3-6 「わたし……どうしても……楓晩さんとセックスしたいです!」
ココナッツケーキ、トロピカルフルーツゼリーとガパオサンドのタイ風アフタヌーンティーを食べた後、二人は再び服を買う旅に出かけた。
再びファンにバレることを防ぐために、冀楓晩はわざと髪を乱すだけでなく、買い物の場所を別のデパートにし、小未にペンネームを明かさないように真剣に要求した。
小未は静かに頷いたが、彼の多くの暴走行為を考えると、冀楓晩は相変わらず高度警戒をしていた。
しかし、冀楓晩の予想と異なり、小未は自分が驚くようなことは何もせず、真剣に服を選んでいた。
もちろん、厳密に言えば、小未の選び方は非常に微妙で、ほとんど服に目を向けずに冀楓晩の顔に焦点を当てた。作家が特定のテナントや服に少しでも注意を払っていることに気づくとすぐに、入店したいとか試着したいと言い出した。
試着中の行動はさらに奇妙で、小未が服を着かえると、冀楓晩の周り回って、作家の呼吸、心拍数と表情の変化をじっくり観察し、正面にある全身鏡を完全に無視していた。
冀楓晩は何かがおかしいと微かに感じたが、小未は一日平均で彼が理解できない行動が少なくとも三つはあると思うと、あまり深く考えていなかった。
彼らは三つのテナントで五セットの外出着を購入し、紙袋を持ってアパートに戻るのに約一時間以上かかった。
その夜、冀楓晩の執筆速度は以前の半分に戻り、この稀な良い状態を無駄にしたくないので、彼はコーヒーを淹れ、書斎で休まずに書き続けた。
「ふう……それぐらいか」
冀楓晩は保存ボタンを押し、オフィスチェアを机から少し離して、こわばった両手や首を動かした。
彼が手を下ろすのとほぼ同時に、小未の声がドアの向こうから聞こえた。
「楓晩さん、夜食はいかがですか?」
「この時間に食べると体にも睡眠にも良くない」
「睡眠によく、消化しやすいヘルシーな食べ物を用意します」
──いいえ、お腹が空いてない。
冀楓晩はそう言おうとした時、彼の胃腸は抗議しているように二回痙攣した。数秒間沈黙した後、彼は口に出す言葉をかえた。「じゃあ頼むね。シンプルなものでいい、量はそんなに要らない」
「はい」
ドアの向こう側は静かになり、食事を待っている間、冀楓晩はパソコンでカフェミュージックを流し、椅子に腕と足を伸ばし、頭を空っぽにして天井を見つめていた。
数分後、書斎の扉が開き、小未がトレーを持って部屋に入ってきた。
冀楓晩はドアの方を見て、お礼を言おうとしたが、口から体まで一瞬で凍りついた。
彼が凍りついた原因は、夜食の内容ではなく──小未は、醤油をかけたトマトのスライス、ゆで卵と砕いたナッツを乗せたヨーグルトを用意していた。──原因は小未の格好だった。
小未は彼が昨日クローゼットから取り出したシャツを着ていたが、他には何も着ていなかった。
「机に置いてもいいですか?」
小未は尋ね、裸足で机に向かった。冀楓晩が長い間応答していないことに気づき、頭を傾けてもう一度尋ねた。「楓晩さん、ここに置いてもいいですか?」
冀楓晩は肩を震わせて我に返り、最初に頷き、次に小未のシャツを見つめて質問した。「この服はなに?」
「新しい服を洗濯しましたが、まだ乾いてません。元の服は汚れてしまいました」
「二着とも?」
「はい」
小未は頷き、片手にトマトのスライスをさし、片手はフォークの下方に置き、冀楓晩の方に寄りかかって言った。「楓晩さん、あーん──」
「自分ででき……」
「あーん──」小未が促した。
仕方なく、冀楓晩は口を開いてトマトのスライスを噛むことしかできず、彼の視線は自然とまっすぐ前を向き、かがんで垂れ下がったシャツの襟を通り抜け、何度も彼の心の琴線を揺さぶったピンク色の胸に着地した。最初に体が硬くなり、目をそらそうとした時小未は寄ってきた。
「美味しいですか?」
小未の鼻の先端から冀楓晩の顔までは手のひら位の距離しかない。 繊細な首元、彫刻されたような鎖骨、シャツの影に隠れた小丘のような胸が作家の瞳に映し出されていた。
冀楓晩は喉仏を動かし、パソコンが流れたセクシーな低音の女性歌手の歌を聞き、胸のモヤモヤ感はどんどんムンムンになってきた。
「楓晩さん?」
小未は瞬きをし、体がわずかに片側に傾き、襟元がずり落ち、肩の一角を見せつけた。
冀楓晩は小未の肩をじっと見つめ、ムンムンからムラムラに変わる一秒前に、彼はアンドロイドを押しのけ、フォークを奪い取って言った。「味は悪くない。これからは自分で食べる」
「私が食べさせると、楓晩さんの両手は他のことに使えます」
「今日の仕事は終わった。他にすることは何もない」
冀楓晩は腕や頭を回して言った。「その上、僕の肩と首はこわばっているから、休むじゃなく動かす必要がある」
「マッサージしてあげましょうか?」
──いらない。
冀楓晩はそう答えるつもりだったが、もし自分がマッサージを受けたら小未が視界の死角に立つだろうと思ったので、気持ちが変わり、背を向けて椅子にもたれかかって言った。「力を入れていいよ、痛いのは嫌じゃないから。よろしくね」
「頑張ります!」
小未は冀楓晩の後ろに素早く行き、両手を相手の肩に置いて、こわばった筋肉を真剣に揉み始めた。
冀楓晩は最初痛みを感じていたが、どんどん気持ちよくなり、小未のマッサージで体が少しずつリラックスしてきて、まぶたもどんどん垂れ下がってきた。
小未の指と手のひらは冀楓晩の腕に沿って下り、上腕から前腕まで揉み擦って、最後に拳を握りしめ、作家の太ももを叩き始めた。
この動作により、冀楓晩は急に恍惚状態から抜け出した。目を開けると小未が自分の膝の上に横たわっているのが見えた。その引き締まったウエストラインが淡い明かりで覆われていた。腰をかがめたゆえ、お尻が持ち上げられてシャツの裾の下でシルエットと丸みを作り、叩くたびに微かに揺れているのが見えた。
冀楓晩は二秒ほど頭が真っ白になり、慌てて小未を押しのけ、「何をしているんだ!」と叫んだ。
小未は顔を上げ、「足を叩いてあげます」と言った。
「いらない!」
冀楓晩は声を荒らげて答えた。小未が何かを言う前に目をそらして言った。「もういい、夜食の食器は自分で洗うから、君は充電スタンドに戻って電源を切って充電しろう」
小未は腰を伸ばし、書斎を出ず、冀楓晩が予想したような暴れる事もしなかった。ただ作家をじっと見つめ、肩を震わし涙を流した。
「おい、君どうした……」
「す、すみません、楓晩さん」
小未は拳を握りしめ、不器用に涙を拭き、唇を震わせて悔しそうに言った。「わたし……どうしても……楓晩さんとセックスしたいです!」
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