第十章 殺人鬼(3)

 陸子涼は突然眉をひそめ、痛みを我慢して目を開けた。

 彼はこの感覚を覚えている。

 八歳の時、陸家の池の底で彼はこの邪悪な川に触れたことがある。

 幼い彼は巨大な邪悪と暗闇に頭を支配され、恐怖で意識を失い、池で溺れ死にかけた。助けられた後、彼の記憶はぶつ切りになった。

 陸子涼はなんとか意識を保ち、頭をひねって下を見やった。

 その時、陸子秋は一体何を見たのだろうか。

 陸子秋は一体どのような恐怖と邪悪に抵抗できた後、城隍として判定されたのか?

 しかし、陸子涼が下を見ても、辺り一面の濃い暗闇しか見えなかった。

 さらに奇妙なことに、この暗闇をじっと見ていると、ある視線がこちらに向けられていることを感じた。

 まもなく、濃い暗闇に伴って仄かに懐かしい香りに包まれた――

 陸子涼は気づいた。もう子供の頃のように怖くはないみたいだと。

 彼は、暗闇に包まれないように、やっとの思いで身を避けた。

 突然、陸子涼は自分の体のある部分が発光していることに気づいた。

 彼はその部分を触り、ポケットから刀を取り出した。

 それは月下老人が彼に渡した、赤い糸を切るための朱色の木刀だった。

 木刀は暗闇の力の押し付けに耐えられないように、彼の手の中で曲がって形を変えて、柔らかくなって溶けた。最終的にはなんと避難するように彼の手のひらに吸着すると、体に入った。

 温かい力が血管に溶け込み、体から柔らかな光がぼんやりと発散した。その瞬間、陸子涼は自分の手に黒斑のついている赤い糸が増えたのを見た。

 というか、この糸はずっとあるが、昔は見られなかっただけだ。

 これは、彼と王銘勝を繋いでいる赤い糸だ。

 陸子涼は目を細めた。

 この縁はもう明らかに性質が変わり、気味の悪い黒斑が広まっているが、依然として堅固なものだった。これはおそらく王銘勝が被害者たちを支配する媒介だ。

 陸子涼は手を上げ、力を込めて糸を引きちぎった!

 パッ――

 彼をひどく苦しめる王銘勝の邪念が一瞬切れた!

 濃い暗闇が退散し、陸子涼は体が軽くなってすぐに浮かび上がり、意識はついに幾層もの黒い霧を乗り越え、目を覚ました!

 電灯が蒼白いセンターの回廊で、陸子涼はにわかに目の焦点を合わせた!

 彼の目は澄み渡り、王銘勝の驚いた隙に顔が潰された幽霊たちの支配から逃げ出すと、突然拳を突き出した──

 ドーン!

 王銘勝は飛ばされて床に倒れた。

「……!」顔が潰された幽霊たちも驚いた。

 陸子涼は大股で前に進み、王銘勝を押さえつけ、彼の顔を何度も猛烈に殴りつけた。

「クズ!」陸子涼は怒鳴った。「くたばり損ないのクズ!」

 王銘勝は殴られて鼻血が出て、しばらく驚いた後、大笑いした。「やっぱりだ!やっぱりあの方が目をつけた獲物は違うな!俺がお前を殺したから、彼はめちゃくちゃに怒っただろう?怒ってよかったよ。ハハハ──」彼はもう一度殴られた後、すぐ陸子涼の手を掴み、身を翻して陸子涼を押さえつけた。

 陸子涼は激しく何度か蹴って抜け出すと、再び拳を振り回した。

 両者とも激しい殴り合いになってきた!

 陸子涼は怒りを発散するように王銘勝を殴りつけたが、その両目は近くの担架を一瞥せずにはいられなかった。

 とにかくまず死体を保護してからだ。

 陸子涼はタイミングを掴んで王銘勝の腹を一発蹴り付け、彼が痛みで立てないうちに、すぐにふらふらと起きあがって担架へ突き進んでいった!

「駱洋!」陸子涼は担架のそばで守っている駱洋に向かって叫んだ。「目を覚まして!あいつは王銘勝だぞ!支配されるんじゃない──」

 駱洋はぼうっと彼を見ていた。

 他の二匹の顔が潰された幽霊たちが命令を受け、追いかけてくると陸子涼を掴んだ。陸子涼は引っ張られ、盛大に転んだ。彼は顔が潰された幽霊たちを振り切ろうと思い、もがいている。「お前ら、目を覚ましてくれ!」

「くすくす、彼らはお前と違って聞き分けがいいのさ」

 王銘勝がゆっくりと立ち上がってきた。

 彼の顔は血に塗れ、深く窪んでいる眼窩に、恐ろしい二つの目玉から強烈な狂気が表れており、極めて恐ろしい。彼は徐々にこちらへ近寄ると、パーカーの前ポケットに手を入れ、血のついている赤いレンガを取り出した。

「もともとお前の死体を持っていって、あの方の前でぶっ壊そうと思ったけど、お前が来たのなら、ここでお前をもう一度殺せば、きっとあの方の気を狂わせることができるだろう。お前はさっき暗闇の中にいて、絶対に聞こえたはずだろう?俺らがあの方の降臨をどれほど期待しているのかを……」と王銘勝は言った。

 陸子涼の体は傷だらけで、二匹の顔が潰された幽霊たちに人間とは思えないほどの巨大な力で地面に押さえつけられている。しかし、陸子涼の目には恐怖の感情がほとんど浮かんでいない。陸子涼は顔を上げ、王銘勝を見て突然笑みを浮かべた。「あの悪鬼たちは、きっと白清夙が生まれた時から彼に注目していて、彼が人間性や理性を捨てて悪神になることを待ちに待っていただろうな。だけど、彼らが今まで待っていて、何が起こったか?お前は一体どこから自信が湧いてくるのか?お前の先輩たちでもできなかったことを自分ならできると思うのか?」

 王銘勝が陸子涼の前にしゃがんだ。手の中の血がついている赤いレンガがゆらゆらと揺れる。とても恐ろしい。

「あら、どうしようかな。俺はマジで自信があるんだ。特に、あの夜、彼がお前をあんなに心配しているのを見たらな。心配でまさか俺を追いかけるのを自ら諦めるほどとは。お前は、彼の理性を吹き飛ばすことのできるキーポイントなんだよ。それに、ヒッヒッ、先輩どもの失敗が俺と何の関係がある?」

 王銘勝は歯をむき出して笑った。

「信念を失うのも、理性を失うのも、一瞬のことじゃないのか。人間性という鎖がなければ彼は俺らの神様になるんだ。そして、お前、ハッハッ、我々はお前の貢献を覚えとくぞ」

 王銘勝は歪んで興奮した笑みを浮かべた。彼の呼吸は激しくなり、赤いレンガを振り上げ、陸子涼の頭を狙い、叩き下ろそうとした──。

 突然、誰かが王銘勝の後頭部をぐっと掴んだ。

「──!」

 王銘勝は壁に思い切り投げつけられた。

「ウワアアア!」王銘勝は悲鳴をあげた。

 白清夙は王銘勝の流れ出る血を冷ややかに見つめた。走ってきたためにやや早くなっている呼吸が、急に低く荒く変化した。彼は、視線を落とし、王銘勝の苦しそうにあえぐ声を聞いて楽しんでいるようだ。本質的に滲み出る危険なオーラが突然鮮明になった。

 白清夙の身から大量に溢れている強大な圧迫感は、少しの間空間を歪ませることができるくらい重かった。

 白清夙は腰をかがめ、傍らに落ちてある赤いレンガを拾った。

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