第四章 優しさと殺意(5)

 白清夙は彼の顔色が急に青ざめたのを見て、「具合が悪いですか?」と尋ねた。

 陸子涼は何も言えずにいたから、白清夙は耳式体温計を持って彼の耳に入れ、ビーという音が鳴った後、体温計の画面には三十八点九度と表示してあった。

「早く休んでください」白清夙は彼を押し倒してから振り返って、半分に残ったお粥とコートを持って離れようとした。

 陸子涼は我に戻って、急いでマットレスを支えて身を起こし、諦めずに尋ねた。「その、何ならあなたの部屋で共に一晩を過ごしてもいいですか?」

 白清夙はきっぱりとドアを閉めて離れた。

 その時、部屋には陸子涼一人しか残ってなかった。

 陸子涼は息を吐いて、ひとしきりくらくらする頭を揉んだ。目的を達成できないことに少し悔しいが、白清夙のせいでずっと密かにピンと張った神経も急に緩んだ。

 殺人鬼と二人きりになるのは簡単なことじゃなかった。

 今は大体十時半くらい、後半時間で赤い糸が取れる。白清夙をここに残せなかったのなら、何とかして白清夙が寝た後に彼の部屋に潜入しないと。

 でもこの四合院は大きくて、部屋も多くて、さっき厨房を探すだけで迷子になった。白清夙はどの部屋に住んでいる?それに部屋はプライベートな空間だ。映画で演じたように、殺人鬼が事件を起こした後にわざと残した「記念品」を置いてある可能性だってある。もし潜入した時に運が悪く白清夙にバレたら、それに見ちゃいけないものでも見たら、十中八九口止めのために殺される。

 陸子涼はイライラしながら舌打ちをした。「ダメだ。それじゃハードルが高過ぎる、そうだな……」

 考えているうちに、心の底に秘めている不安と焦りが再び沸き上がった。

 病気が原因なのか、それとも水に入り浸って紙紮人形の体をまた損傷したせいなのか、彼には自分の生命力がまるで岸に救い上げられた時、体から滴り落ちる水のように、一滴一滴と流れていくのをはっきりと感じられた。

 大切なものなのに、容易くて安っぽく彼の体から流れていき、まるで彼が生きている価値がないかのように、生活のあらゆる些細な出来事が、突然自分に牙を剥き、彼の命を奪ってしまうようだ。

 陸子涼はこの感覚を極度に嫌っている。

 彼はベッドの縁に斜めに寄りかかって、軽く眉をひそめながら考え込んだ。彫刻のようなかっこいい顔には高熱による赤みがかかり、まつ毛を微かに落とし、無意識に軽く唇を噛んで、精巧で美しく、だけど脆弱な人形のように見える。重いストレスに押しつぶられそうなのに、意地を張って負けを認めないのだ。

 ──彼を切り裂いて、中にはどんな美しいものが隠れているのか見てみたい。

 これは白清夙がもう一度ドアを押し開け、部屋に入った時に最初に浮かんだ考えだ。

 彼は陸子涼を見つめ、漆黒な瞳の奥には一瞬恐ろしい欲望が沸き上がった。

 でもたった一秒も経っていないうちに、それは再び彼に抑えられた。

 部屋のドアを開けられた物音で陸子涼は警戒しながら顔を上げた。

 彼は戻ってきた白清夙を見て、驚きの眼差しに隠し切れない狼狽が含んだ。「あなた……」と言って視線を下に送り、相手の手に持っている常夜灯を見つめた。

 それは様式が少し古い常夜灯だった。曲がった金属棒には色彩豊かなステンドグラスで覆われたマットのランプシェード、表面には少しの拭き取られた湿った痕跡があり、明らかに白清夙が家のどこから掘り返された埃まみれの古いものだった。

 白清夙は常夜灯をベッドサイドテーブルに置き、プラグを差し込み、「何でまた起き上がっていますか?厳しい表情をして、一体何を悩んでいますか」と言った。

 陸子涼は答えなかった。彼は啞然として白清夙が常夜灯を彼のそばに置き、ランプシェードの中から垂れている金属の細いチェーンを引っ張ったのを見た。

 パっ。

 薄暗い電球が光った。

 ランプシェードからおぼろげな光を出し、瞬時に色彩豊かな光が壁を囲んだ。

 まるで軽くて、優しい抱擁のようだ。

 陸子涼は急に何も言えなくなった。

 彼が突然襲ってきた暗闇に怯えたのを見て、白清夙は彼のために家の中で探してから、灯りを持ってきた。

 陸子涼の記憶の中で、誰も彼が何かを怖がっていることを知った後、彼を守るための行動をしたことがなかった。

 彼はその古くて優美な常夜灯を眺め、その優しい光を見つめ、人生で初めて自分が本当に暗いところが怖いであってほしかった。

「横になってください」

 白清夙はそう言いながら、棚から新しい布団を取り出し、ベッドの上に置いた。

 陸子涼は啞然とした目をさらに見開いた。

 ──白清夙は本当にここに残って彼と一緒にいたいと思っている。

 彼が適当についた、悪夢を見たという噓のために。

 いつも冷たくて思いやりのない陸子涼の心は、急に切なくなり、疼きだした。

 何でそんなに優しくするの?この優しさは一体本心なのか、それとも別の目的を達成するための手段なのか?

 この人は一体、殺人鬼なのか?

 そばのベッドは少し凹み、白清夙がベッドに上がり、布団を引いて横になろうとして、「シーリングライトを付けたままだと寝られないから、常夜灯だけをつけて寝ましょう」と言った。

 陸子涼は我に返って、急に横へ飛び付いた。「ちょっと待ってください!」

 白清夙は振り返り、無表情なままで自分が横になろうとした位置に彼が伏せているのを見た。

「おっ、俺はこっち側がいいです」陸子涼は頭を上げて彼を見つめ、「位置を交換しましょう」と言った。

 白清夙は黙ったままだ。

 陸子涼は口角を上げ、その澄み切っている瞳の中は言えない笑みが込められた。「熱を出しているから、俺が寝た布団は……暖かいですよ。交換しても損はありません」とそっと言った。

「……」

 ガサガサとした物音の後、陸子涼は願い通りに位置を交換でき、白清夙の左側で寝ることができた。

 そうすれば、こっそりと白清夙の左手の薬指から赤い糸を引くことは簡単になった。陸子涼の心にある重荷はまるで大半を下したようだった。急いでライトを消して、布団に潜り込んで、白清夙が早く眠りに落ちることを願った。

 部屋が暗くなった後、古めかしいはりの表面に、色彩豊かな常夜灯のおぼろげな光が映った。その色は優しくて美しかった。まるで薄い霧に覆われた夜の灯火のようで、知らぬ間に神経を緩んでしまった。

 陸子涼はチラッと彼と一緒にこっち側に移された常夜灯を見て、色彩豊かなランプシェードにある模様を目で描き、見れば見るほど、心がピリピリとした感じになった。

 すべてが終わったら、いつか白清夙を思い出すと、一番に頭に浮かんできたのは、多分この常夜灯だろう。

 高熱はまだ静かに陸子涼を苦しめていた。彼は頭がくらくらするほどに熱が出て、骨の隙間まで疲れて無力になった。自分が寝込んでしまわないように、彼は頑張って瞼を開け、天井に映っている常夜灯のすべての色を数え切れ、またすべての不規則な模様には幾つかの角があるのか数え切ったら、ようやく白清夙の呼吸が落ち着く頃まで我慢し、急いで携帯電話の画面を見た。

 もうすぐ十二時だ。

 陸子涼は声を立てずに深呼吸して、心の準備を整え、水に潜っているように、下に向けて布団の中に滑り込んだ。

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