第九章 一目盛以上の愛(6)

 食事後のフルーツタイムで、白清夙は再び絶妙な腕前を披露した。陸子涼に柿のアヒルを切って、トレイいっぱいに盛った。

 かわいらしい形をしている柿は普通にカットされたものより甘いのも当然だった。

 陸子涼の指先がアヒルの頭をトントンと叩いて、「あの頃のあの土地廟で、最初は柿だけ食べさせていましたが、どうして後ほどご飯を食べさせてくれましたか?」と聞いた。

「よくあそこへ行って来て、行き過ぎたので、四兄に気づかれました。私に、うちで飼っていた鶏のように、君を大きく育てから殺そうとするかと聞いてくれました」

 陸子涼はここまで露骨に言える人がいるなんて思わなかった。驚いて「それを認めましたのか?」と聞いた。

「はい。観察していたうちに、誰も君に食べものをあげなかったと答えました。なので、私が君に食事を与えたときから、君は私のものになりました」白清夙はそう言った。「四兄はそれを聞いたら、止めようともしませんでした。ただ、彼は私が何かを食べたら、同じものを君にあげないと、君は永遠に大きくならないと私に言ってくれました。残念ながら、君が中学生になってからは来なくなりました」

「あの時、コーチがよく俺の面倒を見てくれましたからね。俺にお弁当を買ってくれましたから、土地廟に行って食べ物を探す必要がなくなりました。正直に言うと、子供の頃、土地公がいつも顕形して、食べ物を用意してくれたと一度思っていました。でも、あとでよく考えたら、自分は実際、神様からのご寵愛を受けられる人間ではありませんね」陸子涼は笑いながら、そう言った。

 陸子涼は言いながら、白清夙が柿をトレイごと彼の目の前に置いておくことを見た。彼自身は切り残った果肉のかけらしか食べてなくて、しかもナイフの先で刺してから食べていた。陸子涼は思わず笑ってしまって、一つの柿のアヒルを手に取って、白清夙の口に送り込んだ。

「でも、一言だけは間違いがありませんよ。俺は約五年間君が用意した食事をタダでいただきましたので、確かに君に飼われましたのね」陸子涼は寄り添って、白清夙の口角にキスをした。「これからは……もし機会があれば、君の将来の食事を俺に任せてね。きっと満足させますよ」

 白清夙は彼が言葉の中に隠した不安を聞き取れた。

 白清夙がナイフを置いた。陸子涼の顔に触れて、軽くつまんだ。「この間、家に忍び込んできたあの人を知っていますよね?」と急に聞いた。

 陸子涼はぼうっとしていた。

 彼の身体は明らかに固まっていた。

「あの人はある連続殺人事件の最大被疑者の王銘勝です。君が彼に対する反応が激しすぎましたよ。彼は君を傷つけたことでもありますか?」

 陸子涼は突然立ち上がった!彼はグラスに冷たい水をいれて、大きくゴクッと飲んでから、「真夜中に、突然家の中で見知らぬ人を見かけたら、誰でもビックリするのでしょう。でも、まさか連続殺人事件があるなんて、治安がこんなに悪いのですか?最近あまりニュースを見ていないから、知りませんでした」とこう言った。

 白清夙の視線は、彼のやや震えている手に向けた。「彼の所有物でも取りましたか?探しましたけど、確認できません」と続けて言った。

 陸子涼はぞっとした。「探しましたのか?!いや……本当に彼を知りません。俺は部屋で君に驚かされた後、外に出たら、もう一度驚かされたから、過剰反応しましたよ。あんたが一番悪いですよ」

 白清夙はじっと彼を見つめて、「わかりました。質問を変えます。どうすれば君がここに引き留められますか?」とやさしく聞いた。

 陸子涼は神経を張りつめて、「どういう意味なのです?俺は泊まっていましたよね?一晩さえを過ごしました」と質問の意味がわからないように言った。

 白清夙はゆっくりっと話していた。「どうすれば、君を生き返らせますか?」

 陸子涼の頭の中でゴーという音がした!

 彼は驚いて、白清夙に目を瞠った。しばらくしてから、「なに?」と呟いた。

 白清夙はそっとため息をついた。

「実は、昨夜、我々は君の死体を発見しました」

 パリンーー

 陸子涼は手を滑らせて、コップを落としてしまった。


 一方、検視解剖センターで。

 夜八時過ぎ、ほとんどのスタッフがすでに退勤した。

 正門に向けられた防犯カメラが、自動ドアが開いてから、黒いパーカーを着ている長身の男が入っていた映像を映った。

 それとほぼ同時に、防犯カメラの映像がぼんやりとなった。

 廊下には、淡い蛍光灯がパチパチと明滅していた。

 王銘勝は不気味な笑みを浮かべながら、わくわくして建物の奥に向かっていた。

 後ろに三人――或いは三体の幽霊がついてきた。

 そのうちの二体の顔の輪郭が見えないほど、崩れていた。顔の腐った肉が垂れ下がり、歩くたびに黒い血の粒が床に落ちていった。三体目は、端正な顔立ちで、目に怯えながらも王銘勝の背中を見つめていた。

 ──あれは間違いなく駱洋だった。

 駱洋はとても怖がっているようで、何度も振り返って、逃げようとした!

「駱洋よ」

 駱洋はふと立ち止まり、王銘勝の命令に逆らえないように、そのまま固まってしまった!

 王銘勝は不気味に笑って、手招きしただけで、駱洋は自分を抑えきれずに、彼の元に寄っていて、首を絞められた。

「もう逃げるな。まだ怒ってるのかい?なんで俺に怒ってるのか?俺ね…ハハ、俺が本気で愛していたのはあんただけだよ」王銘勝の手が力を入れて、彼の苦痛の表情を楽しんていた。「特に左足が気に入ってる!怪我によって、あんたの引退を余儀なくされたあの左足が……ん、かわいいなあ。大切にしてるのよ!」

 駱洋の歯がガタガタと音を立てた。「この……キチガイ野郎!」

「昨夜誰かがアレを動かした。俺、すっごく腹が立ったけど、しかし突然……」ハ!」王銘勝が喜んでいて、「おかしいなぁ。俺、腹が立つと、正気を失うと、魂にある力が、クスクス、解放されるようだ……!」と言った。

 駱洋の首を絞め、不意に顔をうつむけ、駱洋の唇を噛んだ。

 彼は乱暴なキスで一瞬で駱洋から理性を奪った。

 駱洋の目がぼやけていた。整った顔が崩れ始め、裂けていって、そして血みどろになっていた。彼は死亡した時の顔で、彼を殺害した犯人に屈服して、支配された。死も生も解放できない。

 検視解剖センターで彷徨っている幽霊たちは、全員戦慄しながら、こちらを覗き込んだ。

「昨夜、この地域を管理する城隍が誕生したと聞いた」

 王銘勝の目縁が赤紫色であり、深くくぼんでいる黒ずんだ眼窩の中、瞳孔が血の色に染まっているようだ。青白い顔に不気味な笑みをして、あまりにも陰気臭いので、まったく生きてる人間には見えない。

「でも大丈夫。俺を成長させてくれたあのキチガイが、俺たちみたいな人間にも神様がいると言った」

 王銘勝は駱洋を放して、再び歩き出した。

 彼に残酷に殺害された三名の被害者が、忠実な奴隷のように、彼の後ろに付いた。

「うれしいのかい?俺はね、クスクス、俺は俺たちの神様を見つけたのよ!」

 王銘勝は大笑いしながらそう言った。

「それに、俺は彼が激怒され、正気を失えるものも見つけた!ここにある……!彼を人間から悪神に変えるものだ。ここで見つけられると聞いた。アアハハハハ――」

 オフィスで残業している一人の女性スタッフが廊下に誰か笑っているのを聞こえたので、怪しく思いながらドアを開けた途端、直接に王銘勝に鉢合わせした。

 スタッフ驚愕した。「誰、あなたっ――」

 王銘勝は黒いパーカーの前ポケットからレンガを取り出した。

 パン!

 血が床に飛び散っていた。

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