【カクヨムコン10短編】奈々未ちゃんは、今日も何かと忙しい。
マクスウェルの仔猫
に、二センチも近づいちゃいました
まだ誰もが登校していないような早朝の時間帯、県立高校1-A組の教室で。前髪ぱっつん黒髪の少女が髪の毛をフリフリと揺らしながら、机をきゅい!きゅうい!きゅいいいいい!と丁寧に磨き上げていた。
千鳥格子のひざ丈スカートに、ブラウスの袖を七分までまくり上げ、唇を噛み締めながら懸命に机を拭くその姿は可憐とも言えた。例えるなら、愛らしいままに成長した座敷童をイメージさせる。
「よい、しょ!よいしょ!なのです!……おお!今日もピカピカにできました!」
その少女、
「痛いですよ?!痛いです!何するんですか!めっ!」
可憐な残念さんであった。
涙目で頭を押さえながら、机に向かってピン!と人差し指を立てた奈々未。
●
秋本番、ほんのりと冬に向けて下がつつある気温をものともせず、白い頬を赤らめながら、どんな時でも背筋を伸ばして元気よく。それが恋する乙女、奈々未の最近の日常の光景だった。
絶賛片想い中の男子、
自らの想い人が楽しく心地よく高校生活を送れるようにと、毎日の日課として思いつく限りの行動を始めたのが三か月前のこと。そしてその日から始めた机磨きも、今や欠かせない奈々未のルーティンのひとつであった。
磨き具合のチェックが終わり、額の汗と、ぶつけて半べそを掻いた瞳をハンカチで拭き拭きしながら奈々未は満足そうに微笑んだ。
「えへへ!えっへへ!ぴっかぴか!昨日より頑張り……うひゃあ?!何だか目がヒリヒリします!これはまさか……曲者!曲者です!皆の者!出合いなさい!」
汗と額を拭く順番を間違えた為に悶絶し、ぴょんこ!ぴょんこ!と飛び跳ねながら人を呼ぶ奈々未。
「何故誰も来てくれないのでしょう!青天の
人がいない時間を狙ってきているのも、汗混じりのハンカチを目に当てがったのも全ては自分のせいであったりするのだが、巾着袋からポケットティッシュを取り出した奈々未が、へんにょりと眉根を寄せて呟いた。
「あ、そういうことでしたか……不覚っ」
無念!と言わんばかりの表情をした奈々未。
「いたずら好きの妖魔さんを連れて来てしまいましたか。邪魔をしたら、めっですよ?」
濡れ衣である。
「それはさておき、ここまでぴっかぴかにしたならば!ふふふ……目に浮かびますね!机の輝きの中に映る私の笑顔に驚き喜ぶ、穂村君の姿が!」
ただの怪奇現象である。
「さてさて、ご褒美を頂いても良いでしょうか。穂村君の机をこうして……」
んしょ!いっしょ!と穂村の机を左側にズラした奈々未。
「よし、ですね!……むむ。時には冒険が必要、と聞いたことがあります。虎穴に入らずんば虎子を得ず。もう少し、踏み込みましょう」
ずずっ。
奈々未は、緊張の面持ちで机を動かした。
「……成功ですっ!私、やってやりましたです、記録更新しました!穂村君と私の席……に、二センチも近づいちゃいました!……あ、でもでも不純異性交遊で問題になってしまったら、穂村君に迷惑がかかってしまいます。ここは一センチに戻しましょう。ぐぬぬ、です」
●
奈々未ちゃんは、今日も何かと忙しい。
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