと言えるでしょう。他の女性と「コミュニケーション」をしたとしても、粋人すいじんと呼ばれるだけだ。しかも、『不幸に三つあるという。中で最大の不幸は子孫なきこととある』の時代では、妻を持てないことは確かに理不尽なことだと思う。


「あれ?今日の主役まだ来てないの?あなたの後輩は?」


 噂をすれば影がさす。街灯が一瞬点滅した後、通りの入り口にもう一人が増え、その人は私たちの方向に向かって急いで歩いて来た……


「あいつアホか?転送陣は私の後ろにいるのに、わざわざ通りの入り口の城隍廟から出てくるって」


「びっくりさせたくないから?」


「さまよえる亡霊か怨霊なら別だけど、冥官に驚かれたら私はあなたたちと交流できないじゃない?」


 私たちが突っ込み合っている時、明廷深は既に目の前に到着し、丁寧に頷いた。「簡さん、昱軒先輩、こんばんは」


「さあ、主役が登場したので早速始めよう!さっさとやって帰ろう、デング熱にかかりたくない」虫除けスプレーを全身につけたが、私の虫除けスプレーがなくなる前に、明廷深が終わらせることができたらと願うばかりだった。


 私は真向かいの建物に「あの建物、片付けて頂戴」


「片付け?でも掃除道具を持って来てなくて……」


「その建物にいる亡霊を全部退治しろと言ってるんだよ!」私はこめかみを指で押し、アホのせいでひどくなった頭痛を和らげようとしながら、詳しく説明した。「怨霊なのかどうかはわからないが、さまよえる亡霊がたくさんいる。とりあえず冥府のSOPの通りに亡霊を全て解決して、終わったら戻って」


「えっと……」明廷深は弱気に尋ねた。「昱軒先輩も一緒に入りますか?」


「いいえ」宋昱軒はすぐに後輩の希望を打ち砕き、「僕は外で佳芬を守る」と言った。


 その通りだ!私は「亡霊」を縛る力のない普通の女性である、たまたま霊視することができるだけ──たぶん、それに加えてとても大胆であり、死を恐れていないこと?私のように冥府とやりとりしている見鬼はあまりいないと思う。


 明廷深の視線は私たち二人の間に行ったり来たりし、そして悲鳴を上げている廃屋を見て、「僕に何かありましたら……」と恐る恐る尋ねた。


「後事を託してあげる──ちょっと!冥官は死なないよ!困った時昱軒も助けに行くよ」


 この約束を聞いた明廷深はほっとした様子で、剣と亡霊を縛る縄を手に取り、廃屋に足を踏み入れた。 その後ろの姿は、二度と戻れない約束を果たしに行くと覚悟した強者のように──


 彼の姿が扉から消えて間もなく、冥官の悲鳴が中から聞こえてきた……


 昱軒はこっそりと私をちらっと見て、「僕に彼を救わせるつもりがある?」と尋ねた。


「どう思う?」


「もちろんない」


「分かって良かった」


 この時、明廷深の悲鳴は華麗な法術の光と迫力がある叫び声に置き換えられた。


「心配しないで、戦いの洗礼を経験した後、彼は私に感謝するよ」ポケットに入った宣紙を出し、悔しそうにその上に毛筆で書いた字を見て言った。「このボーナスを台湾ドルに換算すれば、一生衣食住に困らないだろ!」


 冥府は私にコミッションを払ってくれるかしら?


「次は幽霊屋敷で佳芬の専門を発揮して、口でそこらの亡霊に感化したらボーナスがもらえるよ」宋昱軒は私の横で皮肉を言った。


「こういうことができるようになったら、自分の宗教でも作って傳教するよ」口で亡霊を感化するなんて空想すぎない?それよりも、口で幽霊屋敷のさまよえる亡霊たちを全て攻撃力がアップした怨霊に変え、ミッションの難易度を高める可能性の方が高いと信じる。それに、私は無免許の冥府心理カウンセラーなので、専門なんて全くないよね?


 妄想している間に、幽霊屋敷が静かで音全く聞こえなかったが、中の恨み辛みがますます膨らんで来て、悪念が空気を満たし、ベタベタした感触が人々を不快にさせ……


「中はやばそう……これはもしかして彼の能力を超えていない?」私は急に心配になって廃屋を見た。


「絶対に超えている。ここが百年以上放置されているのは理由がある」


 おい、ちょっと待って、私よりひどいじゃないか!できるだけ凶悪なやつを探してと言ったけど、まさか一番凶悪なやつを探してきた。


 後輩に対して何か恨みでもあるのか?案の定、他の人が自分より昇進していることに嫉妬しますよね?


「どうしてそんな目で僕を見るの?一番凶悪な幽霊屋敷を探せって言ったじゃない?」


 確かにそうだけど……でも……


「でも廷深は本当に危機に瀕しているので、ちょっとだけ手を貸すのは問題ないでしょう?」


 私は「どうぞ」の手振りをしながら宋昱軒がスキルを発揮することを期待した。彼が亡霊いっぱいの廃屋に突入し、亡霊の壁に閉じ込められた後輩を掘り出し、脇の下に挟んで連れ出すのを見たかった。期待を込めて宋昱軒を見たら、冥官の彼が深呼吸をして口の横に手を置いているのを見ただけ……


「廷深、お前早く解決してくれ!先輩を外で待たせるなんて恥ずかしくない?」

 あれ?


「これって助けと言っていいの?」


 宋昱軒は私の驚いた表情を無視し、「口頭で励ますことも助けの一つだ」と言った。


「これ以上ひどいことがないわ」


「幽霊屋敷に人を打ち込む人は、そのようなことを言う資格がないでしょう」宋昱軒がこれを言った同時に、建物の割れた窓から不気味だが凛とした一筋の緑の光が輝き放たれ、数十回の劍影が四階の左から右に斬り、一瞬のうちに、全ての悪念や恨み辛みは跡形もなく消えた。


 うわ、本当にできたんだ!数分後、明廷深は足を引きずりながら幽霊屋敷から出てきたて、人間の形を維持する力さえなかった。目玉があったはずのところには二つ混沌した穴しかなかった。様々な亡霊を見慣れている私にとっては全然怖くない。それより宋昱軒の原形の方が気持ち悪いと思う。


「昱軒先輩、お待たせして本当に申し訳ありません!」明廷深が出てきてから最初にしたのは宋昱軒に謝ることだった。彼がお辞儀をして自分の過ちを認め、もう少し遅くなったらひざまずいて謝罪するつもりでしょうね。


「構わない、解決したから帰ろう!」宋昱軒は私の手からミッション通知書を取り、自分が一体何をしているのかわからない明廷深を引っ張り、ちらつきのある街灯の下で姿を消した。


 よし、今日の任務は終了――ああ!くそ!宋昱軒にコミッションの話をするのを忘れてしまった……でも、正直なところ、冥銭は台湾ドルに両替できないので、貯めてどうするの?死んだら使うのか?やっぱり明日の仕事と戦うため着実に早く帰って寝よう、帰り道は裏路地だ……。


 振り向く時、いきなり後ろから人顔が現れた!私全身が震え、怖がれて倒れそうになった。彼女は厚化粧していて、元々の大きなカールが濡れて肩にくっついていた。口紅であろうとチークであろうと、どちらも最も綺麗でセクシーな色だが、顔に亀裂跡があり、安いファンデーションを厚くつけすぎて崩れたようだった。


 彼女の両目から血の涙が流れてきて、凶悪な目が私の目と合った。


 どうして気づいていなかったの?見鬼だけでき、感応力が時々あったり消えたりしていたが、恨み辛みはこんなに強いやつが私の後ろにいるのに気づかないのがあり得ないでしょう!


 何も見えていないふりをするには遅すぎたが、それでも落ち着いたふりをして、彼女を避けてバス停の方向に行った。そしてこっそり振り返ると……


 ついてきたよぉぉぉおお!宋昱軒、早く助けてぇぇぇええ!私はまっすぐ前に向いて進み、宋昱軒の名前を心の中で呼び続けた。長い間の友情が何らかの以心伝心的な能力に変えると望んでいたが、残念なことに、私たちの間には友情しかなかった。しかも彼は明廷深を地下に送りに行ったばかりなので、すぐには戻ってこないでしょうね。


 突然、ある手が私の足首を掴み、皮膚から冷たくてべたつく感じが伝わってきた。蹴って振っても振り切れない。


 私は下を向き、今度あのひび割れた顔は床にいた。髪と皮膚のひびから次から次へ出てきた血に靴が浸っていた。昱軒の場合であれば、私は多分それを踏んで、新しい靴を購入した請求書を燃やして弁償してもらう。でも今の私のそばには冥官がおらず、私はただの見鬼の凡人である。


 彼女は私を見て、私も彼女を見た。一人と一鬼はこうやってお互いを一分間ほど見つめ合った。そしてどうして彼女の存在を感じなかったのがわかった。


 彼女はあまりにも悲しい。彼女の黒い瞳は海のように深い恨みを映っているが、私向けではなかった。彼女は悲しみや悔しみを私に伝えたかった。


「あなた……帰り道が見つからないですか?」彼女に話しかけてみた。ほんの少しの理性が残っている怨霊であれば、コミュニケーションを取れるかもしれない。


 彼女は頷いて口を開いたが、何も言えなかった。この時、彼女の首に左右対称の二つの黒い手形があることに気付いた。その手形を見れば見るほど、色が濃くなってくる。


 彼女は、助けてほしいと望んでいるかのように、私を熱く見た。


 私は無理やり彼女の首から目をそらし、軽い声で言った。「あなたを助けることができません。仇を討つことであろうと、帰ることであろうと、助けられません。私はただ見える一般人です」


 彼女は静かに下を向き、霊体全体がとても切なそうに見えた。怨霊じゃなければ、床から立ち上がって静かに浮かんで去っていく様子は、実に少し面白い。


「でも、あなたを助けることができる人は知っている」彼女の顔が私の目の前に一瞬大きくなった。悪口を言って逃げ出す気持ちを抑えるため本当に全ての修為を使い切った。


 怖いからやめてもらえないか!心臓にそんな負担をかけたら耐えられないよ!


 財布から黄色の名刺をゆっくりと取り出して渡した。「これが彼の名刺です。見た目で彼を嫌いにならないでください。あなたのことを本当に助けられる人ですから」私の部屋の箒は「彼」が特別に作ってくれたものだ。どんな方法で加持したのがわからないが、見た目は普通の箒だけど実際は亡霊を退治する武器でもある。亡霊がいなければ掃除することもできるのでとても実用的である。


 彼女は名刺を手に取り、大切にしそうに握りしめて胸の前に寄せ、彼女を救う最後の藁のようだった。彼女は私に九十度まで頭を深く下げてから空中に消えた。


 役に立たないとは言わないでください。誰かさんが口頭で励ますことと違い、専門家へ紹介してあげたのでちゃんと手伝っていたよ。



 数日後、幽霊屋敷からそう遠くない大きな溝で発見された女性の遺体が主要メディアに報道され、浮かばせないように遺体を入れたゴミ袋に石が詰められていた。犯人は既に逮捕され、逮捕された場所はなぜだか病院の集中治療室だった。漂流遺体が発見される前日、犯人は飲酒運転で交通事故に遭い、両手を粉砕骨折になり、顔全体がぶつけられて豚の頭のようになった。頭をぶつけたせいかどうかはわからないが、日が暮れると彼は空気に「ここに来るな!」「許してください!」「首が痛い。息ができない!」など言葉を叫んでいた。


 罰が当たったとみんなが言っているけど……「仇を返す」または「八つ当たり」の方が適切だと思う。しかも、数日前に彼に連絡した時、彼が中間テストで非常にストレスがたまり、不運な相手を探して発散したいと文句を言っていた。


 あの病院の外観はどこかで見たことがある、もしかして……テレビを消し、パソコンで少し検索していると、集中治療室の患者リストから奴のカルテを見つけた。上記に記載していた「多発外傷」の診断と犯人のレントゲンを見ると……


 蒼藍ツァンランってやつってさ……


 よくやった!



明廷深

診断と評価:百年間に手がつけられない幽霊屋敷の討伐を無事に成功し、報酬を受け取りに地下に戻った。次回は自信度の増加を評価するため診断を行う。要観察。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る