第六章 命で償う(7)
「あぁ、良い匂い、良い匂いだ。程よく煮込まれているなんて、俺は正に天才です……」陸子涼はおたまで掬って、スープの色味を確認してから待ちきれずにボウル二つを持ってきた。
白清夙は難しそうに喉仏を動かし、彼はかき混ぜたせいで、浮かんでは沈んでいる肉と内臓を見つめ、信じられないようだった。暫くして、彼は振り返って僥倖を頼みながら冷蔵庫を開けると──
空っぽだ。
彼が数か月を経て慎重に育て、厳しく選別されてようやく育ちあげ、成熟かつ完璧な鶏……
彼が早起きをして、丁度いいタイミングで鶏舎から掴み取り、細かく解剖して、退勤した後に遊んで味わい続けるつもりだった鶏が……
もう消えてしまった。
白清夙は暫くこわばって、もう一度電子ポットで煮込まれているそのおいしそうな鶏ガラスープに視線を送った。
彼は瞳孔を震わせた。
陸子涼は鶏ガラスープを二つ手に取って、彼に向けて魅力的な燦然とした笑顔を見せ、「何ぼーっとして、早く来てください。あなたがわざわざ鶏ガラをそぎ落としたおかげで、スープを煮込むのに最適です。棚の中から棗とクコを見つけて、干し椎茸も入れたので、きっとおいしいです」と言った。
白清夙はその場に暫く黙り込んでから、ゆっくりと陸子涼の後に付いてダイニングルームの檜の大きな円卓に近づいて座り、目の前の美味しそうな鶏ガラスープを見つめた。
黄金色に輝く鶏ガラスープの上には浅い油の層が浮かんで、香ばしい香りは瞬時にこの空間に満ちた。
「あなたは、私の鶏を煮込みました?」と白清夙はようやく口を開いた。
「うん、あなたが朝に殺した鶏です。鶏を殺す時間だと言っていませんでしたか?どうせ鶏を殺したから、ただ置いておくのはもったいない、もっと貢献させたほうがいいでしょう……」陸子涼は彼の顔色を見て、ようやく何かがおかしいことに気づいた。心の中にカチッとした音がして、「何、まさか……まだ使うところがありますか?」と迷いながらそう言った。
白清夙は黙った。彼はスプーンを手に取って、一口を飲んだ。口に入れた瞬間、香ばしくて濃厚、風味が豊かで、外が売っている物よりもずっとおいしかった。
白清夙は急にそれほど機嫌が悪くなかったような気がした。よく考えれば、逆に小涼が彼に食事を与えたのはこれが初めてだ。
記念すべき日だ。
白清夙はボウルを上げて吹いて、すぐにスープを飲み干して、完璧な大きさをしていた鶏肉と陸子涼に切られた内臓を綺麗に食べ切った。ボウルを置いた時、彼は陸子涼を見つめて、「あなたはとても料理が上手です」と言った。
陸子涼はまさかこの氷山から褒められるとは思わず、少し驚いたように瞬きをして、「そうですか?なら、たくさん飲んでください。今年の冬は寒いので、これを飲めば寒さを追い払えます。昔一人で住んでいる時、偶に自分で一鍋を作ることもあります」と言った。
白清夙は立ち上がり、鍋ごと運んで来ようとしているようで、陸子涼は身に余るご厚意に驚いて、急いでスプーンで一口を掬って飲んで、自分は一体どんな珍味を作り上げたのか試してみた。
「……」
味はまあまあだ。
でも厨房の状態の悪さを考えると、彼は確かに予想以上のレベルを発揮していた。
二杯目の暖かい鶏ガラスープを飲んだ後、白清夙は立ち上がって「柿を食べますか?」
「はい」
厨房の内側には貯蔵室があり、採りたての柿は全部そこに置いてあった。白清夙が行った後、大きな円卓の上には陸子涼しか残らなかった。
陸子涼は満面の笑みでスープを飲んで、自分と白清夙の関係性はかなり進展があったように思え、デート計画の最後の一歩を実行しようとして顔を上げると、異常に空しい大きなテーブルを垣間見た。
陸子涼はこの空しい大きなテーブルを見て、頭の中にいつもの日に白清夙が一人でここに座り、黙々と食事を取っている姿が思い浮かんだ。
大きな円卓には家族の団欒を意味するから、空しくなると寂しい思いをしてしまう。陸子涼は月下老人が白家の者は恐怖のあまりに白清夙は一人暮らしを強いられたと言ったことを思い出すと、喜びに浸っていた心は何故か急にもやもやしてきた。
「道理で白清夙の料理の腕はそんなに下手なわけ、いつもは外で食べた後に戻ってきたのだろう。俺がその立場なら、以前は満席で賑やかな円卓は自分のせいで散り散りになってしまったら、外で解決したくなるほどに気が塞いでしまう」と陸子涼は心の中でそう思った。
白清夙は何個かのふくよかな柿とフルーツナイフを持ち帰って、陸子涼がスプーンを含んでボーっとしているのを見て、「どうかしましたか?」と淡々と言った。
「ここに引っ越した後、ずっと一人で住んでいますか?」と陸子涼は尋ねた。
白清夙は慣れたようにナイフを持って、柿の皮を輪切りにして、「私は子供の頃から一人で住んでいます」
「子供の頃から?」
「家族は私をアパートのスイートルームに住まわせ、人を派遣して私の世話を担当したが、その人たちは隣の部屋に住んで、必要な時以外に絶対誰も私の部屋には入りませんでした」
白清夙の手の動きは早く、話すうちに二つの柿の皮を剥いて、カットし始めた。「私の家は伝統的な大家族で、年越しの時は必ず互いを訪問してプレゼントを贈っては集まり、さらに何日か住むことになります。私はその時だけ全員の視野に入ることが許されます。しかしそれでも、夜になれば単独に外の倉庫で寝るようにと言いつけられます」
白清夙の細長い漆黒の瞳はチラッと陸子涼を見て、冷たい口調で何やらの善意的な警告のように、「親戚でさえも、誰も私に近づこうとしませんでした」とそっと言った。
陸子涼は白清夙が予想したように怖がるもしくは困惑な顔を見せなかった。
陸子涼はただ彼が切った柿を見つめて、「実は俺も大家族の出身です」と急に言った。
彼はスプーンを置いて、赤い木の背もたれに寄りかかり、彼が切った果肉を見ながら、話を続けた。「家のメインハウスは丘全体を占めており、部屋数は数えきれないほどに多いです。ただ、彼らは俺に住まわせず、俺の母に俺を連れて外に住むように命じました。彼らは俺を外で姿を見せたくて、全員の視野に入って欲しくて、そうすれば……」
そうすれば、誰も家族に隠されたもう一人の子供に気づくことはなかった。
陸家に憎しみ、恨みがあって、陸家の衰退を利用しようとした人々は彼に目線を集めた。
彼は兄の災いを転嫁するための標的に過ぎなかった。
陸子涼は目を落として、「俺は多分あなたよりもひどい生活を送っていると思います」とそっと笑って言った。
「誰もあなたの面倒を見てくれませんでした」と白清夙は言った。
「そうですね。だって俺の母は俺が誰かに水の中に押さえられて溺死させたのをこの目で見て、俺の母の認知では俺は助かることがありませんでした。彼女は毎回俺を見ては崩壊し、狂人のように叫んで、俺が彼女の家に住んでいる幽霊のように、どう頑張っても振り払えないと思っています。当然ながら、俺に食事を与えることも思い出せませんでした」陸子涼はそっと呟き、「彼女はいつも俺の兄を心配して、彼はちゃんと食べて、よく寝たのかを心配していました……彼女の心の中では、俺はもう長い間に死んでいました」
白清夙はナイフを握っていた関節を握り締めた。彼はナイフの先で果肉を刺して、陸子涼の手のひらに置いた。
果肉は皿の上の他のものと同様にアヒルの形にカットされた。
陸子涼はただ目を伏せて、柿のアヒルを食べずに持っていた。
「俺が子供の頃は本当にひどい生活を送っていました」陸子涼はそっと笑って言って、「俺は毎日のように残飯を食べて日々を過ごし、俺の母の残飯を食べ、隣人の残飯も食べました……どうしても腹が減っているのなら、俺は盗みに行きます。口に入れられるものなら、何でも盗んだことがあります。その後、ハハッ、どうなったのか当ててみませんか?俺は珍しく運がよく、良いところを見つけました」
アヒルを彫っている白清夙の手は突然止まった。
「あれは小さい
陸子涼は指先で手のひらにあるアヒルの頭を撫でた。
「このようなアヒルの形にカットされていました。全く同じです」
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