第九章 一目盛以上の愛(4)

 やっと目が覚めた時、陸子涼は茫然としており、今は何の時間がわからないようだった。彼が性欲に狂った結果を味わったのは、これが初めてだった。彼はぼんやりと瞬きをして、傍に横たわっていた白清夙と見つめ合うまでは、我に返られなかった。

「目が覚めました?」白清夙は彼が目覚める全過程を目にして、小涼は恐らく全世界で一番可愛い生き物だと思った。

 陸子涼はまったりとして軽く答え、体がさっぱりしているのを感じ、「俺の代わりに……」と尋ねた。口を開けば、彼は固まった。

 彼の声は酷くかすれていた。どうやら昨晩は泣き叫び過ぎたようだった。

「……」考えてみれば恥ずかしい。

 白清夙は布団を上げて立ち上がり、コップにお湯を注いで彼に渡した。

 陸子涼は、白清夙の広くてしっかりとした背中の上に爪痕に満ち、腰際はアザができるほどに自分の足に挟まれているのを見て、思わず眉を上げて、満足そうに自分の傑作を眺め始めた。

「あ、朝っぱらから、どうしてこんなにもセクシーなイケメンが居るのですか」と褒めずにはいかなかった。

 白清夙は陸子涼を引き上げて座らせ、陸子涼を深く見つめた。「飲んでください」

 陸子涼はお湯を大きく飲み込んだ。「今は何時ですか?」

「四時過ぎです」

 陸子涼は危うく飲み込んだ水を吹き出し、何回か咳をした。「午後の四時過ぎですか?」

「はい」

「うわ……」陸子涼の体は白清夙を通り越して、コップをナイトテーブルに置いた。「これじゃ放縦しすぎませんか?」そう言いながら、そのままうつ伏せて、ダラダラと白清夙の足を抑えつけた。

 白清夙は喉仏を動かした。陸子涼は裸で、美しい体には全身を占めたキスマークと指の跡がついており、まるで目の前に送ってきた美味しそうなご馳走で、極めて魅力的だった。

 白清夙は抑えずに彼の後頸部をそっとつねって、手のひらはそのまま下に向けて撫で続け、猫の毛を整理しているかのようだった。「どこか気分が悪いところはないですか?」

「うん、少し……」

 少し疲れすぎた。

 それと妙な衰弱感があった。

 陸子涼は無力そうに目を閉じた。紙紮人形の体力は元の体とは比べものになれないが、セックスをしたところで、これほどきつくなることはないはずだ。どうやら彼の頭の傷口は大丈夫そうに見えるが、紙紮人形をかなり傷んでいるようだ。

 彼は急速に弱っていた。

 紙紮人形は時間の流れによって少しずつ傷み、その後は病気にかかり始め、そして時間の経過とともにひどくなり、治す薬はないと陸子秋は最初から彼に警告した。ここ数日間で、彼は水に溺れたり、頭をぶつけられたりして、更に情緒不安定にもなった。以前の健康な体でもちょっとした病気にかかるかもしれない。この脆弱な紙紮人形は言うまでもない。

 ……ますますまずい状況になった。

 白清夙は、陸子涼が暫くうつ伏せして、急に彼の左手を掴んだのを感じた。陸子涼は彼の薬指の付け根をつねって、また時間を見て、少し思い悩む様子を見せた。

 あの赤い輪の位置だ。

 昨晩が見えてから、白清夙はずっとその存在に気づけた。どうやらこれは月下老人が陸子涼を助けるために使ったものらしい。

「小涼、何か欲しい物、必要な物があれば、何でも直接に私に教えていいですよ」と白清夙は小声で言った。

 陸子涼が固まったのを感じ、暫くして陸子涼は頭を俯いて白清夙の手のひらにキスをした。あそこには浅い長い傷跡があった。

「あなたは、あんなにも俺を殺したくて、長い間に俺を殺したかったのに、いざという時に……あなたはまた間一髪に我慢しました。あなたは長年に一人で、矛盾した殺意に苦しんでたから、きっと、俺のことをひどく愛してくれていますよね?」

 白清夙は一瞬黙った。「思い出しました?」彼は陸子涼の頬っぺたをつねって、陸子涼をそっと向き合わせ、彼の目を見つめさせた。「その時のことを思い出したのに、残ってくれました?」

 陸子涼は目を細めて笑った。「何、その時の自分がどれだけ怖いのか知りました?自己認知はしっかりしていますね」

「……ごめんなさい」と白清夙はそっと言った。

「再会した時、俺があなたのことを知らないと気づいて、驚きませんでしたか?」

「最初は、家の果樹園から逃げようとして、あなたが知らないふりをしていたと思いました。しかし後々気づいたが、あなたは本当に忘れてしまいました」と白清夙は言った。「私はてっきり、あなたの記憶の中に深刻な印を残したと思いました。結局、印を残されたのは私のほうでした。昔は、あなたが成人するまで養ってから殺すと考えたが、その日以来、毎回あなたのことを思い出すと、あなたが告白して来た姿を思い浮かべます」

 陸子涼のまつ毛は微かに動いた。

「あなたは敏感で慎重、容易に他人に近づきませんでした。あなたの告白は、本来全世界で一番大切なもののはずなのに、私はそれを壊してしまいました。今は自分の気持ちに気づいて、過去のことを思い返すと、本当は後悔しています。一時的な暴走により、一番大切なものを失ってしまいました」

 白清夙は彼の柔らかい黒髪を撫でて、漆黒の瞳は真剣に彼を見つめていた。「小涼、私の頭の奥深くではいつも邪悪な考えが浮かんで、時々は抑えられるが、偶に無視できないほどに強烈になってしまいます。私はその邪悪な想像を楽しんでいることを否定できないし、更に実行できるかどうかの可能性も考慮し、行動に移った瞬間を想像しています。私が誰かに恋することは不可能であり、誰かを大切にすることされもできないと、誰もがそう言っていました。私の両親と親戚でさえ私を遠ざかって、いつか私に殺されるじゃないかと怖がっていました」

 彼は薄い唇をすぼめて、神秘的でクールな顔には、珍しく少しの不安を見せていた。「あなたは、本当に残ってくれますか?」

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