第六章 命で償う(3)

 駱洋は彼がずっと黙っているのを見て、「僕は一か月も死んだのに、無能な警察たちはずっと犯人を見つけられない。僕がここに来たのは、あの監察医に犯人の名前を教えようとしただけ。彼は霊視能力を持っていると聞いたが、結局……は、結局彼はお化けの言葉を聞こえなかった!見えるのに聞こえない、役に立たない!全部役立たずだ!」と言った。

「監察医?」陸子涼は我に返って、駱洋を見つめた。「白清夙は監察医だった?」

「……なんでそんなに嬉しそうに見えた?ちょっと待って、彼が何をしている人すらも分からないまま、彼と同じベッドで寝ている?!」

 陸子涼はさっと立ち上がった!

 白清夙は監察医だった?

 陸子涼の頭に白清夙が彼を見つめる時の目が思い浮かんだ。

 その殺意が含まれている眼差しは、まるでいつでもナイフを手に取って、彼を切り裂くかのようだった。

 恐らく人類の生存本能が故、陸子涼はずっとその眼差しを怖がって、白清夙と目が合った度、背筋がぞっとした。

 しかし、それが本当の殺意ではないなら?

 もしそれは白清夙の仕事上の習慣によるもの、単に彼を「解剖」している過程を想像しているのなら?

 自分の仕事を極度に愛している人はいるじゃないか?例え退勤しても、頭の回転も止まれなかった。

 もしかしたら白清夙は彼を殺すことを考えず、彼が感じた全ての殺意も恐怖は、彼が白清夙を「殺人魔」と思い込んだせいで、頭の中に全てのぞっとした細かいところを拡大しただけ。

 陸子涼の心の奥底に何かが緩み始めたようだ。

「そうだよね。彼の俺に対する愛は六目盛に達するほど重い……」

 陸子涼の微笑みはますます明らかになり、「彼が俺を殺すはずがないだろう?例えいつか彼が殺戮の限りを尽くしたとしても、俺は一番目の被害者な訳がない。そう、俺は安全だ」

 自分が白清夙の明らかな怪しい行動のために言い訳をさがしていることを彼には意識していなかった。

 月下老人の偏殿で、動かないはずの天秤が六目盛まで傾いたのをその目で見た瞬間、自分しか忠実していない陸子涼の心は、天秤のようにパッと傾いた。

 彼は駱洋を見つめ、駱洋に向けて笑った。「お喋りはここまでだ。俺はこれ以上にあなたと戦いたくないから、もう離れてもいい?」

 駱洋は二秒ほどポカンとした。「えっ?」

 陸子涼は両手を広げた。「誤解は解けた。俺は犯人と組んでいないから、その怒りと恨みを俺にぶつける理由はないし、俺を殺す理由もない。そして白清夙は鬼神に近づかないし、君の言葉も聞こえないなら、君が彼の家に居て彼を付き纏っても意味がない。ほら、ここに居る必要はないだろう?」

 駱洋は信じられず、怒涛の怒りに襲われ、陸子涼に向かって彼に教訓を与えようとしたが、足を上げようとした時、自分は動けなかったことに気づいた。彼は茫然として俯いて、自分の足の甲は倒れた電気スタンドに抑えられて、一キロもない物なのに、巨石のように彼を抑えつけて、抜け出すことができなかった。

 駱洋は焦ってしゃがんでそれを動かそうとして、清楚な顔は少し歪んでいた。「何をした!」

 陸子涼も少し意外に思い、その場で暫く足掻いているのを見て、「そうだったのか?何で同じお化けなのに、君は鉄のドアを開けられるほどに凄いのかとおかしいと思った。その時は正気を失って狂気の状態だったのか?狂気になればなるほど、力が強い。今は傷ついていない容貌を保てることから、まだ理性を保っているだろう?」とわかったように言った。彼は目を細めて、冷笑いをした。「正気と強さは共存できないんだ」

 駱洋はその言葉を聞いて驚かされた。

 陸子涼は彼を通り越して、彼をその場に残そうとした。「電気スタンドを起こすこと自体は容易いことだけど、君は俺を傷ついて、俺を不愉快にさせた。自分で何とかして正気を失って外に出よう、できるだけ白清夙が家に戻る前にここを離れたほうがいい。知らないかもしれないが、白清夙は神さえも認証したサイコパス、もし彼とパッタリ会って、しかも彼のプライベートの空間に踏み入れて、ここを散らかしたことを知ったら、彼は恐らく君を逃さないだろう」

「あなた──」と駱洋は怒ったように言った。彼は元々自分が言葉の煽りを受けたらすぐに恨みに焼かれた狂気状態に入ると思ったが、おかしいなことに、人は一度正気が戻ったら、短時間でもう一度徹底的に落ちることが難しいようだ。

 駱洋はドアを踏み出そうとした陸子涼を死ぬほど睨んで、「あなたは、あなたはあの監察医に『王銘勝』という名前を教えるつもりはないだろう?」

 陸子涼はさりげなくうんと言って、「彼は俺に鬼神のことに近づくなと言った。俺は彼の好感を貰いたいから、彼の言葉に従ったほうがいい」

「あれもあなたを殺した犯人だ!あの気持ち悪い変態は未だに捉えられていないのに、まだ恋愛する気があるなんて!?一体何の問題がある!まさか彼が罰を受けて、真相が明らかになった日を見たくないのか!」と駱洋は叫んだ。

「悪いけど」陸子涼はわずかに目を曲げて、その目にはまるで日の光が含まれたようだけど、話した言葉は至極冷たい。「あの王銘勝は俺が気になっている真相ではない。それに、真相を明かしたところで何の意味がある?真相は生きている人のためにある。その縹緲な慰めに執着するよりも、直接王銘勝を殺したほうが痛快だ」

 陸子涼は振り返らずにドアを踏み出した。「俺が生きれていけたら、真実を気にする余裕があるかもしれない。気を付けて、その電気スタンドの下から早く抜け出せるよう祈っているよ」

 ドアはガチャと閉まった。

 駱洋は死ぬほどにドアを睨み、喉から憎悪の咆哮を出した!

 外、陸子涼はこれ以上にないいい気分だ。朝を過ぎた後、氷山のように攻めにくい白清夙のイメージは、彼の心の中で溶け始め、温度を持つようになった。

 自分の部屋に戻り、陸子涼は美味しい出前を頼んで、それから浴室に行って鏡を映した。

 首筋には怖いつまんだ跡が増えた。

「スッ……くそ痛い。さっきは彼を何発か殴った後から去るべきだった?同じ被害者なのに、仲間割れしてどうする」

 陸子涼は厨房に行って、冷蔵庫から氷袋を取り出して首に当てた。出前を待っている間、彼は柿を手に取り、皮を剝いて食べた。そして気まぐれにアヒルのように見えるように肉を削ったが、しかし彼が目を細めて真剣に暫く彫刻しても、失敗に終わった。

「そんなに難しいのか?アヒルの柿を盆ごと削る人を昔に見かけたけど、芸術の細胞が必要だったとは」

 陸子涼は眉を上げて、何回かその欠けたアヒルたちを弄って、一気に食べ切った。白清夙が栽培した柿はとてもおいしいと言わざるを得なかった。果実はふくよかで、果肉はサクサクで甘い。監察医である同時に果樹園農家を掛け持ち、しかもよくできているとは優秀な男だな。

 陸子涼は自分が心の中で白清夙を天まで上がるほどに、彼を褒めていることに気づいていなかった。

 厨房を離れる前に、陸子涼は思わずにまた冷蔵庫をチラッと見た。昨晩に冷蔵庫の中にあまり食べ物がないという結論を出したが、彼は思わずにまた冷蔵室を開けてチラッと見た。

 朝っぱらから白清夙に解剖された鶏が、きちんと並べられ、異なるカテゴリーに分類され、中に置かれていた。

 陸子涼は鶏の骨、鶏肉と内臓に視線を送り、何かを考え込んでいた。

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