第五章 鬼神に近づかないこと(5)
「何で生き返らないといけないわけ?」と月下老人は口を開いた。「すべてを忘れ、あの世に行って生まれ変わって、次の人生を過ごした方がいい選択しじゃないのか?頑なにこの苦しい道を歩むのか……なぜだ?本当に死ぬのがこんなに悔しい?」
陸子涼は手を上げて、「もう俺を説得しようとしないで、何があってもこの考えを変えない。ほら、昨晩結んだ相手から引っ張り出した赤い糸だ。どれくらい重いなのか、早く測ってみて?」と言った。
「そうだ。早く測ってみて、上から禁止された法器を見させてよ」いつの間にか付いてきた城隍も言った。
「……」月下老人はその青面獠牙の仮面に白目をむいて、適当に手を振ったら、扉は轟きながら閉じ、外を隔てた。
それから、彼は眉を下げ、目を伏せたまま、手のひらを上に向け、きらめく光の中、伝説の中の天秤法器は目の前に現れた。
天秤法器は全部漆黒で、優しい色合いだった。細い棒の両端は精巧な木質のチェーンを垂らし、一輪ずつ繋がっているが、留め具の繋ぎ目がない。どうやら法器ごとは木から彫り出され、自然な仕上がりになっている。
供える台の果物は傍に追いやって、法器はテーブルに置かれた。両端は揺らぐ間に鐘が鳴ったような音を出し、はっきりとして綺麗な音だった。
月下老人は手を上げて法器の右端のフックをそっと触れ、その雪の玉のように柔らかな白い光は、フックに引っかかった。
法器は瞬時に右側に傾いた。
月下老人は引っかかっていた光の玉を指した。「これはあなたが取り戻したいもの、今世の命だ」
陸子涼はその光の玉を見て、心臓がドキドキした。
「そしてこっちは赤い糸を測るところだ」月下老人は左端の小さな木の盤を指し、「もしあなたが取ってきた赤い糸は、天秤にバランスを取らせるほどに重ければ、フックがその光の玉を放す。そしてその光があなたの体に戻れば、神に逆らって復活を果たせる。死体を保存できた?」と聞いた。
「うん、安全な場所に隠した」陸子涼は月下老人に左手を差し出し、「赤い糸を取った後、薬指に結んでいる輪に入り込んだ。早く取り出して測ってみて!」と言った。
「あまり期待しないほうがいい」月下老人は微かに触れ、一節の赤い糸は陸子涼の赤い指輪から飛び出し、「今日で命を取り戻すことはあり得ない。天秤のバランスを保たせるためには、ものすごく深い愛が必要だ。一日しか赤い糸を結んでいないから、多分天秤は少しでも揺るがないだろう」と言った。
「何でそんなに悲観的、もしかしたら子涼に一目惚れをしたのかもしれないよ!」と城隍は励ますような口調をしていた。
月下老人は彼をチラッと見て、「廟の主位として、そんなに常識に欠けていることを言わないでくれる?一目惚れで天秤に何目盛まで沈めさせるのか知らないのか?」と皮肉を言った。
何目盛り?
陸子涼は天秤を細かく眺め、左端の棒には一目盛ずつの度量が刻まれていることに気づいた。「壱」から「捌」まで、つまり一から八の意味だ。その上に度量の位置を示している赤い糸が一輪かかっていた。
この時、天秤は右側に傾き、赤い輪は中央に一番近い位置に滑り、「壱」の字に止まった。赤い輪が「捌」の字に滑れば、天秤はちょうどバランスが取れる。
「それで、一目惚れが何目盛になれる?」と陸子涼は尋ねた。
月下老人は彼を見つめ、その眼差しは興味津々にして、「どう思う?」
陸子涼は躊躇して「えっと、三?それとも二目盛?」と言った。
月下老人は笑った。
「残念ながら、一目盛も達してない」
陸子涼は目を見開いて、「は?」
「一目惚れはせいぜいご縁の始まりに過ぎない。例え心の中で好きだと思っても、一目万年だと思っても、法器にとって深刻ではない。天秤は揺らぐかもしれないが、一目盛を超えることはない」と月下老人は言った。
陸子涼はいつも相手を見た一目で付き合うかどうかを決める。一目惚れ程度にもならなかった。そう言うと、今までの恋が一目盛にも達していなかった?
彼の心の奥底は急に冷たくなった。
一目盛以上の愛が何なのか、彼には知らなかった。
競技場で勝利のルールをわかっても、得点方法がわからないように、試合開始の銃声を聞かなくても、自分が負けるとわかっていた。
陸子涼は口を開いて、「じゃ……どんな愛で二目盛になるのか?」と尋ねた。
「心配し始めた?」月下老人は面白がって、「一目惚れした人の心をつかむには、何か必要なのか?どれだけのものを与えるのか?どれだけ失うのか?どんな苦しみを味わうのか?どんな犠牲をするのか?この世の愛は様々で、確かな答えはない。愛がある限り、天秤は自然と傾けてくれる。ただ聞いているだけじゃ、答えは出てこないよ」と言った。
説明されたことは説明されていないも同然だ。陸子涼はその綺麗な唇を軽く何回か噛んで、「はめられた……」とこぼした。
「穴だとしても、自分で飛び込んできた」月下老人は無慈悲に笑った。まだ成長しきれていない手は少年の幼さを帯びていたが、指は非常に柔軟性があり、空中でなぞって動かし、空中に漂う赤い糸は正確に天秤の小さな木の盤に漂った。「一晩頑張った成果を見てみよう」
繊細な赤い糸は小さな木の盤の上に浮き、ゆっくりと落ちた。
陸子涼は緊張で息を呑んだ。
傍にいる城隍はそっと「一回で生死を決めたわけじゃないから、大丈夫だよ」と彼を宥めた。
「……」
天秤は概ね動かないと思ったが、陸子涼は答えが出る前に悪い知らせに耳を傾けたくなかった。彼は城隍をチラッと見て、「ちぇ、今回もダメだと思う?」
「うん……ハハッ」と城隍は言った。
「……」
赤い糸はきらめく髪のように、ふわっと落ちて、また落ちて……最後、音を立てずに小さな木の盤の中央に落ちた。
今回は終わったと全員が黙認し、陸子涼に偽善的な慰め言葉をかけようとした時──
パっ!
天秤はまるで千鈞の重みを受け止めたように、猛然と左側に傾いた!
月下老人は一秒くらいポカンとして、瞳孔を縮め、元々悠然と扉の傍に寄りかかっていた城隍でさえ、瞬時に背筋を伸ばした。
天秤の両側は激しく揺らいでいた!
ガラガラとした音が鳴り響き、命を促しているように鼓膜を打った。そして揺らぐ幅に沿って、分秒の流れがどんどん小さくなった……
ある角度でしっかりと止めた。
静寂の中、全員は抑えられずに傾いた棒、その度量を表示する赤い輪の位置に視線を落とした。
「陸」
六目盛。
陸子涼は急に大きく目を見開いた!
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