第22話 分からない
次の日。
体調が回復した僕は、いつも通り学校で授業を受ける。
間もなく四時間目が終了しようとしている時間だ。
今日はまだ一度も天童さんと会話していない。
いつもなら挨拶とか何かしらの理由で僕に話しかけてくる。
僕は昨日からずっと考えていた。桃瀬さんにああ言われた天童さんは何を思ったのだろうかと。
桃瀬さんが僕のことを好きだと悟ったのか。もしくはただ単に仲の良い友達だと思った?
ただ僕が桃瀬さんのことが好きなことを天童さんは知っている。
しかし……いくら考えても答えに辿り着けそうにない。
仮に桃瀬さんと僕が両思いだということを悟って嫉妬したのだとしたら?
今までならそれは一瞬で否定出来たが、なんとなく今は違う気がする。
これも正しい状況の候補の一つかもしれない。
今後の動き方をしっかり探っていく必要がありそう。
なんて何かの漫画の主人公のようなセリフを胸中で吐き捨てていると、四時間が終了した。
友達同士で昼食を食べようとする人や、お弁当を持って他クラスかどこかへ行こうとしているのか颯爽と教室から出て行く人と様々だ。
いつもなら天童が僕の元へやってくるのだが、今日はその気配がない。
横目で天童さんの動向を窺っていると、何やら本田さんと会話している。
最後に本田さんが僕の方をちらっと見ると、お弁当を持った二人は教室から出て行った。
これで今日の僕の昼食はないということになる。
いつも天童さんが作ってくれていたお弁当を食べていたからだ。
まあ正確には購買とかで買えばいいんだけど。
「あれ和泉。今日は一人なんだ」
「天童さんと食べなくていいの?」
机でボーっとしていた僕に話しかけてきたのは、森田君と原田君だった。
森田君の片手にはフルーツ牛乳とカレーパン。原田君は両手で大量の菓子パンとか色々抱えていた。
「ま、まあね……」
「そっか。なら俺たちと食おうぜ!」
「うん」
森田君の誘いに乗ると、二人は近くから椅子を二つ持ってきて、机周りに座った。
「和泉君。天童さんのお弁当なかったら食べるものないじゃん」
「そうだね。僕も何か買ってこようかな」
財布は持ってきている。流石に何も食べないのは厳しいと思い席を立とうとした時だった。
「なら僕の一つあげる」
「え? いいの?」
原田君は大量のパンの中から、焼きそばパンを一つくれた。
あの原田君が他人に自分の食料をあげるなんて、驚きだ。
「うん。今から買いに行ってもあまり種類ないだろうし……焼きそばパンでよかった?」
「うん! ありがとう!」
これでわざわざ購買に行かなくてもいいということになる。
僕は有難く思いながら包みを外して焼きそばパンを食べ始めた。
「つーか。弁当作ってくれなかったんだ。和泉もしかしてお前。天童と何かあったのか?」
森田君がそう聞いてきた。確かにそう思っちゃうか。
「今日寝坊したらしくてさ。作る時間なかったらしいんだよね」
「……なるほどな。そりゃしゃーねーか」
どうやら僕の即興の嘘は通用したらしい。
これ以上天童さんに関することは追及してこなく、いつも通りといったかんじで僕たちは昼休みを過ごした。
☆☆
「なあ和泉」
放課後。珍しく部活がオフな天沢君と帰っていると、唐突僕の名を呼んできた。
「何?」
「今日の昼休み千夏と天童が二人で俺のとこに来たんだけどよ。今まで和泉と昼休みを過ごしてた天童がいきなりこっちくるなんて、何かあったのか?」
二人が天沢君のところに行っていたとは。てっきり女子友達の輪にでも入っていたのかと。
「何もないよ。ただ何となく、今日はお互いの友達同士で食べたいなってなっただけだよ」
「そっか。ならよかった」
表向きに見れば、僕と天童さんは良好なカップルなんだもんな。
改めてそう思いながら、天沢君と共に家に帰った。
☆☆
日数が経過し、五月下旬。
相変わらず天童さんとの距離は以前と違うままだ。
一緒に昼食を食べたり会話をするようにはなったけど、なんだか素っ気ないというか、そんな感じがする。
これはもしや? とか思う時もあるけど、確信に至るにはまだまだ色々必要だ。
いや、今はそんなことより大事なことがある。
おそらく今、クラスメイトの男子たちは相当緊張しているだろう。
きっかけは三日前に遡る。
☆☆
クラス委員長の
「三日後までに文化祭実行委員を決めたいので、やりたいと思った人は私に声をかけてほしいです。ちなみに男女各一名ずつ募集するとのことです。誰もいなかったら私の方法で勝手に決めようと思います」
黒髪ボブで立派なお胸をお持ちの久遠さんは、その可愛らしい見た目とは裏腹にそんなことを言った。
☆☆
そして今に至る。
どうやら女子の方は本田さんが自らやると名乗り出たらしく、特にすることはない。
一方の男子は誰も名乗り出ず、久遠さんの用意したくじ引きで決めることになったのだ。
クラスの男子全員がくじを引き終わったところで、黒板前に立つ久遠さんは言った。
「それじゃあ。一斉に開いてください」
四つ折りの白い紙を、僕含め男子全員が勢いよく開く。
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