Ch.24 遡行
夜は暗く、島は静寂に包まれていた。
周囲の波が押し寄せ、今この瞬間の寂しさゆえに、島の中にいても打ち寄せる波の音が聞こえる。
「まだ行かないの?」と彼が尋ねた。
「もうちょっと待って」と彼は言った。
短い会話の後は長い沈黙だった。彼は唯一の絆に恋しく見て別れを告げた。
「時間がなくなってきた。彼はまだ行けるの?」と彼が再び尋ねた。
「十分だ」と彼は答えた。
少しためらった後、「あなたは戻ってくるべきではなかった」と彼は勧告した。
彼は笑ってしまった。「どこに行けばいいの?」
そうだ。どこに行けばいいのか?留まり彷徨って、右往左往し、結局波の呼び声に逆らうことができない。時に慎重に慎重を重ねても良い結果は得られない。ただ刃で枝を切り払うように、魂を切り裂いても、自分でも想像したことのない模様にさせられる。
彼らは一緒に顔を上げ、ひっくり返った空を見上げた。透き通り青く華やかな光がゆっくりと滲んでいく。静かで優しく、そして無慈悲に島全体を覆っていた。輝く光輪で繋がれたテープはまるで母親の愛撫のように彼らを優しく掠めた。それはまるで彼らの人生を貫く逃れる事ができない運命のようなものであった。
彼らは、神に仕える信者の謙虚さで、無力な蟻のように再び一緒に首を垂れた。
「あああ!――」
早朝、向経年は甲高い叫び声で目を覚ました。
目を開ける前に、彼に向かって色々な物が飛んで来てぶつかり頭がくらくらした。曹永賀は彼の側で痛いと叫び、悲鳴を上げた。
「待っ、どうしたんだ……」向経年が目を開け、ベッドの隣に立っている阿月おばさんは、一方の手には箒を持ち、狂ったように置いてある物全てを手当たり次第に彼らに投げた。
「……阿月おばさん?待って、どうしたの?」曹永賀は腫れた頬をこすりながら慌てて質問した。
驚いた事に、それを聞いた阿月おばさんは一瞬立ち止まって、すぐにより大声と手に持った箒で彼らを攻撃した。「忌々しい!どこからきた泥棒だ!私の名前をどうして知っている!?出て行け!」
「いや、阿月おばさん、俺たちだよ!」向経年は説明しながら箒の攻撃を交わしながら説明した。「村長は俺たちをここに来させたんだよ!」
しかし、この言葉に阿月おばさんはさらに怒りを増し、手に持った竹箒を勢いよく振った。「くそ!この泥棒ら、人をバカにしている!村長が見知らぬ二人の男を私の家に住ませるわけがない!人のものを盗んだ上に虚言まで言うの?最低の馬鹿泥棒は出て行け!」彼女は罵倒した。
「ここで何が起こっていますか?」驚かされているように見えた譚雁光は急いで状況確認をしにきたが、混乱している場面を見た。「……阿月おばさん?」
阿月おばさんは譚雁光を見たとき、一瞬凍り付いた後、人生で最も大きいかもしれない絶叫を上げた。怖がっているように手に持った武器を振りながら、助けを求めた。「助けて!――三人の泥棒が私の家に入ってきたよ――」
助けを求める叫び声はあまりにも大きかったため、隣人まで届いた。向経年は、誰かが外で話し合っているのを聞いた。
譚雁光はその大きな声に唖然とし、状況が全く理解できなかった。
向経年は慌てて自分を整えて、側で呆気にとられている曹永賀を掴み、ついでに我を忘れている譚雁光を引っ張って外へ走った。「まず外へ行こう」
三人はドアからよろめきながら出て、中庭を出るとすぐに島民二、三人が外でキョロキョロしているのがわかった。
阿月おばさんの怒声や竹箒がすぐ後ろに迫り、三人が息をつく前に致命的な彼らの追跡命令が聞こえた。
「——そこのこそ泥たちを捕まえてくれ!」阿月おばさんは家のまで怒鳴りつけた。
キョロキョロしていた島民たちは、阿月おばさんの怒声を聞いて、熱心に『泥棒を捕まえよう』と駆けつけた。
「あいつらを捕まえろ!」
「泥棒!」
「逃げるんじゃねぇぞ」
島民は彼らを捕まえようと次々に駆けつけてきた。興奮した島民の何人かが棒で彼らを攻撃しようとした。向経年は二人を掴み、引っ張りながら逃げて走り続けた。そして、島民の防守を次々と駆け抜け、よろめきながら路地に出た。
曹永賀はドアから出てからずっと横で耳を劈くような騒音を立てた。「あああーー——助けてーー向兄の隣の奴が来るーー」
「うるせぇ!」向経年は曹永賀を掴んでもう一名の島民を避けた。「黙ってくれる?」
「無理!ーー」曹永賀は悲鳴を上げた。「ズボンもまだきちんと履いてないのに、一体どういうことなんだよ!」
向経年は彼を無視し、振り向いて隣にいる譚雁光に尋ねた。「お兄さんは?」
「元々、あなたたちに、聞きたかった」譚雁光は走りながら喘いだ。「今朝起きた時、彼の姿がありませんでした」
「彼はあなたを起こさなかった?」と向経年は尋ねた。
譚雁光は頭を振っただけで、すぐに「気をつけて!」と叫んだ。
向経年が振り返ると、棒が目の前に近づいてきた。彼はかろうじて避け、同時にその島民を蹴り返した。二人を引っ張って狭い路地に飛び込んだ。
三人はうろたえて住宅街の路地に逃げた。幸いなことに住宅街の路地は決して広くなく複雑だった。迫って来る島民から逃げ出すためにあちこちに方向を変え、最後に路地の隅にある小さくて目立たない公園に逃げ込んだ。公園の真ん中は砂場があり、それほど大きくない山の造形物があった。昔の公園によくあった石山の造形物のようなもので、下方にいくつかの小さな洞穴があった。本来は子供たちの遊ぶ場所だったが、今は三人の絶望している成年男性でいっぱいで皆体を入れるために膝対膝、つま先対つま先でしゃがまなければならなかった。
「追ってきた人はいますか?」譚雁光が尋ねた。
洞穴の入り口にいた曹永賀は頭を突き出して確認した。「誰もいない」
三人は息をつくことができた。しばらくの間、狭い洞穴の中には三人の荒い息遣いしかなかった。曹永賀は頭を引っ込め、「どういうことなの?阿月おばさんたちが急に僕たちがわからなくなったのは何故だ?」と尋ねた。
「わからない」向経年は呼吸を整え、目が覚めたばかりで整える時間がなかったボサボサの髪をかきあげた。「状況を理解する前に追い出された」
「でも、僕たちは逃げる必要はなくない?」曹永賀は汗びしょびしょの頭を服で拭きながら言った。「たち止まって説明できなかったか?逃げると、僕たちが泥棒であることを認めたように見えるけど?」
向経年は一瞬沈黙し、静かに言った。「……そこまで考えていなかった」
これを聞いた曹永賀は、『お前は何をしてんだよ』という表情をして、殺意のある眼差しを向経年に投げかけた。
向経年は罪悪感で目をそらし、咳払いするふりをして、その件をスキップしようとした。彼は譚雁光に目を向けた。「エッヘン……雁光、さっき朝起きたらお兄さんがいないって言ってた――」と言った。
目が合ってしまうと、向経年の話がまだ終えていないのに、相手が感電したように目をそらした。
「――昨日の夜、お兄さんはまだいたの?」向経年は一瞬立ち止まって、話を続けた。
「あ、うん……」譚雁光は目を合わせないようにしながら口を開き、かすれた声で答えた。「昨日寝る前にまだいました。どこに行ったのかわからないです」
――これで、譚雁光は昨日酔っ払った後のことを今でも覚えているだろうと、向経年は確信した。
今、相手はおそらく昨日飲酒後の発言に後悔して、心の中で葛藤しているのではと思うと、向経年は笑いたくなってきた。
これにより、緊張していた向経年はだいぶリラックスした。彼は落ち着いて考えてみた。「阿月おばさんを見た感じは、嘘ではなく、俺たちのことを本当に知らないようだ」
「昨日阿月おばさんはまだ普通だったよ」曹永賀は話を続けた。「まだ姪っ子を紹介することを諦めてなかったのに」
「もしかして……この前に遭遇した阿財兄との同じ『状況』ですか?」気分を落ち着かせたようで、譚雁光も討論に加わった。ただ彼の視線はずっと地面に固定したまま、二度と向経年を見ないように決意したみたいだ。
譚雁光の姿を見ると、向経年は笑ってしまいそうだった。彼は笑いを噛み殺し、真剣になってじっくり考えた。「でもちょっと違う。阿月おばさんは、そういう『故障』した感じがなかった」
「阿月おばさんだけでなく、他の人もそうだけど。昨日近所の人たちと雑談していたが、皆は僕たちのことを忘れてしまったみたい」この時、曹永賀は話に割り込んだ。「今はどうすればいいの?それとも村長のところに行って自白するか?」
「本当に自白する?自首にならないか?」向経年は聞き返した。
「自首になったら向兄のせいだな!」曹永賀は怒りながら反論した。「向兄が逃げたから僕たちが泥棒になってしまったんだ!」
『ギィ——ン』
突然、電流のような聞き苦しいアナウンスのノイズが空中に響き渡り、すぐに聞き覚えのある声が耳に入った。
『村の皆さん、おはようございます。村長の黄土明です』
これを聞いた向経年は曹永賀をからかわずにはいられなかった。「お前の口は何なんだ?噂をすれば影が差す」
「違うでしょう?」曹永賀は縁起でもないことを言う人というイメージを払拭したくて、反論しようとしたが、隣の譚雁光に止められた。
「シー!彼のいうことを聞いてください」譚雁光は曹永賀の腕を押さえつけ、皆に注意深く聞くように示した。
放送はまだ続いている。
『――村の皆さんは衛生管理に気をつけてください。また、明日は年に一度の建国記念日です。全ての世帯はきれいな町を作り、庭がある方はきれいにするように心がけましょう!夜にはイベンドを行いますので、皆様のご参加をお待ちしております。以上』
『カダ』という音がし、放送が突然停止した。
人々の静かな呼吸音が小さな洞穴に響き、造形物の壁にぶつかってエコーになった。無限に響き渡っているが、誰も止めなかった。
曹永賀は心配そうに口を開いた。「さっき……建国記念日と言ったよね?聞き間違いじゃないよね?」
「彼は、明日が建国記念日(十月十日)だと言った」向経年は低い声で答えた。「俺たち来た日は、十月二十日だった」
「い、いったい、どういうこと?!」曹永賀は信じられない顔をした。「またタイムスリップしたの?さらに十日以上前に戻った?このタイムスリップは不規則すぎるだろ!」
向経年は答えを見つけることができず、彼自身も相当混乱していた。「タイムスリップと言うよりも、俺たちは一緒に十数日前に戻ったようなものだ。だから阿月おばさんは俺たちを知らないんだ。でも……原因は何?」
「待って、一緒に遡行したなら」譚雁光は青ざめた顔で二人の会話に割り込んだ。「……僕のお兄さんはどこに行ったんですか?」
この質問には誰も答えられなかった。
『ギィ——ン』
突然、聞き苦しいアナウンスが再び始まった。
『――エッヘン、こんにちは、村長の黄土明です。たった今、三人の泥棒がうちの島に侵入しました。三人とも二十代から三十代間の男性です。全ての村人は注意してください。彼らを見かけましたら直ちに村長事務所に通報してください。繰り返します。見かけましたら直ちに村長事務所に通報してください。全ての村人は、心一つにして協力し助け合いましょう!以上』
『カダ』という音がし、放送が再び無情に停止した。
「自白すらできなくなったねできなくなったね」向経年はため息をついた。
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