海塩の結晶

江藻/KadoKado 角角者

プロローグ

 結晶塩、一粒ごとには数え切れず沸騰と蒸発を繰り返して少しずつ凝縮していく。

 しかし、水に出会うと跡形もなくすぐに溶けてしまう。


 記憶もそうだ。


 人間は忘却の生き物である。些細なこと、重要なこと、そうでないことも簡単に忘れてしまい、何事も無かったかのように生き続ける。

 人間は記憶の生き物でもある。私たちの人生には墓に入っても忘れられない事は常にいくつかある。鑿で魂の奥深くまで刻み込まれるようで、選択する権利もなく想像もしなかった自分へと彫り込まれる。


 記憶は結晶塩のようなものだ。水に溶けて波に隠れていたとしても、いつか海が再び巻き上げると、太陽の熱で蒸発してすべての塩分が浮かび上がりまた少しずつ凝縮していく。


 来世でも忘れられない。

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