4-6 「大切な人、愛する人、かけがえのない人をもう送り出したくないんだ!」
「……」
「家族の葬式が終わった後、突然何もすることがなくなった。元々校正の仕事と予備校で国語講師をしていたが、三ヶ月休んだ結果、両方の仕事とも失った。かつて僕は家の家事担当と猫の世話係だったが、両親も兄も猫もみんながなくなって、四十坪の中二階から二十坪のワンルームに引っ越した後、一日長くても三十分で全ての家事を完成できるようになった」
冀楓晩の視線がぼんやりになってきた。「最初は……正直に言うと、その頃どうやって過ごしていたのかあまり覚えていない。その後、十五日ほど経ち、有思が鍵屋に解錠依頼して部屋に入り、僕をソファーから立上げさせた。彼の上司が彼に小説専門の新しい部門を設立してほしいと言っていると教えてくれた。原稿がないので僕に書いてほしいと頼んだ。僕が何を書けばいいのかわからないと言うと、彼は、書きたいもの何でもいいよ、僕が書くことができるなら、何でも出版する、できない人は相手のことをお爺さんって尊称するよと言った」
「……」
「彼はただ愚かな発破をかけているだけと思ったが、有思が去った後、突然思いついたんだ。もし僕の家族がまだ生きていて、そして彼らが念願のものを手に入れたらどうなるでしょう?」
冀楓晩は目を閉じて言った。
「この考えはどんどん制御不能になり、僕が正気に戻ったとき、すでに三つのシリーズの大まかなあらすじを書いていた。兄は推理小説が好きで、かつて神様が彼に超能力を与えるならば、彼は植物とコミュニケーションを取る能力を選ぶと言った。だから、ある日起きて、今日の午後、誰かが向かいのビルの隣人を暗殺するとベランダのポトスが言っているのを聞いたという設定にした。
母は世界中を旅しているツアーガイド兼日本アイドルのファンであり、よくスーツケースをボロボロまでに使い、ずっと丈夫で軽いスーツケースが欲しかったので、ある日偶然レアメタルでできたスーツケースを手に入れ、開けてしまうと彼女の推しは薬で眠らされたてスーツケースに入れられたという設定にした。
父は中学教師で、趣味は太極拳を練習することと武侠小説を読むことだったので、ある日買い物をするときに、偶然絶世の武術や達人の秘宝が載っている本を買ってしまい、実は武道は彼の傍らにあったとびっくりしたという設定にした。
そして、うちの猫はこの三つの物語を貫き、一見すると何もわかっていない飼い猫に見えるが、実際彼はかなり修練して、大きくなったり小さくなったりすることができる化け猫であり、最大の趣味は缶詰を盗み食い。いつも空き缶を隠して飼い主に自分が缶詰を注文していないと思わせる」
小未の上半身が一瞬震えた。「つまり、『ベランダのポトスは騒ぎすぎ』、『合金スーツケース』、『武道秘伝書三冊五十元でネギ付き』の主人公は……」
「僕の家族だ。もちろん名前を変えたけど」
冀楓晩は小未の言いかけた言葉を続け、過去を振り返った。「僕はあらすじを有思に送り、返事を待たずに書き始めた。飲食と睡眠などの生理的欲求と必要な取材以外に、僕は一日中パソコンの前に原稿を書いていた。出版社のスタイルと大衆の好みにどう迎合するかともう考えない。ただ家族に最高に刺激的で後悔のない人生を送らせたく夢を叶えてあげたいと思っていた。ずっとこもって執筆していたが、出版社が国際ブックフェアで僕のサイン会を開催すると有思から聞いた」
「あのサイン会を知っています!サイン会の楓晩さんはとてもかっこよかったです!」
「それは前日に有思が僕を顔のエステと美容室に連れて行ったからだよ、さらにメイクさんまで現場に来てもらった」
冀楓晩の口角はわずかに上がった。「有思にステージへ押し上げられる前に、有思と彼の上司が狂っていなければ、間違えなく二人とも宝くじに当たったんだろうと思っていた。僕のような二十三流の若手作家がサイン会をやるなんて、きっと大外れに違いないと思った。だからお客さんたちが僕に向かって叫んだとき、僕の即時反応は、『間違ったステージが上がっていて、観客が僕を追い払っている』というものだった」
「違いますよ!」
「有思も同じことを行った。楽屋に逃げようとした僕を押しのけて、ステージの下にいたのは全て僕の読者だと言い、どれだけの人々が僕の物語を気に入ってくれて、続編を待っているのと目を大きく開いて見ようと教えてくれた」
冀楓晩の顔の笑みは微かに深まり、思い出し続けた。「その後の日々は本当にクレイジーだった。出版社はたくさんのメディアのインタビューを入れてくれた。外出するときに顔を隠さないと、サインを求めるように人々に止められた。同時に、二ヶ月一冊のスピードで原稿を提出しないといけなくて、それから時々、インターネットで僕の家族について議論している人々を見かけていた。もちらん、彼らは本の中の仮名を呼んでいた」
「……」
「その後、僕の本は漫画化やドラマCD化されて、ネットフラックスに目をつけられ、映画化権を買ってくれた。僕は二日間茫然としてから一週間も興奮した。それから実写化に専念して、毎日早く作品を見るのを楽しみにしていた。プレミア試写会の前夜は眠れないほど興奮していた」
冀楓晩の口角は、最初は上がっていたが、徐々に真一文字に引き結んだ。「しかし、その日劇場に座って大画面の映像に向き合うと、一分一秒でも早く飛び出したかった」
「ドラマの撮影が下手だと思っていますか?」
「下手か上手かの問題ではないが……」
冀楓晩は最後の言葉を伸ばし、しばらく止まってから続けた。「それは僕の家族ではない!最優秀俳優賞の受賞者たちが演じ、金賞を受賞したメイクさんが顔作り、ベテランの監督とカメラマンが撮影した見知らぬ人だった!過去二十年以上毎日僕を起こして、もっと運動してもっと寝てと言ってくれて、僕と一緒に笑ったり喧嘩をしたりをした家族ではない!」
「楓晩さん……」
「僕の家族はスクリーンにいない」
冀楓晩がきつく閉じた目が突然震え、涙が流れ出した。「スクリーンにいない。プレミア試写会にいない。僕が住んでいたアパートにいない。僕の本にもいない。彼らは遠く離れた場所に行ってしまった。僕だけが元の場所に留まって、他の人たちが彼らと似たような名前をつけ、僕の記憶と全く違う人を演じているのを見ていた」
「……」
「それからは、もう近づくことができない……いいえ、その三つのシリーズに書いた場所を見ることすらできなくなった。プレミア試写会で意識したことを意識させられる──僕の家族はどこにもいないって」
冀楓晩は涙でぼやけた目を開け、醜い笑みを浮かべて言った。「バカバカしいよね。五年も経ってから家族を失ったことに実感を湧くやつなんていないだろう」
「全くバカバカしくないです」
小未は側にぶら下げた手を握り締めた。「楓晩さんの声がとても苦しそうに聞こえていますが、私ができることはありますか?」
「あなたができること……」
冀楓晩はつぶやき、数秒沈黙した後、口を開いて尋ねた。「ちゃんとバックアップしている?」
「はい!私は一時間ごとにクラウドにバックアップしています。毎日電源を切るとき、充電スタンドのハードドライブデータでも私のデータを保存しています」
「それならいい。人間はバックアップできない。人工ニューロンや幹細胞で臓器を作り、死者の記憶をある程度抽出できたとしても、死者を蘇らせることは絶対できない」
冀楓晩は腕を上げて目を覆い、声が徐々に安定から震える声に変わった。「だから、人間が死んだら終わりだ。逆転できないし、取り返しがつかないし、代替するものは永遠にない。そして、人間は簡単に死ぬんだ。不健康な人は病気で死にやすく、健康な人は事故に遭うこともある。前兆がないし、規則もない」
「楓晩……」
「大切な人、愛する人、かけがえのない人をもう送り出したくないんだ!」
冀楓晩は突然悲鳴をあげ、両目を押さえた腕から、腕につながっている肩、さらに上半身全体が震え、前腕の影に覆われて泣いた。「もう……二度としたくない。だから新しい人には知り合わない。今の知り合いで十分だ。あなたもしっかりバックアップして、僕はもう……二度としたくない……」
「もう二度と起きませんよ」
小未は冀楓晩の叫びを優しく止め、作家の腕を引き離した。そして、俯いて相手をじっと見つめ、しっかりと微笑んだ。「私はあなたに末永く寄り添うために生まれたアンドロイド人形です。決してあなたを一人にさせません」
冀楓晩は目を大きく開き、目と鼻の先にあるその笑顔を見つめた。その瞬間、彼の胸が熱くなった。彼は上半身を起こして小未を椅子の背もたれに押し倒し、覆い被さってアンドロイドの唇にキスをした。
このキスは下手で乱暴だった。冀楓晩は小未の唇を勢いよく噛み、貪欲に相手の舌と息を吸っていた。自分の酸素が尽きてから、ソファーに手をついて頭をもたげた。
小未は椅子の背もたれにもたれかかったまま、口の端には冀楓晩が残した噛み跡と涎の跡がある。細い茶髪が額を乱雑に覆い、頬が赤潮して恍惚な表情をしたが、その淡い瞳がずっと冀楓晩をまっすぐに見つめていた。
冀楓晩は目の前にいる、時折自分の頭痛の種だったり、言葉を失わせたり、人生を疑わせたりするものの、自分を理解し、反応し、自分しか見ていないアンドロイドを見つめていた。まるでカイロを胸に詰め込んだように、彼の胸全体がとても暖かくなった。
かわいい、あまりにもかわいくてどうしたらいいのかわからない。これは夢なのか、それともただの誤解であるのではないかと疑った。喜び、興奮、不安が冀楓晩の胸を満たし、彼は動かずに小未を見つめていた。
冀楓晩の行動に困惑した小未は、眉をひそめながら冀楓晩に近づき、「どうしたんですか?気持ち悪いですか?」と尋ねた。
「僕……」
冀楓晩は言葉を伸ばし、突然手をあげて小未の眉間を突いて、「もういいよと言う前に、目を開けたらダメと言ったよね」と言った。
「ごめんなさい、でも楓晩さんの顔がどうしても見たいのです」
小未は眉間に突き刺した冀楓晩の手を引き下ろし、自分の頬に当ててうっとりして言った。「どうしよう?今は喜んでいる場合ではないですが、私はとても嬉しいです。楓晩さんは誰も知らないことを私に話してくれて、私を『大切な人、愛する人、かけがえのない人』のリストまでに入れてくれて……嬉しいです、とても嬉しいです。今すぐあなたを押し倒したいです!」
「どこからその言葉を覚えたんだ?」
「楓晩さんのファンページの人が……ううっ!」
小未の声が喉に封じられた。彼は突然キスしてきた冀楓晩を目見開いて見つめ、胸が熱くなり、目を閉じて幸せそうに合わせていた。
冀楓晩は小未の口に舌を入れ、自分が残した噛み跡を撫でるかのようにアンドロイドの唇を優しく吸い込んだ。そして、相手の舌と歯に舌を這わせた後、呼吸のために少し後ずさりしたが、次の瞬間に再び相手を椅子の背もたれに押しつけて長くて深くて温かいキスを続けていた。
そして、冀楓晩が後ずさりしたとき、小未はすでに腕で彼の首に巻きつけており、唇が湿っていて少し腫れており、淡い瞳には欲望に染められていた。
冀楓晩は手を上げて小未の下唇を撫で、ゆっくりと尋ねた。「朝さ、遊園地に連れて行ったら、夜セックスする気力がなくなるって言ってたよね?」
「はい……あ!ごめんなさい、さっき……」
「じゃあ、やろう」
冀楓晩は小未の話を遮り、小未の手を引っ張って手のひらにキスをした。それから手を離して自分のシャツのボタンを外し、低い声でと言った。
「僕の体力はそれほど悪くないと、体で証明してみせるから」
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