第九章 一目盛以上の愛(1)

 暗い偏殿の中、神棚の上には赤い小さなライトがついていた。

 いくつの所がポツリと雨漏りをしており、そして陸子涼は乾燥している隅に縮こまって、体の上には毛布を掛けて昏睡状態にいるようだった。しかし彼はスヤスヤと寝ているわけではなく、ずっと眉をひそめており、まるで再び悪夢の中に落ちてしまったようだった。

 白清夙はすぐにしゃがみ込み、珍しく焦りながら彼を軽く揺らした。「小涼?」

 陸子涼は返事をせず、ただ自分をより縮こませた。

 白清夙はまず陸子涼の顔に触れて、また彼の側頭部の傷を検査し、特に問題はなさそうに見えたから、すぐに陸子涼を背負って外に出ようとした。

 バタン──!

 偏殿のドアは急に強く閉まった!

 白清夙は固まった。

 彼はその古いドアを数秒間見つめ続け、ドアを強く引いた。

 しかしドアは何らかの力に封じられたようにびくともしなかった。

「……」

 白清夙は振り返って瞼を上げ、神棚を見つめた。

 神棚の上には白髪の月下老人の神像があり、暗くて赤い光の中、彼の優しそうな目元は厳しくて冷たい感じに染められたようだった。

 白清夙は神が見えない。

 しかし彼は、殿の中の月下老人が彼を冷たく見つめているのに意識した。

「外に出させて」

 白清夙は虚空に向けて言った。

 しかし沈黙が続いた。

 白清夙はもう一度ドアを引いたが、脆弱で古いドアは溶接されたようで、依然としてびくともしなかった。彼の瞳は漆黒になり、淡々と口を開いた。「あなたこそが、陸子涼が死んだ後でも、彼を自由に動き回ることができるようにした神様?彼を助けたいのなら、ここに引き留めるべきではない。今晩は雨が降っているから、彼がここに居れば凍え死にする」

 沈黙が続いた。

「私の予想が正しければ、あなたは彼に復活のチャンスを与えるつもりだよね?なら尚更、彼をここに寝かせるわけにはいかない。私に彼を連れて行かせて、私は彼を助ける」

 相変わらず沈黙が続いていた。

 白清夙は神像の顔の影を見て、視線を上に送り、「ユエロウシンジン」の四文字を見つめていた。指の付け根の上についている赤い糸の感触がより明確になった。

「私は彼を傷つけない」

 白清夙は急に言った。「彼が生き返れれば、私は何でもする。私は彼に対して本気だ。自分が死んでも、彼を生き返らせたい」

 神棚の上の月下老人の神像は依然として冷静に彼を見つめていた。しかし彼はうっすらと、その視線が少し迫力を抑えたのを感じた。

 白清夙がまた何かを話そうとした時、急にドアの外からぼんやりと足音が伝わった。

 深夜の廊下、その足音はよろめいて怪しく感じ、ゆっくりと近づき、どんどん近くになって、ますます近く感じた。

 ガチャ──

 閉ざされたドアが急に外から押し開けた!

 白清夙は振り返って、皺に占められた怖い老けた顔と目を見合わせた。

「……」

 老廟公は殿内に人がいることに気づき、非常に驚いたように目を見開いた!

 彼の背のかがまる懐の中には二つのプラスチックの盆を抱えて、どうやら雨漏りの所に置こうとしていた。目の前に全身がびしょ濡れした男を見て、また彼が背負って青年を見つめ、老廟公は少し考え込んで、わかったように優しく、「あ……雨宿りを……しに来たのか?」と言った。

 白清夙は一秒くらい黙った。

「はい。今から帰ります」

「今か……お……雨は……少し小さくなった」老廟公は雨漏りの所に盆を置いて、ゆっくりと彼に手招きをした。「さあ、こっちに来て……傘を……貸すよ……」

 そう言って、彼はよろめきながら赤いハードルを跨いで外に出た。彼を呼ぶことも忘れていなかった。「さあ……ついて来て……」

 白清夙は振り返って神棚の上にある月下老人を一目眺めたら、陸子涼を背負って離れた。

 老廟公は彼らに大きな傘を貸してくれた。

 白清夙は片手に陸子涼の尻を支えて、片手は傘を持って、安定した早足で階段を降りた。

 彼は廟の前の広場に強い威圧感が漂っているのを感じ、まるで何か重大な儀式を行ったようだ。残った力は空気の中に混ざり、姿形もないのに圧迫感を感じられた。白清夙は足歩みを速めた。

 彼は訳もなくこの力の感じが嫌だ。

 山道の街灯は儚い光を出して、細々とした雨水は傘に打って、連綿とした音を出していた。

 白清夙は下に向けて少し歩いて、彼の肩に落としていた陸子涼の手はゆっくりと上げて、彼の代わりに傘の柄を握った。

 白清夙は頭を傾けた。「目が覚めましたか?」

 微かに開けている陸子涼の目は傘の縁の下から眺め、濡れた石の階段が見えて、少し失神した彼の瞳は瞬きをしてからまた閉じ、顔を白清夙の背中に埋めた。

 陸子涼はこもった声で呟いた。

「もしその時ここで出会った人があなただったら……」

 ここだ。

 この城隍廟から下山する雨の道。

 陸子涼は彼に傘を差し出してくれた王銘勝と出会った。

 もし彼は殺人鬼に殺される運命ならば、最初から白清夙に殺されればよかった。

 少なくとも、白清夙は「溺死」という水泳選手を侮辱するような方法で彼を殺さない。

「じゃあ元々は誰と出会いましたか?」と白清夙は彼に尋ねた。

 陸子涼は答えなかった。彼はただ傘の柄を強く握りしめた。暫くして、「俺は病院に戻りたくありません。家に帰りたいです……」とまた呟いた。

「わかりました」と白清夙は言った。

 深夜の険しい小道の上、白清夙は陸子涼をしっかりと背負って、家の方に進んだ。

 雨音以外は、世界は格別に静かだった。

 下り坂は徐々に緩くなり、二人は大通りに出て、また下に向けて少し歩けば見慣れた四合院の古い家だ。

 白清夙は家のドアから入ることなく、直接に土の坂に上って果樹園に入った。

 湿っぽい空気の中は淡い果実の香りが混じって、白清夙は果樹園の奥のレンガ倉庫の前に着き、鍵を使ってカラッと鍵を開けた。

 パ。

 ライトがついて、傘は適当に傍に置かれた。白清夙は陸子涼を背負って倉庫に入り、倉庫の奥にある地下室に行く階段まで真っ直ぐに進んだ。隅に立っているいくつかの紙紮人形を通り過ぎた時、白清夙の目は彼らの間にある明らかなスペースに一瞬止まってから通り過ぎた。

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