第五章 鬼神に近づかないこと(7)
月下老人は陸子涼の顔が茫然として、怯えている様子がないことを見て、思わず厳しい口調になった。「僥倖を頼むことはしないほうがいい!あやつから法器のバランスが取れるほどの愛をもらって、まだ逃げられると思うな。もし彼は本当にあなたのことをそれ程愛しているのなら、絶対に誘惑に耐えられず、すぐにあなたの命を奪う快感を楽しむはずだ。本当にそうなれば、私でさえあなたを救うことができない!」
「彼は戒めを破って鬼神のことに触れたら、どうなるのか?」と陸子涼は尋ねた。
傍に立つ城隍は思わず口を割って、焦燥感を抑えながら「彼がどうなってもいいだろう!子涼、かわいい子ちゃん、赤い糸を切ろう?私が何とかする、兄ちゃんが何とかしてあげる──」と言った。
「雲雨巫山を味わった後、もう一度禁欲ができないように、彼の魂の奥底の邪悪な部分はうずうずして騒めき、欲望に従ったまま行動した時の快感を思わず思い出して、そして何回も自分の身にかせた鎖を破ってしまう」
彼は手を伸ばして外に指をさした。「何で、彼は一人でこんなに大きい屋敷に住んでいるのか分かる?白家のような代々神に仕え、鬼神をよく知る家族でさえ、彼を隔離して一人暮らしさせるような愚かな方法しか思いつかなかった。彼の本性がいかに危険で、コントロールができないのかわかる!今の冷静さは本当なのか装っているのか、誰がわかる?あなたのような一般人が彼の傍にいると、間違いなく死に近づいている!」
「でも俺は図々しく彼の家に住み着いて、勝手に彼が戒めを破るまでに彼の注意を引き、今更怖いだからって身を引いては離れるなんて、あまりにもクズ過ぎた」と陸子涼は言った。
「元々クズだから、もう一人増やしたところで関係ない!」と月下老人は冷たく笑った。
陸子涼は愕然とした。「俺がクズだと?」
「何であなたの元カレたちが全員、あなたとお別れすると思う?何で月下老人はあなたに赤い糸を授けたくないと思う?あなたは冷徹で自分勝手、かつて愛し合った相手でもすぐに名前を忘れてしまった!陸子涼、あなたは誰かを本気で思ったことがない、あなたが大事にしているのはあなた自身だけ、何でよりによってこの時に変わった?」
陸子涼の瞳孔は微かに縮み、暫く声がなかった。
暫くの間、彼は軽く目を閉じ、前髪が目の前に落ちた。そのかっこいい顔に淡い影を落とした。彼の青白い顔は微熱によって少し赤くなり、微かに混乱した目をしていた。
彼は確かに利己主義者だ。目的を達成するために、他人の困難と苦しみを無視できるし、明るくて無害な笑顔を見せながら他人を利用できる。池に飛び込み溺水者を救うという善良な行動のように見えることでさえ、実際は自分の幼い頃のトラウマを癒すために取った行動だ。
でもそれが人間性だろう?誰だって自分を大事にする。幼い頃から誰も彼を守ったことがないから、彼は自分のことを精一杯に守ることに慣れた。それの何処かが悪い?
彼に別れを告げて離れ、彼を悲しませた全ての人を、何で彼は覚えなきゃいけないのか?
情誼に厚いことになるためには、心に留めて自虐しないといけないのか?
陸子涼は喉仏を動かし、口を割って反論しようとしたが、最終的に彼は暫く沈黙して、「冷徹で自分勝手」という汚名を背負った。
彼は目を閉じて、平静として「俺は殺された後にあなたの所を訪ねたのは一線の生機を手にしようとした。その生機が存在しているのなら、何で俺がそれを諦めなきゃいけないのか?リスクが高いけど、全く希望がないわけじゃない、俺は諦めるはずがない」と言った。
「あなたには分からない!もし彼の手によって死ねば、魂ごとに散ってしまう──」と城隍は焦って言った。
「それがもしもの話だと言ったよね」と陸子涼は言って、「それに來世に期待していないと、最初から言ったはずだ。命を償うのなら、今世で償わないと意味がない。曖昧として掴みところのない来世のために、恨みを晴らせないまま死ぬわけにはいかない」
「陸子涼──」と城隍は怒って言った。
陸子涼は振り向いて月下老人を見て、急に笑顔を見せた。「あなたが俺を神婆の果樹園に残した時、こんな状況になると予想すべきだ。安心して、あなたは俺のことを自分勝手な人だと言った。俺は命を惜しんでおり、もしまずい状況になったら、すぐにあなたの仏壇の下まで駆け抜けて隠れ、絶対に救うのに間に合わないという状況にはならないから」
「……」
陸子涼は笑って振り返った。「さあ、また明日に来るよ。明日の赤い糸がまた重くなるのかな。このペースだと、もしかしたら明日になれば、法器のバランスが取れたのかもしれないね」彼は楽観的に言って、廟の扉を開けて、また少し止まって、「おう、そうだ。さっきは『お兄ちゃん』と自称してなかった?」
陸子涼は視線を上げて、傍に立つ城隍をチラッと見た。
城隍は一瞬ポカンとして、何かを言いかけてやめた。
少し隙を空いた廟の扉の外から、煌びやかな日の光が差し込み、陸子涼の笑顔を暖かくて眩しいように見せた。しかし、彼の口から零れ出す言葉はひどく冷たかった。
「本当は兄がいた」
陸子涼は微笑んで言った。
「でも俺は彼を恨んでいる。俺たちは友達、兄弟として接する必要はないよね」
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