第一章 命をかけたとんでもない恋(3)
それは雨漏りしている半壊の傘で、本当に使い物にはならなかった。
しかし、滝のような雨はそれで半分小さくなった。
――雨の苦難を共に乗り越える。
陸子涼は胸キュンして、神様が予言が実現しているらしいと意識した。彼は驚いて振り向くと、相手が自分より背の高い男だと気づいた。その男が高いところに立っているから、その時に陸子涼はその人の胸元しか見えなかった。
あの男の顔を見ようとして、陸子涼は頭を上げた──
記憶に残る画面が突然砕けて散った!
真っ暗の浴室にいて、陸子涼は頭を抱えて苦しんでいた。
……思い出せない。
犯人の顔も声も思い出せない。
具体的に自分はどうやって殺されたのかも思い出せない。
その数時間の間、自分は何か奇妙な力に魅了されたようだったことだけを覚えている。その男に会った瞬間、幻覚剤を飲まされたように、男からのすべての誘いを受け入れた。
――そして、死んでしまった。
彼は赤い糸をいただいてから最初のデートで、この狭くて寒い浴室で殺された。
陸子涼はその隅に埋め込まれた古い四角い浴槽と恐れる必要がない浅い風呂水に視線を向け、そしてそこにある動かない死体を見ると、急に喉から笑いが込み上げてきた。
「ハッ」
彼は額に張り付く髪を上げて、かすれた軽い声で笑った。
「溺れて死んだ?まさか溺れて死んだのか?嘘だろう?陸子涼。ハハッ、お前はさすがに……こんなひどい話はないだろう?ありえないよ」
雨音で笑い声が次第に聞こえなくなった。
彼は一人で暗闇の中に立ち、そっと囁いた。「ありえないよ……」
しばらく沈黙した後、陸子涼はいきなり風呂水の中に手を入れ、死体を強く押した。映画みたいに体に戻って、生き返らせるかどうかを確認したいと思ったからだ。残念なことに、フィルムが張り付けられたようなバリアが死体を覆い、彼の魂を遮断している。体に入ることができなかった。
陸子涼は罵って、怒りを発散するかのように横にあるプラスチック製の椅子を蹴った。軽かったはずのプラスチック製の椅子は意外と千斤ほど重くて、まったく動かなかった。
自分の目が信じられなくて、陸子涼は再び椅子を強く蹴った。今度プラスチック製の椅子が一センチもなく、わずかに移動した。けれども彼はより一層の脱力感に襲われた。
陸子涼は唖然とした。プラスチック製の棚と手洗いソープの瓶を押してみると、自分の死体を除き、世の中のすべての物が山のように重くなっていることに気づいた。
……本当に自分はもう人間の世界のものではなくなった。
陸子涼の黒い瞳には極度のパニックを見せた。
彼は胸を強く押し、胸を激しく上下に動かしたが、空気を吸うことができなかったようだ。死の後味が彼の体の中に発酵し続ける。巨大な苦痛とストレスが彼の理性を圧迫し、すべての感覚は恐怖に包まれているように感じた。体が動けなくなり、気も狂くなってしまいそう。
世界には何らかのルールがあるようで、幽霊をその場に閉じ込めて発狂させようとしているみたいだ。
陸子涼は目を閉じて、何回も深呼吸をした。
時間が一秒一分すぎている。自分の死でショックを受けた魂は、次第に彼自身によって落ち着かせた。
今思うと、老廟公が彼に引き返して赤い糸を求めるように言ったことが、全部変だった。
そんな偶然はないだろう。数多くの廟にいる月下老人を拝んで、どこでも失敗したが、どうしてその小さくてボロボロの廟にいる月下老人だけが赤い糸を賜ったのか?また、赤い糸をもらえてから間もなく、その「雨の苦難を共に乗り越える」殺人者と会えたのだろう。それが老廟公に見逃してはいけない機会と何回も強く言われたのだろう?
そのボロボロで小さな廟にいるものは絶対、わざと自分を死の道に導いたのだ。
陸子涼は全部分かったように目を開けた。
彼は自分の命を大事にする人だ。
小さい頃から生きるために、様々な苦労をして、様々な苦難を乗り越えてきた。ようやく今日まで一人で生き抜いてきた彼にとって、この世で一番大切なものは自分の命だ。
彼にとって、生き残るためにやっていけないことはない。
陸子涼は冷たい表情で浴室から飛び出した!
犯人の姿は覚えていないが、人をたぶらかすボロボロの廟の場所ははっきり覚えている。廟の前に何本の柱があるかまではっきり覚えている。
脳裏で小さな廟の画面が極めて明確になった途端、心の考えが変わる際、陸子涼の目は突然ぼやけて、次の瞬間彼はその人をたぶらかすボロボロの小さな廟の前に来た。
なるほど、幽霊は瞬間移動できるのか?
陸子涼は少しよろめいてから立ち留まった。頭は未だふらふらしているけど、体は待ちきれずに前に駆け出して、廟の扉を押した。
予想通り、廟の扉は固く閉ざされたまま、動かなかった。
「出てこい!」陸子涼は扉を叩いて、大雨の中で叫んだ。「老廟公、出てこい!なんで俺を殺人者と結びつけた!?俺はそのまま殺された!あなたは人を死なせたのよ!?分かるか!?俺の命を返してくれ――」
雷雨の中で、廟の扉の向こうはシンとした。
陸子涼は怒って言った。「聞いていないふりをしないで!人の願いを聞くことができるのに、幽霊のなら聞けないのか!もう聞こえないふりをしない!遠くから参拝に来たのに、ご縁を求めて来たのに、その結果として、俺は命を失った。どういうことなの?!おかしいとは思わない!香油錢まで渡したのに――」
廟の扉の向こうは相変わらず何も反応がなかった。
陸子涼は辺りを見回すと、遠く離れていないところに廟の壁より高く生えているガジュマルの木があることに気がついた。扉を叩く手を止めて、陸子涼は老いたガジュマルの木に登り、廟の壁の上を踏んで廟内に飛び降りようとしているところ──
その次の瞬間、なんらかの力で陸子涼は空中に止まったままにさせられた。
「――!?」陸子涼は思った。
「ちょっと出かけただけで、誰かが壁をよじ登ったのか。私のことを尊重していないよね」
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