第六章 命で償う(1)

 冬場の朝、日の光は明るくて暖かくて、四合院の青いレンガを輝かせるように照らしていた。

 陸子涼は一つの濃い茶色のドアの前に立ち止まっていた。

 これは白清夙の部屋のドアだ。

 城隍廟から戻って来てから、陸子涼は動かないまま、そこに立っていた。

 彼は視線を下に落とし、かっこいい顔は病気のせいで少し青白くなり、指は軽く曲がって、澄んだ瞳はドアについている金属のドアノブをじっと見つめていた。

 六目盛まで傾いた天秤の法器のことは頭から消えなかった。驚いた後、大いなる疑問が忽ち襲ってきた──

 この世に理由のない愛は存在していない。

 なんで白清夙は彼に対してそんなに重い感情を持っている?まさか本当に月下老人と城隍の言ったように、白清夙はサイコパスで、彼に対する愛は白清夙の邪悪でひねくれた心理によって、反映された結果なのか?

 陸子涼は軽く唇を噛んで、「いや、違う、きっと昔に何か交わりがあったはず。ただ俺が気づいていないだけ、もしくは……忘れただけ」と心の中でそう思った。

 白清夙は冷たい性質を持っているから、その部屋も几帳面でシンプル、きれいなはず。もし本当に陸子涼が大事なら、必ずしも陸子涼に関するものを手が届く場所に置いて、せめて探すのに苦労しないはず。

 今の時間はまだ早い、陸子涼は白清夙が戻ってくる前に、こっそりと彼の部屋に侵入してチラッと見ることに決めて、もしかしたら何か手掛かりが見つかるかもしれない。

 彼は金属のドアノブを握って、パタッと部屋のドアを押し開けた。

 部屋のカーテンは開けており、明るい日の光は金色の葉っぱのように差し込んで、空気の中に漂っている細かい塵も反射光を映し出した。

 長形の間取り、部屋の面積は客室より二倍くらい広く、二つの部屋を貫通しているようだ。部屋に入ってすぐリビングルームに繋がっていて、その隣はオープン式の書斎、もっと奥に行けばベッドルームとシャワールームだ。多分窓を開けているお陰か、空気の中に淡い花の香りが漂っていた。

 陸子涼はチラッと見て、顔に唖然として驚く表情を浮かべた。

 部屋は散らかっていた。

 予想以上に散らかっていた!

 白清夙の氷山のようにクールな性質と全く異なり、彼の部屋はショットガンに打たれたように散らかって、あちこちに様々なものが置いてあり、服、原稿用紙、本……と変な骨格の模型の塊。死臭がしないことに認識してなければ、ここで誰かが死んで白骨化したのかと思った。

 陸子涼は自分の目が信じられず、本能的に一歩後ろに下がったけど、足元は何かに躓いて、バランスが取れずにひどく床に転んだ!

「スッ……いたたたたた!」陸子涼は綿のスリッパの中の足指に手を当てて、片方の手で触ってみた。「なん……うわ!」

 急にべたべたで柔らかい何かの塊に触れて、陸子涼はぞっとして、驚くのあまりに正体を見ずに猛然と手を振り払って、そのものはひどく飛んで、ドンと雑物の山の中に落ちた!

「くそ、なんだ……」

 陸子涼は耐えられずに必死で手のひらをズボンに擦って、本当は何もついていなく、手のひらも乾燥しているが、その怖い触感はまるで粘菌のように肌に付着しているようで、振り払っても消えなかった。

 彼は驚きを収まらずに眺めたが、そのものは雑乱の背景と混ざり合って、一体何なのか判別できなかった。

 陸子涼は少し驚いて、またおかしく思い、何も構わずに笑って、視線を戻そうとした時、急にちらりと何かを見た。

 彼は微かに目を細めてじっくりと見たら、左側の本棚にある重ね合わせた書籍と図鑑の真ん中に、一本の厚い本が横向きに差し込んでいた。

 背表紙には「第六十六回立時リーシー高等学校卒業アルバム」と書いてあった。

 陸子涼は少しポカンとして、瞬時に目を輝かせた!

 白清夙も立時高校を通っていたんだ!なら彼らの交わりは高校の時?

 待って、でも第六十六回なら……陸子涼は少し計算して、また固まった。

 白清夙は彼より五歳ほど年上だ。

 白清夙が高三に上がった頃、彼はまだ中一だった。

 彼の記憶が正しければ、立時高校には中等部が含まれており、二つの校舎は大きなグラウンドを隔てていた。陸子涼の中学と高校は立時に通っていたから、もし二人の在校時間が重なっていれば、確かに出会えた可能性はあった。

 でも陸子涼はスポーツ推薦の生徒、殆どの時間はプールと体育館に居て、その後はよくコーチと一緒に市立プールへ行って訓練をして、もしくは他の市に行って試合を行い、校内にいる時間は普通の生徒に比べて、そう多くはなかった。

 そう思うと、彼らが校内で出会えた可能性はまた僅かになった。

 静かで雑乱の部屋の中、日の光は陸子涼の柔らかい髪にかかり、彼は適当にその場に座り、細長い足を支え、漫然として痛む足指を揉みながら、十年前の中一生活を思い出していた。

 学園、チャイムの音、制服、先生の顔、同級生の姿……

 十年の年月はあっという間に過ぎ去っていた。

 陸子涼は長らく思い出して、喉仏を動かし、苦笑いをこぼした。

 何も思い出せなかった。

 忘れっぽいは彼の生存法則のひとつだ。彼がまだ脆弱な子供、どんな攻撃にも抵抗できない時、自分を傷つけた人や物を忘れることが唯一自分を守れる方法だった。時間とともに、耐え難い歳月と最悪な経験であればあるほど、彼はすぐに忘れて、まるで体が傷に対するストレス反応のようだった。

 覚えたくても覚えられなかった。

 結局頭の中は激しい情緒が過ぎた後の痕跡しか残らなかった。彼は偶にそれらの痕跡に沿って一部の詳細を思い出せるけど、殆どの時、彼は単に思い出したくなかった。

 中一の時のことについて、陸子涼が唯一覚えているのはその年で初めて取った全国大会の金メダルだった。

 でも今その金メダルがどこに置いているのか彼には覚えず、ただうっすらとメダルを獲得した時の興奮で誇りに思った情緒しか覚えていなかった。だってあれは彼の苦しみに満ちた幼い頃に差し込む初めての暁だった。

 陸子涼はあっさりと立ち上がり、彼の細くて優美な体を伸ばした。

 この部屋の荒っぷりを見て、彼は恐らくその中から手掛かりを見つけるのが難しくなった。例え本当に見つかったとしても、多分肝心な情報も思い出せない。

 彼は振り返って出ようとした時、突然外の廊下から微かな水の音がした。

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