第六章 命で償う(6)

 白清夙の瞳は怖いほどに黒くて、何も話さなかった。

 陸子涼は訳もわからずに鳥肌が立っていた。「……なに、びっくりしました?」彼は白清夙の肩に手を回して、肩を組みながら街に歩いた。「レストランはそう遠くないから、車はここに置いて、一緒に歩いていきましょう。あの店は美味しいらしいから、あなたの好みは俺と似ているのなら、多分気に入ると思います」

「小涼」と白清夙は優しくて柔和で、冷たい声で言った。

「うん?」陸子涼が振り向く前に、ある力が彼を引っ張って、一つの暗い路地の中に引っ張って、壁に強く押しつけた!

 陸子涼ははっきりしない声を出し、明らかにポカンとしていた。もし朝に、白清夙が自分への愛に満ちていることを知らなければ、恐らく彼の暴れた行動に驚かされて、白清夙が耐えられずに彼に手を出すと思ってしまう。陸子涼は口を開いて、「どうかしましたか?何をするつもりですか?」と尋ねた。

 白清夙は片手で壁を押されて、片手で彼を顎を掴み、詳しく彼を眺めた。

 彼らの身長は大して差はなく、白清夙は彼より一、二センチくらいは高く、圧倒的に優勢を持っていなかった。しかし彼の身に纏う圧迫感があまりにも強く、陸子涼は一瞬反抗の余地を感じられなかった。

 珍しいことに、例え囚われていたとしても、陸子涼は怖く感じなかった。

 彼は従順に首をかしげて白清夙に見られた。白清夙でさえも知らない六目盛に達するほど重い愛を後ろ盾にして、陸子涼は何も恐れなかった。

 白清夙の漆黒な瞳の中から零れ出す殺意は、陸子涼の目には情愛が深い凝視に映った。

 陸子涼は何も恐れずに彼の視線に向き合って、喉仏を微かに動き、「もしキスをしたいのなら、大歓迎です」とそっと言った。

 白清夙の冷たく直線的な唇がすぼまった。

 陸子涼の視線は抑えられずに微かに落とし、彼の淡い色をしている唇を見つめた。

 陸子涼の心の中では、白清夙に対してある種の征服欲が存在していた。

 冷たい顔、深い池のような瞳、見下すような態度、怪しくて危険な性質……白清夙の全身には、陸子涼の好みと審美に合わない部分はなかった。

 あの時、城隍に柔らかくてかわいい大学生と付き合うと言ったのは、彼の便宜的な計画に過ぎなかった。彼が本当に拒めないイプは、白清夙のような一見登れなくて、手に負えない氷山のような男だった。

 もし、彼の命に係わる警鐘が鳴り続けていなければ、彼はもう恋に落ち、白清夙が求めたものを全て満足させたのかもしれない。

 白清夙はキスをしなかった。

 陸子涼の頬をつねっている手はそっとこすり、まるで陸子涼の肌の触感と中から伝わった温度を感じ取っているようだ。その表情は何やらの重要なファイルを確認しているように真剣だった。

 一瞬、陸子涼はどうしようもできなかった。これで何回目に白清夙に片手で頬をつねられたのかわからず、「これはあなたの特殊な好みですか?好きなだけつねってもいいですよ」とはっきりしない声で言った。

「……」

 暫くした後、白清夙は手を放したが、片手はまだ彼の頭の横にある壁に押さえ、彼を見つめていた。

「満足しましたか?」陸子涼は面白そうに笑って、顔を傾けて白清夙が出した腕にキスをした。「満足したのなら行きましょう。もうすぐ予約の時間になります。もしまたつねたくなったら、ご飯を食べてからやりましょう」

 そう言って、彼はさっき白清夙が彼を暗い路地に引っ張ったように、彼の腕を引いて、白清夙を暗い路地から強く引っ張り出した。

 華やかな街灯は光を降り注いだ。

 夕食時間の街は混雑しており、どこも非常に賑やかで煌めいていた。レストランに行く道のりで、白清夙の視線はずっと陸子涼の身に落とし、一刻も早く彼の本質を見透かしたいようだが、うっすらと真相に向き合いたくないような感じだった。

 歩行者専用の通路に入った時、彼らは強盗を目撃した。

 ある人が女の子のバックを奪った後に逃げた。

 多くの熱心な民衆は正義のために、強盗を追いかけて、サツマイモボールを売っている老人でさえも追いかけに行ったが、陸子涼は動かず、彼の傍にいる白清夙も動かなかった。

 彼らはまるで見ていないように先を進めていた。

 白清夙の視線は強盗が離れた方向を暫く眺めた後、また陸子涼の身に戻った。

 彼の目には、陸子涼はずっと奇妙で矛盾した存在のように映った。

 陸子涼の彫刻のようなかっこいい五官は、いつも太陽に劣らないような燦然とした笑顔を出していた。あんなにも暖かく情熱的に笑えるのに、実際のところはひどく冷徹で薄情な人だ。

 彼は恐れを知らないように見えたが、いつも怖がっているように見えた。彼は優しそうな顔をしているのに、優しくはなかった。

 もし陸子涼は陸家から早々に追い出され、一人で世の中の冷たさと暖かさを味わい、苦しみと不公平の扱いを受けてなければ、彼は外見と同じような暖かくて優しい人になれるのか、白清夙は思わずそう思った。

 もしかしたら、陸子涼はそのような優しい姿に育つはずだったのかもしれない。

 そうなれば、陸子涼はもう彼のような邪悪なものが触れていい存在ではなくなった。

 こんな風に彼と肩を並べて歩くことも、その柔らかい唇が彼の身に落とすことも不可能だった。

 白清夙は急に手を伸ばして、陸子涼の手を握った。

 生まれて初めて、白清夙はうっすらとある種の不安を感じた。原因は何なのかわからないが、この感情が陸子涼にしがみついて離したくないと思わせた。

 陸子涼は手を繋げられたことに驚いたが、彼はすぐにまた白清夙の手を握り返し、自分のコートのポケットに入れた。

 ポケットの中は非常に暖かかった。

 白清夙の心の中は何故かヒンヤリとしていた。

 四兄からの電話は石のように、白清夙の心に押し付けていた。

 もし陸子涼が本当に死んだのなら……傍にいるこの小涼は、一体?

 予約したレストランはとても綺麗だ。

 中のインテリアは優雅で、庭の景色は綺麗で、食事もとってもおいしかった。

 彼らは陸子涼が計画したように、食事をして、街をぶらついて、映画を見て完璧なデートを過ごした。

 陸子涼は上機嫌だ。

 バスタブの中で死んだ後、彼はこうも順調に過ごしたことがなかった。白清夙に何かやりたいことはないかと聞こうとした時、彼は白清夙がまた左後方にチラッと見たのに気付いた。

「どうしましたか?」と尋ねた。

 白清夙は少し止まって視線を戻し、「何でもありません」と淡々と言った。

 白清夙はある背の高い男の姿をぼんやりと捉えた。

 あの人は彼の小涼を狙っていると、何となくそう思った。

 車に戻った後、陸子涼は暖房の温度を上げて、「映画を見たらまたお腹が空きました。お腹は空いていませんか?」と言った。

 白清夙のお腹は空いていないが、彼は「何が食べたいですか?」と尋ねた。

「実は夜食を作っておいたので、家に戻って食べましょう」と陸子涼は笑って言った。

「作りました?」白清夙は少し間を置いた。「何を作りましたか?」

 彼の記憶が正しければ、家には調理できそうな食材はない。

 電子ポットの中に煮込まれているチキンスープを見るまでは。

 立ち込める煙の中、白清夙はスープの中にある見覚えがあって、丁度いい大きさに切られた鶏肉を見て、いつも落ち着いている顔は珍しくこわばった。

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