第一章 命をかけたとんでもない恋(6)
「あ、でも条件がある。あなたの死体は死んだ時の状態に維持しなければならない。新たに傷づけられたりしてはいけないよ。そうでないと、命を取り戻しても、あなたは体に戻ることはできないのだ。死体を隠すことを推奨する。もしあなたの死体が殺人事件で検死に出されてしまうと、あなたを助けたくても力が及ばなくなってしまうよ」
強烈な落下感を感じてから、間もなく無理矢理にとても狭い空間に入れられたような気がした。激しい痛みで目の前が真っ暗になった。
「よし!天の理に逆らって、復活する機会を与えることはあなたへの償いだ。その後はあなたの努力次第だぞ。陸子涼!」
月下老人の性別の見分けがつかない声が飄忽として遠ざかっていった。
「赤い糸はあなた自身の手の中にある。別の殺人鬼に繋がらないように気を付けてください……」
陸子涼はまた他のことについて尋ねたかったが、声を出すことができなかった。
激しい痛みでそのまま意識を失った。
再び意識を取り戻したとき、陸子涼はぼんやりと誰かが彼の顔に触れているのを感じた。
言葉に言えない変な触り方で触れられていた。少し力入れられて抓んだり、こすったりしている。自分を起こそうというよりも、肌の質感を研究しているような触り方だった。
ぐらぐらしている頭に突然パニックになった。今自分が身につけているのは「人間の皮」ではないことを無意識に思い出した。その人の手を避けたいと思っていたが、まったく力を入れることができなかった。
まさか今の自分が触られるとき、紙のような質感がしているのか。
幸いなことに、その人はこのことを深く掘り下げないみたい。しばらくすると触ることとこすることをやめ、代わりに柔らかいもので首の後ろに敷いてくれた。
その人の足音が遠ざかっていた。
暫くすると、その足音がまた引き返してきた。
温かい液体が陸子涼の口に運ばれ、彼の唇が湿って潤いがあるようになった。
陸子涼は本能的に唇をすぼめ、口の中に甘い味がすることをゆっくりと気づいた。
「……?」
茫然としているその時、再びあの甘い味が口の中に流れ込み、喉を通った。
誰かが彼に砂糖水を与えている。
陸子涼の睫毛が震えて、ついに目を開ける力が入った。そこに一人のぼやけた姿が見えて、その人は彼の顔をこすって砂糖水を与えた人物に違いないだろう。
月下老人がこの場所は有名な神婆の家だと言っていたことや、自分の体として神婆の紙紮人形を借りたことなどを漠然と思い出した。各種の重要情報は彼のぐらぐらしている頭の中に、紙切れのように飛び回っている。「……神婆?」と彼の口から言葉を吐き出して尋ねた。
「違う」
冷たい男の声が答えた。
「……」
陸子涼は驚きで目を覚まし、急に目を丸くした。徐々に澄んできた視界の中で、一人の男と目が合った。
薄明るい朝の光の中で、男はボトルを持って彼のそばにしゃがみ込み、彼を見下ろしていた。細長い目には感情を表さず、黒くて落ち着いて、まったく無関心に見えた。
その無関心さは他人を一瞬でも不快に感じさせた。
しかも近すぎた。
陸子涼はすぐにも男との距離を置きたいと思い、習慣的に腰と腹部に力を入れて、体を跳ね上がろうとした。しかし、彼が頑張って力を入れようとしても、筋肉が思う通りに爆発的に働かず、骨だけを引っ張ってアーチの形を作った。
次の瞬間、彼は脱力状態に陥って倒れた。
陸子涼は鼻からくぐもった声を鳴らし、逃げることさえ忘れた。信じられないほど自慢の腹筋を押さえた――どうして筋肉が働かないの?
月下老人はパーフェクトコピーだと言ったじゃないか?!
横にいる男は陸子涼の視線に沿って、腹部に目を移し、そして冷たい声で言った。「あなたは何かを食べるべきだ」砂糖水が入ったボトルが陸子涼の胸に投げ込まれた。「血糖値が低すぎるのだ」
陸子涼は一瞬ぽかんとしたが、すぐに状況が分かった。自分が気絶してここに倒れているのは低血糖症だとその男は思っていただろう。
腹筋を押さえていた手をお腹の方に移動し、嘘をついた。「確かに忙しくて食事を忘れていました……。けんっ、すみません。ご迷惑をお掛けしました。ここはどこですか……」彼は手を床に突いて起き上がった。その時、自分が土の上に横たわっていたことに気づいた。
彼が頭を上げて周りを見回すと、果樹が群生していて、どの木もふっくらとした甘柿の実がいっぱいだ。
ここは果樹園だ。
彼は果樹園の真ん中で倒れていたのだ。
「……」
なんてこと?神婆の家じゃないの?
――人を陥れる月下老人め!
そばにいる男は、彼が元気になったのを見て、柿取り作業を続ける準備をするかのように、脱いだ粗布の手袋を手に取り、再び身に着けた。そして、枕として陸子涼の首の後ろに入れていたコートを身に着け戻した。
「出口はそちらにあります」男は抑揚のない声で「今度私有地に不法侵入したら警察に通報しますよ」と話した。
陸子涼はすぐに男の顔をちらっと見て、再び視線を下にそらして急いで立ち上がった。「……すみません、今すぐここを出ます。警察に通報しないでください!」
そう言った後、慌ててその砂糖水のボトルを手に取って、速足で男が案内した方向に向かった。
男は招かれざる客に目を向けず、はしごを登って枝先の甘柿を摘み続けた。
果樹園は熟した果実の甘い香りに満ちている。
カチッ。
男がもう一つふっくらとした柿の実を摘んだ。成熟した果実をしばらく眺めてから、視線を自分の指先に逸らした。
先ほど肌をこすった時感じ取った温度と手触りを回想するかのようにしていた。
「触感が何かおかしい」
男は独り言を呟いた。
「解剖して中身を見てみたいなぁ」
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