第八章 幽霊に尋ねる(2)

 陸子涼は瞳を動かし、急に彼の耳の付け根付近にあるヒビが首側に広がっているのに気づいて、突然手を放した!

「コホン……」陸子秋は首を押さえながら深呼吸をした。

 陸子涼は暫く彼を見つめ、唇をすぼめて、「十数年の間に、あなたは一度も会いに来ていない。俺はもうとっくに兄が居ない、俺たちは仲がいいように言わないで」と薄情に言った。

 陸子秋の目の底には罪悪感に満ちており、「あなたは私にとって大切で、このことを家の人にバレて、再びあなたに手を出す思いを引き起こしたくないから、私は……」と説明した。

「どうでもいい」と陸子涼は言った。「俺は二人分の悪運を背負って、全員に見放されるのが当然だ。俺にとって、あなたも陸家の一人にすぎない、区別はなかった!俺がここに来たのはただ信じられないだけ、その時あんなに固く約束してくれた人が……殺されたなんて。ハッ、本当に思いもしなかった」

 天も震わすような打楽器の音がドンドン早くなり、陸子秋は少し眉をひそめた。時間は多くない。彼は陸子涼の側頭部の傷を見て、少し焦っているように口を開いた。「子涼、よく聞いて、白家のその……白清夙だったか?彼は私と似たような存在で、彼は悪しき神の雛型だ!悪しき神は私と対立な立場におり、そしてあなたは私と一番親しい存在、彼があなたを傷つけたいのはある種の本能だ。あなたが彼の傍に残ることはあまりにも危険だ。彼は必ず耐えられずにあなたに手を出してしまう。彼が人を殺したかどうかは置いといて、彼は殺人鬼だ──」

「殺人鬼?」

 陸子涼は急に冷笑した。

 彼は前に一歩出して、陸子秋の襟を掴んで、「あなたこそが一番の殺人鬼だ!」と怒ったように言った。

「なぜ俺は誰とでも関係を維持できないのかわかる?あなたは、俺が人に恋をしていない、相手を見つけたいのなら、唯一の方法が感情を偽るしかないと言ったが、その理由は何だと思う!」と陸子涼は怒りながら言った。「毎回、毎回勇気を出して誰かと親しくなりたい度に、ホラー映画のように幕を閉じてしまう!彼らはある日に訳もわからずに俺を傷つき、俺を殺そうとしていた!この世では、信頼できる人なんていないし、安全な場所もいなかった。俺は次の瞬間に自分が死ぬじゃないかと毎日のように疑って、まともに休むことができなかった。そのすべてはあなたのせいだ」

 彼は死ぬほどに陸子秋を睨み、非常に馬鹿げているように思えた。「俺は八歳の時に、自分で水から上がれなかっただけで、何でこんな待遇を受けなきゃいけないんだ?俺はただ普通の人のように生活したいだけなのに、なぜそんなに難しいだ?俺が薄情の人になりたいと思ったのか?なぜ俺は薄情に生きなきゃいけないんだ?親しい人でさえも求めることができなかった!?」

 陸子涼は何回か笑って、陸子秋が完全に固まったのを見て、彼を放した。「白清夙が悪しき神だって?は、悪しき神は俺が餓死する寸前に食べ物をくれて、しかも五年も続けてくれた。俺にとって、彼はあなたよりもよっぽど信じるに値する」

 陸子秋の顔色はガラッと変わった。「陸子涼、自分が何を言っているのかわかっているのか?」

「俺はもう幽霊になったね。俺が彼に近づいたら、悪鬼になるのか?もし俺が本当に悪鬼になったら、あなたはその手で俺を殺すのか?」陸子涼は急に笑った。「その場面はきっと面白いだろう」

 陸子秋の胸元は激しく上下し、顔色は極めてまずかった。

 廟の前では、打楽器の音はもっとタイトになり、その切迫感が更に増した!

 チャン──

 陸子秋は急に体を揺らして、そっと息を吸って、一瞬破裂しそうになるほどに青白くなった。

 陸子涼は彼の表情から苦しみを読み取り、急に心が引き締められたようだ。「なんだ?」

 陸子秋は顔を上げて彼を見つめ、目の底の苦しみには少しの怒りが含まれており、どうやらさっきの彼の言葉にかなり腹を立てていた。しかし次の瞬間に、陸子秋は腕を広げて、身を乗り出して彼を強く抱きしめた!

「子涼、私が居なくなったとしても、鬼神のことに触れてしまえば、悪鬼と悪しき神はあなたに引き付けられてしまう」陸子秋はそっと言った。「私にはどうしてもそれを変えることができなかった。ごめんね」

 陸子涼は少し固まって、きゅに足掻き始めた。「居なくなったとはどういうことだ?」

「それは、例を挙げているだけだ」陸子秋は彼を死ぬほどに抱き締めていた。「本当はあなたに白清夙に近づかないでほしい。しかしその同時に、あなたが彼のお陰で生きてくれることを望んでいる。私もかなり利己的だ……あっ!」

 陸子涼は彼の突如としたうめき声に驚かされて、力を入れて彼を押し退けた。彼の身に何か起きたのか見ようとしたが、人身供儀の処は急に目が刺さるほどの光を出した!

 金色の光線は波のように湧きあがり、瞬時に夜の景色を飲まれ、意識の中に入り込んだ。陸子涼の目の前は金色の光に埋め尽くされて何も見えず、動くこともできなかった。彼は陸子秋の抱擁が解いたのを感じた。

 陸子涼の心はパニック状態に陥った。「待って!」

 次の瞬間、陸子秋は金色の光の海に飲まれた。

 陸子涼は猛然と手を伸ばして彼を掴もうとした。「お兄ちゃん……」と驚いたように叫んだ。

 しかし彼が呼んだ「お兄ちゃん」の声がまだ出したばかりで、ある手が後ろから彼の口を強く塞いで、乱暴に彼を後ろに引きずった──

 ガラン!

 陸子涼は二周くらい転がって、ある硬いものにぶつけて、痛みによって目を開けると、目の前のボロボロな廟のドアが轟然と閉まったのが見えた!

 燦然とした金色の光は偏殿の外に隔てられ、少年の清冽な声が後ろから伝わった。「バカか!陸家の人間の前に出て、自分は死んでいないと叫んだらどうだ!」

 月下老人は怒りながら彼に指さして、「頼むから少しは頭を動かせ、彼らが精力を費やして育ち上げた城隍はあなたのせいで神格を破損した。もしあなたが禁術を使って命を取り戻すことを知ったら……ハッ、彼らはどんな陰湿な方法を考えて、あなたを苦しめ、利用するかわからない!頼むから彼らの視線から離れて!」と期待が外れたように言った。

 陸子涼は床に座り込み、赤い跪くための椅子に背中を預け、じっと動かなかった。

 月下老人は横目で彼を睨んだ。「おい!金色の光に照らされてバカになったのか?」

 陸子涼は暫く失神して、「俺のせいで、神格が破損したと、言った?」と物凄くゆっくりと言った。

「それは陸家の人間の考えだ。だってあなたが死んだ後、陸子秋は崩壊した」月下老人は鼻で笑った。「しかし私からしてみれば、陸子秋は完全に自分で死を望んでいる、あなたとは関係のないことだ。あなたのほうが被害者、その悪鬼たちは彼を殺すために、先にあなたに手を出した」

 静かな偏殿の中、月下老人の幼い声は少し冷たく感じた。

「陸子秋は兄弟が死んだことで境地が落ち、神格が壊れた。彼はあまりにも軟弱で、到底城隍の立場が似合わなかった。彼がこの廟に来た時から、彼には時代に合わない軟弱さがあると思った」

 月下老人はそう言いながら、きれいな瞳を落として、陸子涼を見つめていた。

「もうすぐこの廟に就任する主神として、彼は自分の心の中の罪悪感のせいで、手を放すべき人をしがみついているなんて、ハッ、本当のことを言うと、彼が城隍の立場になることを、私は怖く感じていた。実力が強い人は公正では限らない。これから先に、もし悪しき神たちと交流を深めたら、彼は必ず道徳ラインを守れない。その人身供儀に耐えられないならちょうどいい、私は彼と同じ廟を守りたくない。彼はいずれ、再びに玉石ともに焚くような馬鹿げたことをしてしまう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る