第七章 彼は俺を殺そうとした(1)

 深夜、客室のベッドルームの常夜灯はおぼろげな光を出していた。

 陸子涼はぼんやりとして目を覚まし、誰かが沈黙しながら彼のベッドの傍に立っているのが見えた。

 その光景は現実に見えないほどに怪しくて、陸子涼はポカンとして、一瞬自分がまだ夢の中にいると思った。顔を上げて白清夙を見たら、彼はまた気を緩んでしまい、疲れながら「どうした、寝てないで何をしていますか……」とそっと言った。

 白清夙は答えなかった。

 陸子涼は目を閉じ、数秒間目を細めたが、また無理やりに目を開けて、もう一度ゆっくりと「起きて何をするつもり……」と尋ねた。

 彼の言葉は急に止まった。

 光彩陸離たるもので、彩なす光と影の中、彼は白清夙の手に持っている物が見え、刹那の反射光線があった。

 ──ナイフだ。

 白清夙はナイフを持って彼のベッドの傍に立っていた!

 陸子涼は瞬時に目を完全に覚ました!

 彼は何秒間こわばって、目を上げて白清夙の無表情な顔を見て、ゆっくりと身を起こした。そして白清夙の真っ暗な瞳は獣のように彼の動きを追って、少しずつ移動していた。

 陸子涼はその視線にぞっとして、ようやく背筋を伸ばして座ることができると、急いで腕を後ろについて、気を引き締めながら後ろに動いた。その動きは遅くて謹慎、白清夙を刺激しない状態で両方の距離を取るように努力していた。彼の息が荒く、「何をするつもりですか?」と小声で尋ねた。

 白清夙は相変わらず何も答えなかった。

 客室内の光線は暗い。唯一の光源はその常夜灯、おぼろげでロマンスな色が今になっては異常に怪誕に見えた。白清夙はナイトテーブルの横に立ち、半分の体は光彩陸離たる光に照らされ、もう半分は濃い暗闇の中に溶け込み、まるで深夜のジャングルの中に潜む怖い化け物のようだった。

 突然、白清夙は前に一歩踏み出して、膝がマットレスに当てて、猛然と彼に向けて手を伸ばして彼を掴もうとしていた!

 無視できないほどの圧迫感は瞬時に強まった!陸子涼はドキッとして、ひどく退けて逃げようとしたが、自分はもうベッドの縁に退けたことに気づかなかった。瞬時に支える所がなくなり、全身が後ろに向けてドンっとベッドの下に落ちてしまった!

 音を聞いただけで彼はひどく転んだことがわかるが、その痛みは巨大なるパニックと比べれば、大したものではなかった。陸子涼はよろめきながらタンスに支えて立ち上がり、驚愕して白清夙のナイフの先を見つめ、口を開いて「白清夙、あなたは一体何がしたいですか?」と恐れながら言った。

 白清夙はようやく口を開いて、「もう我慢できません」と淡々とした声で言った。

 何を我慢できない?彼を殺さずにはいられない?!

 陸子涼の耳元でブーンと鳴った。

 初対面の日に、彼は白清夙が彼を殺すと予想したが、いざ起きてしまえば、彼は信じられないように白清夙を睨みつけていた。

 ……なんで?

 陸子涼は呆然として、色々考えた。

 何でそうなった?彼らはデートして帰ったばかり、何で白清夙は急に彼に殺意を持ち始めた?白清夙は彼を愛しているんじゃないのか、本当に手を出すつもり?まさかその愛は嘘だったのか?でも月下老人の天秤は……

 直ちに、陸子涼は猛然と固まった。

 彼は自分があることを忘れたことに気づいた。

 彼は、白清夙が彼に対して六コマほどの重い愛情を抱いている事実に奮い立ち、白清夙は本当に彼を傷つけないと確信した。しかし彼は、白清夙の彼に対する殺意はどれくらい重いのか計算し忘れた。

 白清夙は一体どれくらい彼を殺したかったのだろうか?

 白清夙の心の底で抑えきれない殺意は、とっくに彼の愛に打ち勝ったのか?

 彼と恋愛するよりも、結局白清夙は彼を殺したかった。

 陸子涼の心臓は激しく跳ねていた。彼は白清夙の手に持っているナイフを見て、白清夙の冷たい表情を見つめ、恍惚として……少し傷ついた感覚を覚えてしまった。

 白清夙はまだナイフを彼の胸に刺さってもないのに、彼の心がチクチクと痛み、信じられない、驚愕、どうすればよいかわからない……と深刻な裏切りという感情が入り混じっていた。

 ……裏切り?

 裏切られた感覚は普通、その真摯さが傷つけられたことからくるものだ。

 陸子涼の驚愕な瞳の中から色を失って、頭の中が少しくらくらした。

「くそ、俺は本当に彼が好きだ」と陸子涼は心の中でそう思った。

 彼は思わず後ろに一歩下がって、白清夙ともっと大きな距離を取った。

 白清夙は捕食者のように陸子涼の一挙手一投足をじっと見つめて、彼の足がこっそりとドアのほうに向いたのを見たら、常夜灯の傍に置いていたものを手に持った。「小涼、怖がらないで、私はただ──」

 陸子涼は怯えた小動物のように、瞬時に動いている彼の手を見つめ、白清夙はペンチを持っていた!

 ──朝に鶏の肋骨をカットしたそのガーデンペンチだった!

 陸子涼は驚いた。「──わぁ!」

 白清夙は本当に鶏を殺すかのように、彼を解剖して殺したいのだ!

 陸子涼は瞬時に駆け出し、風のようにベッドの底を通り抜け、何も構わずにドアを飛び出した。

 廊下には灯りが付いておらず、暗くて冷たい、彼はスリッパを履くことも思いつかず、死ぬ気で走って記憶を頼りにドアまで真っ直ぐに駆け寄った。

 暗闇の中を探りながらダッシュして逃げている時、陸子涼は急に何かとぶつかった!

 ドンっと、ぶつかった力はあまりにも強く、彼は床に転んでしまい、痛みのせいでつい声を出した。しかしそっちも痛んだ声をこぼした。

 陸子涼は瞬時に固まった。

 人?

 でも家に他の人がいるはずがないだろう?

 人かお化けか?駱洋なのか?

 陸子涼は愕然とその方向を見つめ、暗闇の中から物音が伝わり、恐らくその人が立ち上がった。

「フフッ……」

 ある怪しい笑い声が聞こえてきた。

 陸子涼の全身は瞬時に鳥肌が立った。

 笑っている?

 次の瞬間、相手の急速な足音が彼に駆け寄った!

「──!」

 陸子涼は床に手をついて飛び上がり、体を安定させた途端、向こうからパンチが襲ってきた!

 陸子涼は本能的に手を上げて防ごうとしたが、相手は異常の俊敏さで彼を避けて、一瞬で指を広げて彼の手首を掴み、片手は密かに硬いものを手に取って高く掲げて、陸子涼の頭に向けて強く打った──

 ポン!

 陸子涼は突如として強く打たれて倒れ込んだ!

 鮮血は髪の間から流れ出して半分の顔を濡らせたが、湧き上がったアドレナリンによって、陸子涼は一時期に痛みを感じ取れず、彼は歯を食いしばって、長い足を伸ばして強く引っ掛け、相手をひどく転ばせた!

 二人は直ちに床で取っ組み合いになっていた!

 陸子涼は相手を何発もひどく殴り、「お前は誰だ?」と厳しい声で言った。

「フフッ……相変わらず頑固だね?」

 その人が口を開いた途端、妙に懐かしい声で陸子涼の神経を刺激した。彼は瞳孔を震わして、何やら恐怖極まりない記憶が、頭の底から抜け出しそうだった──

 鮮血。

 激痛。

 引きずられた体。

 徐々に口と鼻を溺れさせた息苦しさ……

 陸子涼の呼吸は荒くなり、全身が固まって一時手の力を失い、その人に隙を突かせて押し倒された!

 その人の背が高い体は彼の頭上に迫り、息を切らして興奮しながら「最高、あなたは最高、あなたはまだ生きているんだね?ハハハ!俺らの間には最高の縁があるんだね!大人しくして、俺はあなたを家に連れ戻してあげる。もう一度、ハハッ……」と言った。

 その人は傍に落ちている硬いものを拾って高く掲げて、もう一度陸子涼の頭に向けて強く打とうとした時──

 急にある人影が駆け寄り、その人を蹴り飛ばした!

 廊下の光はパッとつけられ、白清夙の冷たくて厳しい視線はその人をじっと見つめていた。

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