第一章 命をかけたとんでもない恋(5)
月下老人が声を出して笑った。「生き返りたいか?」
「そうだ」陸子涼が決心をつけてそう言った。「生き返りたい。お前たちのせいで奪われてしまった命を必ず取り戻す!」
月下老人は彼の真剣で執念深い表情を見て、ばかげていた笑顔が徐々に消えた。「普通、辛い目に遭って横死した人は一刻でも早く殺人犯を捕まえて、そして地獄に送ってほしいと願うのだが」
「確かにその人は地獄に落ちてほしい。けれども、変質者に罰を与えるよりも自分の命を取り戻す方がもっと大事だと思う。償ってくれると言ってくれたら、今世を取り戻してくれないと意味がないだろう。人の命というものにはツケなんて意味ないものだ」陸子涼がそう言った。
月下老人が無表情になって、顔を下向きにして彼を見つめた。
外の雨は弱まり、側殿が静寂に包まれた。
壁の隅には雨漏りの音が軽く、ぽたぽたしている。
陸子涼の顔は落ち着いているように見えたが、無意識のうちに指が丸まって拳になった。ストレス耐性の高い人なので、どんなにプレッシャーのかかるレースでも強い精神力を維持でき、簡単に押し潰されることはなかった。
けれども、神様に見つめられる今この瞬間、彼は突然そのプレッシャーを耐えなくなりそうだ。
胸の奥に強く押し込められていた恐怖と無力感が、今にも噴出しそうだ。
時間が一分一秒経つごとに膠着状態が長くなり、陸子涼の背中もますます引き締まってきた。精神が崩壊しそうになったその時、後ろから誰かがドアを軽くたたいたように、微かな「タッ!」の音がした。
緊張感が高まる中、この微かな音は雷のように聞こえた。陸子涼が驚いて振り返ってみると、ある「人」はいつの間にか後ろに立っていた。
この人物は背が高くて、濃い色のオーバーコートを着ている。青面獠牙《チィンミェンリアウイア)(青い顔にむき出した牙がする鬼)の仮面をかぶっていることを除き、その装いは今時の若者の恰好とは変わらない。けれども、こんな時ここに出てこられる者はどんなに普通の恰好をしても、決して普通の人ではないだろう。
陸子涼はこれほど近くに人がいることにびっくりして、「くそ!」という言葉を口から吐き出した。
青面獠牙の仮面の下から短い笑い声がした。
月下老人はその人を冷たく見て、陸子涼に対して「その人を見ないで、こっちを見るのだ」と言った。
「その人は……」
「私の
陸子涼は言われた通りに視線を戻した。けれども、もう先までのように答えを待つのはいられなくなった。彼は立ち上がり、前のめりして月下老人に近づけた。
陸子涼は背が高く、月下老人の目と合わせるには少し身をかがめる必要があった。彼はそっと尋ねた。「考えるには時間がかかりすぎた。俺の命を返してくれるか?」
月下老人は瞼を上げて言った。「こうやって私に質問する勇気がどこからもらったのか?」
陸子涼はいきなり手を伸ばし、月下老人の服の襟を掴んで力強く目の前に引っ張ってきた!
「生き返るために、俺は何でもやる」陸子涼は神様を見つめてそう言った。「どんな代価を払っても俺はやる。神様を怒らせても気にしない。しかも、悪かったのはあなたの方だった。俺の要求を拒否する権利なんかはないだろう? 人間には品格の良し悪しが問われるが、神様になるとそれを問わず、人を死なせても責任一つを負わなくて済むことはないだろう?」
月下老人が突然笑い出した。
彼は陸子涼を見つめて、性別の見分けがつかない声で言った。「あなたは神様を強く信じる人だよね?あなたは私を当惑させているとはまったく思っていないようだ。逆に、私があなたの願いを必ず叶えてあげられると固く信じている。ここのポイントは、私があなたの願いを聞いてあげるかどうか。そう思っているだろう?」
神様を強く信じる人?
陸子涼は暫く黙ってから、眉毛を上げて言った。「あなたは神様だよ。俺はただの惨めに死んだ幽霊だ。あなたを困らせることはできないだろう。俺を困らせるのはあなたの方だ」
月下老人は笑っているように言った。「あなたを困らせることを未だやっていないよ」
彼は陸子涼の手を振り払った。
「わかった。こんなに度胸がある人はめったにいない。生き返りたいなら、一度だけあなたと冒険をしようか」
月下老人は磁器のような白い指で何もない空中で振ってあげた。
陸子涼は突然、頭がくらくらして目が回るのを感じた。
金色の光が回る渦巻の中に落ちたように、五臟六腑が遠心力で飛ばされてしまいそうな感じがした。
月下老人の声が耳の横か脳の奥にあるか区別できなく響いていた。
「上司はこの
彼の若々しい声には抑えきれない興奮の気持ちが滲んできている。
「ふふっ、せっかくこれを使う機会があるので、遠慮なく使わせてもらうよ」
陸子涼は視野にあった金色の光が急に暗くなって、ある力に引っ張られ、暗闇の空間に墜落したみたいな感じがした。
「ここは町で有名な
「!!!」
「そんなにビックリする必要はない。私はご縁を司る月下老人なので、利用できる主な力はやっぱり情愛の力しかない。生き返ると要請したときはこの辺のことも考えたはずだろう」
……誰がこんなことを考えるか!
しかし陸子涼は口を開けようとする際に開けられないことに気づいた。彼の全身、頭、顔を含めて、繭のように何層も色が鮮やかなある種の赤い糸に縛られていた。
「機会は一回しかない。恋をしたい相手が決まったら、その人を赤い糸で縛ってください。その人があなたへの愛は赤い糸に付着して、糸の重さが増えて計量できるようになる。具体的な方法は既にあなたの魂に印加した。その相手からもらった赤い糸の重量は天秤という法器のバランスを保つ程度に重くなるとき、天秤の向こう側から命を取り戻すことができるようになる」
月下老人が声を軽く出して笑った。
「つまり、あの人があなたへの愛が十分であれば、あなたは生き返れる」
陸子涼の瞳は急に小さく縮んだ。
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