第九章 一目盛以上の愛(5)
自分の考えを隠すのが上手な人が素直になれば、なかなか耐えることができなかった。
陸子涼は背筋を伸ばして座った。彼は同様に真剣に白清夙の目を見つめ、言いかけの応じる言葉が急に止まった。
白清夙は一番暗くて邪悪な内心を曝け出して、彼に全てを打ち明けたが、彼自身は?
彼は殺された身であり、更に体でさえも偽物だった。
彼が白清夙に近づいた理由は、白清夙が思っているほどに純粋なものではない。それどころか、隠蔽と利用に満ちていた。本気で数えるのなら、彼が隠していることは白清夙よりも多かった。
心の中の罪悪感が急に湧き上がった。陸子涼は、自分が白清夙の前では噓つきのように感じて、非常に卑劣な恋愛詐欺師のように思った。
白清夙は彼がずっと口を開いてくれないのを見て、問い続けることなく、ただ目を落として立ち上がった。
「あなたはずっと何も食べていませんでした」と白清夙は言った。「少し待ってて、お粥を本宅に持って行って、少し加熱します」
「待って!」
陸子涼は彼を引っ張った。
白清夙は止まって振り向いて、彼を見つめた。
陸子涼は唇を動かして、最終的に何の言葉を飲み込んだように、彼に向けて笑みを見せた。
「一緒に行きます」
今はちょうど夕暮れの時だ。
非常に美しいフクシン色の空の下、果樹園の中は淡い甘い果実の香りを漂っていた。
好きな人と肩を並べて、果樹林を通り抜けるのは、少しだけロマンティックだった。
しかし気持ちの影響か、陸子涼は辺りに陰気で冷たい雰囲気が漂って、鬱陶しくて重苦しく、姿形がないように感じた。この不快感はずっと続き、陸子涼は誰が密かに彼を見ているような気もした。
陸子涼は足歩みを遅くして、ついに我慢できずに振り返って、脳が作り出した錯覚を打ち破ろうとしたが──
不意に突かれて、ある黒い影と視線が合った!
「……!」
あれはある人形の影で、木の幹の後ろに隠れて、こっちを覗いていた。
よく見れば、夜の帳が落ちる時刻の果樹林の中、群れになっている人形の黒い影が長く伸ばした木の影の中に隠れ、時に隠れては現れ、悪意を抱きながら彼と白清夙を見つめていた。
果樹林の中に居るのは、全て幽霊だった!
陸子涼は鳥肌が立った。
「小涼、私の視界から離れないでください」
陸子涼は猛然と振り返って、白清夙が足を止まって彼を待っているのを見た。
真冬の日の光は早く消えて、白清夙は微かな光線の中に立ち、恬淡な顔で漆黒の瞳をして、影も同じく長く伸ばしていた。白清夙は同様に樹林の中の幽霊の群れが見え、ますます忌憚がなく彼らの険しい視線を感知できるのに、白清夙は相変わらず余裕の姿勢を取って、密かに楽しんでいるようにしていた。
白清夙の気質が変わったことに陸子涼は今になって気づいた。
もっと危なくて暗く、更に怖がられるようになってしまった。
元々白清夙にしっかりと隠された邪悪な魂は、陸子涼の知らない時に、鎖を解かされて表に出て、あと少しで現れてしまった。
城隍廟の後ろで陸子秋の言葉が、耳に残っているようだった。
──彼は俺と似ている存在、彼は悪しき神の雛型だ……
「昨日はどうやって俺を見つけましたか?」と陸子涼は急に白清夙に尋ねた。
白清夙は彼の傍に近寄って手を取って、「誰かに聞いて、導きを得ました」と簡単に言った。
陸子涼はドキッとした。
彼が城隍廟にいることなんて、誰も知らないはずだ。
白清夙が聞いたのは、絶対に生きた人間ではない。
白清夙は自制するために、ずっと鬼神には近づかなかった。しかし彼は紙紮人形の身で、白清夙に近づき続けた。彼が近づけば近づくほど、白清夙はどんどん動揺し、陸子涼のために破った戒めも、失速したように増え続け始めていた。
陸子涼は寒気を感じた。
──俺は彼を破滅させている。
この考えが浮かんだら、もう二度と抑えることができない。
四合院の古い屋敷は居住者の身に纏う雰囲気に影響されたように、いつもよりも陰気に見えた。
ダイニングルームの中、二人は一緒に座って熱々になった鶏がらスープとお粥を食べていた。
陸子涼は心ここにあらずの状態で食事を取ったから、胃が苦しく詰まっているのを感じた。しかし彼は自分の情緒が白清夙に影響を与えたくないので、「今晩も倉庫で寝ますか?」と話題を探して言った。
「あそこは嫌ですか?」
「いや、好きですよ。あそこは凄く楽しいです」
「楽しいですか?」
「中はあなたの過去が詰まったものばかり、あなたが秘密を保存する専属小屋みたいで、俺はまだ色々なところを見物しきれてません」と陸子涼は笑って言った。「それに、あなたは一番大切なコレクションをそこに置いたんじゃないですか?多分、そこには俺の居場所があると思います」
白清夙は彼を深く見つめた。「あなたは自分をどこに置きたいですか?」
陸子涼は目を細めた。「うん、大きくて目立ついい場所が良いです……そうですね。そのベッドは結構条件を満たしていませんか?俺が裸のままで上に横たわったら、きっと一番目を引くコレクションでしょう。あなたが地下室に来たら、他のコレクションを見ようともせず、俺のところに直行するでしょう」彼は白清夙の耳元に近づき、「俺はそこで、あなたが降りて遊ぶのを待って、あなただけに愛し合うチャンスを与えます」とそっと言った。
白清夙は深く息を吸って、スプーンを持つ指関節が引き締まった。
陸子涼は満面の笑みを浮かべた。「どうですか?そこは楽しいところだと思い始めましたか?」
「物凄く楽しいです」と白清夙は言った。
陸子涼は、その言葉が認められて、少し機嫌がよくなり、ようやくお粥を全部食べ切れた。
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