アンラッキーセブンって、何でしょうか?


 お勤めが今日も無事に終わり、机に突っ伏して満足げに微睡まどろむ奈々未。


(むにゃうむにゃ……うふふ、穂村ほのむら君の驚く顔が目に浮かびます……ぴっかぴか……ぴっかぴか……)


 すると。


 予鈴の5分前に、朝練を終えた穂村大輔が息を切らせて教室に駆け込んできた。


「お、穂村、セーフ!」

「間に合った……!うわ!机眩しい!」


(来た!……うふふ、うふふ、驚いてますね……)


 穂村の叫びにニマニマしながら、顔を上げないでいる奈々未。もちろん、『私が掃除しました!』とはアピールしない。


 だが。


「それな。また、どこかのめちゃめちゃ可愛いちゃんが磨いてったんだろ。羨ましいぜ」

「あ、はは。本当に申し訳ないなぁ……」


 穂村と男子生徒のそんな会話を、うつぶせのまま左に四つほど離れた窓際の席から聞いて唇を尖らせる奈々未。


(むぅ。いつも美味しいところを座敷童さんに持っていかれますね。座敷童さんはそんなに可愛くてお掃除好きなのでしょうか。お掃除犯は私なのですよ?あうー)


 奈々未は、自分の事を言われているのも穂村達にチラチラと見られているのも気づいていない。


 知らぬは本人ばかり、なのである。


「そういえば穂村、朝の『ラッキーカウントダウン』見た?アンラッキーが何とかって言ってなかったか?」

「見た見た!びっくりしたよ……しかも僕の星座が今日はアンラッキーセブンの日だって。でさ……」


 聞き慣れない言葉に、首を捻った奈々未。


(アンラッキーセブンの日って何でしょうか?初めて聞く言葉です。これは情報収集の必要がありますね)


「えっマジ?……へえ……」

「うん……何というか…………で……」

「それは、悩みどこ…………大チャン……」


 一生懸命聞き耳を立てるも、穂村達の声のトーンが落ちた事で聞き取れなくなった会話。


(うう、聞こえづらいです。まじ平さんってどなたの事なんでしょうか。漢字が気になるところですが、うちのクラスにそんな名前の人がいたなんて驚きです。もっと情報を……王様の耳はカバの耳……カバの耳……)


 惜しい。


 奈々未が見当違いの事を考えていると、予鈴が鳴った。



(うう……結局アンラッキーセブンの意味がわかりませんでした。が、アンラッキーの意味はわかります。きっと良くない事が7回起こる日、とかそんな感じでしょう。何にせよ、見過ごせませんです。穂村君の胸に7つの傷がつくというのなら、黙ってはいられません)


 奈々未は嬉々として、休み時間や異動の際にこっそりと穂村に付いて回った。


 その結果。


 飛んできた球技のボールを打ち払う、を二度。

 女子達の穂村への視線を白刃取りする、を二度。


 落ちていたバナナの皮で奈々未が転ぶこと、一度。

 食パンをくわえて走ってきた女子をかわすこと、一度。


(危ないところでしたね。先読みの先回りをしていなければ、不幸の数々で穂村君が危険でしたっ。ヘタをしたら穂村君が異世界に飛ばされていたかもです)


 数々の危険から穂村を守りきっている、という自信が奈々未を高揚させる。


 だが。


 最大の危機が、に迫っていた。



 放課後。


 部活に向かうであろう穂村の姿を見ながら、胸を撫で下ろす奈々未。


(よかったです。地球の平和はこの私によって守られました。アン・ドゥ・スリー・フォー・いつ・むう大陸……あれ?1、2、3、4、5、6……一回足りなくないですか?アンラッキーセブンに)


 首を傾げながら、数に合わせて怪しげな創作ダンスに身を任せる奈々未。


 そこに。


朧月おぼろづきさん!」

「む。腕の振りが足りませんね。ツンタカてってー♫るんたったーです♪……え?は、はい!」


 スポーツバッグを持つ穂村から奈々未に声が掛かった。


「ご、ごめん。話があるんだ、けど時間ある?」



(何でしょう、この流れは。全く想定外でした)


 屋上で。


 赤い顔をしている穂村が、奈々未と向かい合う。

 

(こ、これは……)


 シチュ的に告白が始まろうとする気配。

 奈々未とて、流石に気付かない訳がない。


(果たし合いっ……!)


 ……多分。

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