第十一章 地下室のコレクション(1)

 早朝、明石潭に土砂降りの雨が降り注いだ。

 雨水が冷ややかな風に乗って、街中へ流れ込み、あらゆる家のドアや窓に打ち付けていた。

 どんよりと曇った雲が太陽を覆い、空が薄暗かった。激しい雨は出勤時間まで降り続いた。大通りに渋滞の車列が現れた。

 市立病院の中、回診中の医師が王銘勝の病室に来ていたら、病室の出入口で見張っている警察官の二人がなんと壁にもたれて、熟睡していたことを発見していた。

 医師が彼らの職務怠慢に驚いたが、彼らは一晩中仕事をしていたことを知り、思いやりがあるため、医師が彼らを起こさず、そのまま病室のドアを開けてしまった。

「……うわあああああ!ああああ!」

 警察官たちが悲鳴で起こされたが、いつ寝落ちしたかもはっきりとわからなかった。なんと頭が酔っているように、ぐらぐらと冴えなかった。二人はよろめきながら、立ち上がり、病室に急いで駆け込んだ──

 目に入ったのは、血に染まっていた真っ赤だった!

 壁にも、窓にも、天井さえも、何もかもが血液にまみれていた。

 病床の上では、昨夜応急処置の末、なんとか一命を救い出した殺人鬼の王銘勝は挽き肉になってしまった。頭のてっぺんから、つま先まで、血肉が粉みじんに砕けた。砕け骨が皮膚に突き刺さって、わずかな肉が付いていた。割れた頭蓋骨は割られた卵のように、赤白色の脳みそが垂れ落ちてしまった。

「うえ、えああああうそだろ!何てことだ!」

「おえ……」

 斎場の旧検死室の外で、梁舒任と郭刑事の携帯が同時に鳴っていた。

 不吉な予感が胸を騒がせた。

 二人はお互いに顔を見合わせてから、それぞれ電話を取り上げた。

 ──王銘勝が殺された。

 梁舒任はショックだった。「はい?」

 郭刑事は解剖を見ようともせず、すぐに外へ走り出して、病院へ駆け込んだ。

 梁舒任は携帯を持ち、ドアの方向に視線を注いでから、ガラスの向こうで行っている検死を見ていると、一時ジレンマに陥っていた。

 突然、別のスタッフが、「梁検事!」と声をかけてきた。

 余裕がない梁舒任検事は振り向くと、あのスタッフがハイヒールを履いたまま、彼のもとへ駆けてきた。手袋をはめていた手に、なんと一枚のカメラ用のメモリカードが入った証拠品袋一つを持っていた!

 梁舒任がパッと目を見開き、心臓の鼓動が速くなっていた。「もしかして……」

 スタッフが喘ぎながら、「先ほど、劉監察医が被害者の胃の中に、メモリカードが見、見当たらなかったとおっしゃったが、白監察医はこの前、把握していたので、私、私はあらためて被害者の持ち物を見てみた。」と言った。彼女の表情が興奮で、微妙だった。「まさか被害者のジャケットの内ポケットにあった!この前、はぁあ息が切れそう、この前は見落としたでしょう!」

 またもう一人が、「梁検事!」と呼んだ

 梁舒任はすぐに振り向いた。検死室のドアが開いて、劉監察医が微妙な顔をして、彼に手を振った。「変なことだから、早く入って!」

 梁舒任はマスクをつけてから入った。「どうした?」

 劉監察医は彼を連れて、解剖台の周りに回った。梁舒任はできる限りに、あの砕かれたので、血まみれになった顔を見ないようにした。知り合いの遺体がこんなに損害され、彼の心の底がずっと重苦しかった。

 劉監察医が死体の左肩を指差した。「ここを見てみ」

 そこにはちょっとまだらな入れ墨が入った。劉監察医が手を伸ばして、端っこにこすってみたら、なんと色が落ちてしまった。

 梁舒任は固まった。「偽りの入れ墨なのか?」

「そう、」劉監察医が言いながら、マウスをクリックし、梁舒任にマスコミが撮った陸子涼が様々な水泳大会に出場した時の写真を見せた。「でもこれを見てみ。陸子涼の体には本当の入れ墨が入った。ほら、高校時代のこの試合ではあったんだろ。明らかに最近入れたものではない。だけど、この死体にある入れ墨はまがい物だ」

 梁舒任ははっと息をのんだ。

 彼は真顔になって、体を傾け、陸子涼が生きていた頃の出場写真を何枚もじっくりと見てから、再び死体の左肩にある、妙に色褪せたり、落ちたりしていた入れ墨を見つめた。

 梁舒任はゾッとした。「この人は陸子涼じゃない?この人は誰だ?」



 雨の日の古民家の四合院の中は、とてつもなく寂しげだった。

 湿った足跡がドアからリビングルームへ進み、そしてリビングルームからダイニングルームへと続いた。

 美しくて大きな紅木の円卓に、白清夙は一人ぼっちで座っていた。

 彼は雨の中で長時間に歩き続けたように、体がずぶ濡れで、水は毛先から滴り落ちていた。真冬の寒さが氷と雪を挟んでいるように、ひたすら骨に沁み込んで、魂をこらせてしまった。

 しかしながら、白清夙は感じないようだった。

 彼の無関心で虚しい目がテーブルの上にある柿を見つめた。彼の耳に、頭の中に、うるさい声が響いていた。

 ──クスクス……

 ──出ていらっしゃいますか?出ていらっしゃいますよね……

 ──あぁ、誰かを殺したい……

 白清夙は力強く目を閉じた。

 元々静かな世界が涼ちゃんが入り込んだ。鮮やかで美しい色を味わったので、二度と静けさに耐えられなくなった。彼が長年にわたって一人暮らしてきたこの家が恐ろしいほど静かだなんて思うようになった時、遠いようで近いようで、幽霊の囁きが聞こえた。

 彼は悪霊の囁きではなく、小涼の声が聞きたかったのに。

 ところが、その囁きの言葉はまるで甘い蠱惑で、一つ一つが彼の心の奥底にある最も強烈な欲望を確実にとらえていた。

 ──小涼を殺した奴らを決して見逃しはしない。

 ──奴らをどう死なせばいいんだろうね……

 ──殺すべき奴が多すぎだろうよ……クス……

 悪霊の囁きがますます近づき、ますます大きくなってきた。

 うす暗いダイニングルームの中で、白清夙が立ち上がった。

 彼の目に映る濃い暗闇が夜色に匹敵していた。びしょ濡れな足を運び、外へ出ていこうと──

 すると、携帯が鳴った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る