第十一章 地下室のコレクション(3)

「じゃあ、なぜ供えた果物を食べると体を温まるのに、飴はダメだった理由を説明してくれない?」陸子涼は聞いた。

「あんたの霊体が傷付いたため、弱すぎるんだ。供えた果物が神様の力が染まっているので、あんたの回復に役が立つんだ。温まるんじゃない」光ってる赤い糸が月下老人の手にいっぱいあった。月下老人は俯いて、「飴もいいけど、いかんせん人の手による加工品だし、自然なものでもないし、効果も遅い」と言った。

「これ酸っぱ過ぎだ……食べない?」

「自分で食べ切れ。食べ物を無駄にするな」

グェツァイはいつ俺を迎えに来るの?」

 月下老人はしばし間を置いた。「もうすぐだ」

 と、そのとき、突然外から強い風が吹き荒れ、木製のドアをガタガタと揺らしていた。 誰かが来るようだった。

 陸子涼は振り向いた。「こんなに速いのか?」

 月下老人はすっと立ち上がり、顔色が非常に険しくなった。

 空気の中、威圧が急に高まっていた。外でのあの神霊だけが特有する神力が広がり、扉を貫いた。威嚇力が尋常ではなかった!

 陸子涼もおかしいと薄々感じていた。彼はゆっくりと立ち上がり、あの力がを非常に身近なものだと感じていた。あらためて振り向いて月下老人の表情を見ていたら、不意に、「ひょっとして……陸子秋なのか?」と聞いた。

 月下老人は彼に冷たく目を向けた。

 落ち込んでいた陸子涼の心が急に高まり、少し胸騒ぎがした。「彼は大丈夫だったよね?彼は献身儀式を成し遂げ、城隍になったのか?!」

 彼は振り向いて、ドアを開こうとしている──

「外に出るな!」と月下老人はきつく言った。

 その口調があまりにもきつ過ぎたので、陸子涼はかなり怯えた!

 月下老人は陸子涼を引きずり、ひざまずくに使う膝当てに押され、座らせた。張りのある声で、非常に厳しく繰り返した。「ここにいてろ。外に出るな。わかったか?」

 陸子涼は茫然としていた。

 実はこの前も、陸子涼は何度も月下老人が陸子秋から彼を守りたがっているような感じをした。陸子秋をあまり近づけさせず、陸子秋に触れさせなかった。

 しかし、彼はその訳がわからなかった。

 それに、月下老人はまったく説明するつもりがない。

 月下老人の若々しい顔が強張っていて、一人で側殿から出ていった。月下老人が一歩踏み出された途端、殿の扉は再びパタンと閉まり、頑丈に封じ込められた。

 雨が激しく降っていた。

 遠くのほうから稲妻が光り、雷がどかどか鳴り響いた。

 月下老人は物音一つ立てずに廟の回廊を回り、立ち止まった。

 廟の屋根から滝のような雨がどしゃどしゃ降り注いでいた。雨に打たれた石造りの洗面台の前に、既に本当の廟の主となっていた陸子秋が立った。

 この新しい城隍は手を洗っていた。

 月下老人の目線が城隍のゴシゴシ洗っている手から、城隍の血だらけの体に移った。

 城隍のこの身体は血の雨に打たれたように見えた。毛先まで、血が滴り落ち、強烈な生臭いにおいが広がり、残虐なオーラが漂っていた。

 月下老人が信じらないように、顔色は衝撃と怒りが交錯していた。しばらくしてから、「君は一体何をしていたんだ?」と枯れた声で聞いた。

 城隍は顔を上げもしない。「ただ一体の悪霊を殺しただけだ」

 月老の眼差しが複雑で、「悪霊だと?あれは悪霊だったのか?いくら彼が極悪非道であっても、まだ生きている人間だった!生きている人間であれば、人間の法律を用いるべきだ。君がしたことは一体何なんだ?」と怒りしなっがら言っていた。

「生きている人間だと?あんなモノは人間失格だ。魂が既に悪霊に堕ちていったから、僕自ら手を付けることを責めんな。僕が王銘勝を始末することが当然のことだ」城隍は微笑んでいた。「文句でもあんの?同僚さん?」

 月下老人が信じられなかった。「君一体どうしたんだ?自分のしたことが間違っていないと本気で思っているのか?僕らの管轄地域には、もっと悪い悪霊がいるのに、なんでわざと王銘勝を始末したの?君はただの私心があっただろ!」

 城隍は手をきれいに洗っていたら、蛇口を閉めた。

「結果的には、管轄地域内の害が一つ減ったことはいいことだろ。何を気にしているのか」城隍は、「子涼は君の殿内にいるの?」と聞いた。

「そんな姿で彼に会えるなんて思うな!」月下老人は冷たく言っていた。

 城隍はしばらく沈黙していた。

「一宇の小さいボロボロな廟の月下老人にしては、異常にたくましかったね。君の法器を使って、子涼の赤い糸が間違われたあの悪霊も、君が自ら捕まって、下へ移送したんだろ?僕は初めてここに来たとき、不思議だと思った。君は一体どこからの誰なのだ。禁じられた法器を隠すなんて。君の神格が低くないようだね」と言っていた。

 月下老人は冷笑した。「君のレベルは逆に一つ落ちたんだろ。私のことを気にかける暇があれば、きちんとご自分自身をよく見てみ。どこに問題があるのを確認しろ!」

「うん、落ちるべきだった」城隍は変だとは思わず、淡々と言った。「献身儀式の直後、僕の遺体が意図的に損害された」

 月下老人は眉をひそめた。「君の遺体がまだ廟の裏に埋葬されているのに、損害された可能性はないはずだ」

「あれは僕の遺体じゃなかった」

「どういうこ……」月下老人は一時沈黙し、目をぱっちりと見開いた。「君、まさか──」

「子涼の遺体が警察に発見された。解剖されるかと心配したから、急いで遺体を入れ替えたんだ……はあ、儀式を乗り切ったばかりなのに、すぐに家の大切なかわいい子を心配しなければな。兄としては本当に大変だよ。僕はそのせいで何時間も気を失っていたのよ」

 城隍は月下老人を見上げた。

「君は彼をこのままに冥府へ行かせない、だろう?」

「……」

 言葉にならない沈黙のひとときだった。

 陸子涼は側殿で長らく一人で待っていた。

 扉が再び開くと、月下老人は彼を見つめて、そっと言った。「グェツァイは君を迎えに来た」

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