第八章 幽霊に尋ねる(1)

 葬列は怪しい赤い灯籠を持って、ボロボロな城隍廟の前にやって来た。

 棺桶はゆっくりと下ろされ、気流は軽い灰を漂わせた。

 老廟公は外の動きに気づいて、よろめきながら外に出た。

 黒い服を着て、仮面をついている怪しい行列が見えたとしても、老廟公は微塵も怖く感じず、ただ優しそうにリーダーに尋ねた。「あ……あなたたちは……誰ですか?」

 リーダーのその黒い獣の仮面の下から低い男の声が伝わった。

「陸家、」とリーダーは言った。「新しい城隍を就任させる」

 老廟公がそれを聞いて、目の周りの皺が急に広がり、驚いているようだ。

「陸家の……城隍ですか?」と老廟公は言った。「名門の城隍……神格は極めて高いのはずです……何故……私たちのような……小さい廟に来ましたか?」

 リーダーは黙り込んだ。

 最終的に、リーダーはただ「人身供儀は間もなく始まるので、回避してもらおう、お年寄りさん」と言った。

 黒い獣の仮面を付けている陸家の人間は速やかかつ静かに行動し始めた。

 彼らは音を立てずにゴーストのように複雑な陣を組んで、手に持っている真っ赤な粉末を撒いてすぐに鮮やかな血色になった。湿った床に鮮血のような巨大な陣が現れ、その威圧感が極めて強い棺桶の周囲は、淡くて蛍のような光を出した。

 光がドンドン増え、ますます明るくなった。

 空の濃い雲が黒くなり始め、樹木の梢が震え、些細な動きだけで驚かされて、遠いところに無数のゴーストが迫って集まり、悲惨な叫び声を上げていた。

 黒い服と仮面を身に着けている陸家の人間は打楽器を持ち上げ、余韻が残るように叩いた。

 タン──

「月下老人は俺を騙していなかった。その仮面の下は、やはり俺に悪夢を見させるような顔だったね」

 城隍廟の後ろ、陸子涼は目の前の双子の兄を見て、気にせずに言った。

 陸子秋は陸子涼とそっくりで、陸子秋が悠々と満ち足りた生活を送ったおかげで、彼の肌はより白磁色に見えることを除けば、他人から見れば、彼ら二人の違いが全く分からなかった。

 陸子秋はこわばりながら暫く陸子涼を見て、また打楽器の音に誘われて、人身供儀が行っている方向を眺めた。彼は何かの痛みを耐えているようで、そこの打楽器の音が鳴る度に、陸子秋は耐えられないように僅かに震え、耳の付け根付近の白磁色の肌の上に、うっすらと細小で怖いヒビが現れた。

 陸子秋は魂を震わす痛みに耐えながら、表の平静を保てるまま、ゆっくりと口を開いた。「子涼、今はこの話をする時じゃない、あなたは──」

「お願いだから、生きてくれ。全力を尽くして生きてくれ」

 陸子秋は猛然と固まった。

「その時、あなたはそう教えてくれた」陸子涼はそっと言った。「俺があれだけの苦しみを受けたなお、死ぬことを望めなかったのに、あなたは何故殺された?」

 陸子涼は急に手を伸ばして陸子秋の首を絞めた!

「……うっ!」

「あなたは子供の頃から才能に恵まれており、適当にそれらのおかしな法器を弄っただけで、みんなを驚かせた。全員があなたのことを陸家の数代以来、最高の神格を持つ城隍に育ち上げたと言った。あなたが嫌なら、誰があなたを殺せる?」陸子涼は冷たく彼を見つめた。「陸子秋、あなたは全力を尽くして自分を守らなかったのだろう?」

 陸子秋は自分の弟の目の底に湧きあがった恨みを見て、急に耐えられないように、心が激しく動揺した!

 ……そうだ。

 そうだ、彼は全力を尽くしてなかった。

 だって悪鬼たちに囲まれて攻撃された時、陸子秋の心は落ち着かなかった。

 彼は血が繋がっている双子の弟に何かあったように感じて心が慌てる時に、それらの悪鬼たちは急に彼を攻撃した。気が散った瞬間に、あるナイフの先が直接に陸子秋の胸元に刺さった。

 その痛みに陸子秋は急に我に返って、逆手で悪鬼を打ち飛ばし、刹那に相手を木っ端微塵にした。彼は心配しながら胸元を傷を押さえ、すぐに遠いところに下がって自分の安全を確保したが、突如として彼は頭を俯いて、ポカンとしながら自分の胸の前の傷口をじっと見つめていた。

 鮮血が流れ出て服を湿らせた。

 陸子秋の瞳孔がひどく縮んだ。

 いつもなら、些細な切り傷だけでも、彼の大切な血を流せることはできなかった。だって血の玉が凝集する前に、傷口が命を償う呪いによって陸子涼の身に転移し、そして彼はいつまでも無傷のままだ。

 彼は無傷のはずだった。

 そうでなければ……

 陸子秋は信じられないように自分の傷口を押さえ、強く押さえたが、鮮血は絶えずに湧き出て、まるでこれからの彼の努力が、この時から意味を失うことを示しているようだ。

 陸子秋の瞳孔は激しく震え、「嫌だ……」とそっと呟いた。

 本当のことを言うと、その傷口は命を落とすほどに深くなかった。

 しかし、陸子秋は急に口から大量の血を吐き出した。

 彼の傍には彼を狙って、彼を殺そうとしている悪鬼の群れが集まっていた。しかし彼はまるで忘れたように自分の胸元を押さえながら跪いて、急に大泣きし始めた。

 辛い成長過程には十数年の努力が必要だが、信念が崩れるのは一瞬の出来事だった。

 必死で自分を守るべき時に、陸子秋の頭にはその面目なく思ったが、会うことができない人だけだった。

 ──きっと私のせいだ。

 ──私はやはり子涼を死なせた……

 本来であれば、陸子秋は簡単にこの場にいる悪鬼を全て木っ端微塵にすることができた。

 しかし、彼は急に孤独に満ちた世界に落ちたように、抑えきれずに胸元を押さえ、危機に囲まれている暗闇の中で、胸が張り裂けそうなほど悲しく泣いていた。

 彼は悪鬼に自分を殺させた。

 死んだ瞬間に、彼は自分の神格が破裂した歯切れが良い音が聞こえた。

 陸家が全力を尽くして、毎日のように祈り、陸子涼を犠牲するまでに育ち上げたかった者に、完璧ではない醜いヒビが現れてしまった。

 この蜘蛛の巣のようなヒビはまるで血肉の中の内傷のようで、彼の境地が落ち、耐えられないほどの痛みを感じた。本来であれば、呼吸をしているように楽勝に過ごせる人身供儀は、急に人体をバラバラに切るような苦しみになったしまった。

 耐えなければ、魂が飛び散ってしまう。

 城隍廟の前で、怪しい祭典が賑やかに進められていた。

 棺桶付近から溢れ出た光はますます明るくなっていた。

 廟の後ろの日陰処に、陸子秋は自分の弟に首を絞められ、人身供儀から溢れた力に切り裂けられ続けていたが、彼はただ静かに耐えていた。

 彼の十数年の間の日々と同じように静かで、苦しみを心の中に隠して堪え忍んでいた。

「子涼、」陸子秋は声を嗄らしながらそっと言った。「お兄ちゃんが悪かった」

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