第23話 責任感が強い
数日が経過した。
現在僕は、視聴覚室という大きい部屋の中で、公演のように話す先輩の話を聞いている。
あのくじの結果。
ものの見事に僕の開いた紙には『文実』と、略称された二文字が書いてあった。
そして今は文化祭実行委員だけが集まる会議の第一回目。
少し話を聞いた感じだと、僕たちの役割は物品の仕入れや予算管理。その他にも当日の警備やらと、考えただけでパンクしそうな仕事量だ。
ふと横に座る本田さんを見ると、配られた資料に集中して目を通しているようだった。
まさか文化祭実行委員に自ら名乗り出るなんて凄いな。
そう思いながら室内をざっと見渡してみる。
おそらく皆僕のように運が悪かった人たちなんだろうな。
そう思っていると、一人の人間でパッと視線が固定された。
……桃瀬さん?
天童さんと桃瀬さんが僕の家で会った日以来、桃瀬さんとはこれまでと変わらない様子で話している。
もちろんキスも。
桃瀬さんも運に恵まれなかったのか。
「――。ざっと僕たちの仕事はこんなかんじです。では今日はこれで解散します」
文化祭実行委員の中のトップがそう言うと、皆気だるそうに視聴覚室から出て行く。
本田さんは『お疲れ』と一言だけ僕に言うといなくなってしまった。
僕は立ち上がり、出て行くのではなく桃瀬さんのところに向かう。
「お疲れ様。桃瀬さん」
後方から声をかけると、桃瀬さんはこちらへと振り返る。
「和泉君もいたんだ」
「うん。くじで大ハズレを引いちゃって……」
「そうだったんだ。私はじゃんけんとかいう糞みたいな決め方で負けちゃって。誰か脅して変わろうかと思ったけど、和泉君も一緒ならがんばろっかな」
「そ、そうだね。一緒に頑張ろう!」
もし僕が文化祭実行委員になっていなかったら大変なことになっていたのかもしれない。
「それじゃあまたね」
「うん」
まだ桃瀬さんはここに残るらしく、僕は先に視聴覚室を出た。
今は放課後なので、一度教室に戻って荷物を取り帰ろうと教室を目指す。
到着し中に入ると、ただ一人天童さんだけが教室に残っていた。
しかも座っているのは僕の席。
教室に差し込む夕日で髪が輝き、開いている窓の隙間から流れ込む風で長い金色の髪がゆらゆら揺れ、なんともエモい雰囲気だ。
天童さんは僕の存在に気づくと、スッと立ち上がる。
「お疲れ和泉君」
「お、お疲れ様天童さん。ここで何してたの?」
「和泉君に話しておきたいことがあって、ちょっといい?」
「うん……」
何だろうと思いながら、僕は天童さんの元へと歩み寄る。
「千夏のことなんだけどさ」
本田さんの話か。
「去年も千夏、文化祭実行委員になってね。その時は今回の和泉君みたいに運が悪かったからだったんだけど、クラスの皆がけっこう文化祭にかけてて、いつの間にか総合優勝を目指そうみたいな雰囲気になってさ。千夏もそう思って色々頑張ってたのよ」
うちの高校の文化祭では、毎回最後にクラス展示でどこのクラスが良かったかを集計し、一位になったクラスには賞状が与えられるのだ。
確か去年、天童さんのクラスはタピオカ店で大繁盛していたが、僅差で三年生のお化け屋敷に負けていた。
「けど最後は負けちゃって。ああ見えて千夏、けっこう責任感強いからさ。多分今回自分から文実やるって言ったのも、去年のことがあるからだと思うのよね。別に具体的にどうこうしてほしいとかはないんだけど、千夏をサポートしてくれると助かる」
「……分かった。頑張ってみるよ」
「ありがとう。それじゃあまたね」
そう言うと、一緒に帰ろうとはならずに天童さんは先に教室を出て行った。
サポートか。僕に出来るか分からないけど、まあ頑張ってみよう。
☆☆
数日が経過し、今はロングホームルームの時間。
文化祭でクラス展示をどうするか話し合う時間だ。
僕は黒板の前に立ち、あちこちから飛び交う出し物の名前をチョークで書いていく。
一方本田さんは僕の横で皆の意見をまとめようと必死だった。
「いやいや絶対お化け屋敷だって!」
「嫌よ! 絶対ジェットコースターの方が盛り上がるに決まってるわ!」
「そんなん手間かかりすぎるだろ!」
先ほどからクラスの中で互いの主張がぶつかりあっている。
「はいはい。全員の意見ちゃんと聞くから、まずは何やりたいか言っていって」
本田さんは冷静にクラスをまとめようとしている。
だがクラスメイトたちはそれに聞く耳を持たない人が多くいる。
「クレープ!」
「タピオカ!」
「フライドポテト!」
さらなる提案が三連チャンで飛んできた。
頑張って黒板に記入する。
「はい。案はこれくらいかな? じゃあそれぞれの詳しい内容を言ってほしい」
「はいはーい! お化け屋敷しか勝たないと思いまーす!」
一人の男子がそう言った。
「いや違うわ! 絶対にジェットコースターを作るべきよ!」
先ほどからこの男子と女子二人の主張が激しい。
一度静まった教室内は再び喧噪状態へと化す。
ふと本田さんを見ると、明らかにどうするべきか悩んでいるような表情をしていた。
別にクラス展示決めの期限は今日ではない。
しかし優勝を目指すのなら、何をするか決めるのは早い方が有利に決まっている。
どうするべきか考えていると、一つ閃いた。
……でも、あまりにもハードルが高すぎる。
いや、ここはやるしかないな。
僕は一度深呼吸する。
そして思い切り叫んだ。
「皆! 僕の話を聞いてほしい!」
クラスが一気に静まり返り、全員の視線がこちらを向く。
「これ以上話しても意味は無いと思う! だから僕の独断と偏見で何するか決めさせてもらいます!」
僕は身体を移動させ、ある案が書かれた前で立ち止まる。
そしてバンッとその文字を叩いて続ける。
「今回はメイド喫茶でいこうと思う!」
無論一部から反論されるが、そんなものには屈せずに続ける。
「僕の彼女である可愛い天童さんがメイドをやれば、僕たちのクラスは大繫盛すること間違いなしだぁ!」
人生で一番と言っても過言ではないような声量で僕は言った。
追記
新作出しました。割と自信作だと勝手に思ってるので、よければそちらも読んでみてください!
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