第2話 ついに春が訪れた!?
「……えっ!?」
思いもよらないその言葉に、僕の脳は一瞬凍り付いたかと思うと、すぐさま状況を理解した。
家に行っていい……まさにあの天童さんが僕の家に行っていいか聞いてきているのだと。
「そ、その……いいけど……」
「そっか! なら早速行こっか!」
そう言うと天童さんは僕の右手を握り、颯爽と歩き始めた。
「家、どっち?」
しかし天童さんは数歩歩いた時点で歩を止め、振り返り道を尋ねてくる。
「あ、えっと……」
僕はおどおどした様子でこっちだと空いている手で指さした。
女子と話すことにそもそも慣れていない僕が、あの女王様と話しているのだから仕方がない。
それに彼女と話すのは今回が初めてである。クラスも異なるため、これまでそんな機会はなかった。
「よし。じゃあ行こう!」
そう言って天童さんは意気揚々と歩き出す。
……ていうか、なんだこのどこぞのラブコメの主人公的なポジションは!
胸中で信じられない展開に仰天する。
でも、まさかこの流れは……ついに僕にも春が訪れようとしているのだろうか。
この後の展開に期待を膨らませつつ、僕は天童さんのスピードに合わせて歩き出した。
「……今日さ。水瀬君に告白されたの?」
家への道中、僕は気になっていたことを聞いた。
「水瀬君? うん。されたけど……それがどうかしたの?」
わざとなのか、天道さんはそのつぶらな瞳で『分かってるでしょ』とでも言いたげな様子で僕を見てくる。
か、可愛い……。
「え、えっと……もし付き合ってるなら僕とこんなことしてる場合じゃないといいますか……」
緊張に耐えられず、目を背けながら僕は言った。
もし天童さんが先刻あったと思われる告白を受け入れているのなら、相手はあの水瀬君……その際どうなるか考えただけで鳥肌が立つ。
「そんなの付き合ってるわけないじゃん! じゃなかったらこうして和泉君と手なんて繋いでないよ」
同時に、先ほどよりも天童さんの手の力が若干ではあるが強くなった気がした。
「そ、そうなんだ……」
最悪の事態は起きないことに少し安心する。
「……ここまでいったら、流石に気づいちゃった?」
「え!? な、何に?」
おそらくこんな展開に陥った男子のほぼ全員が、同じことを想像するだろう。
「えー? ここまで来てもまだ分からないの? しょうがないなぁ」
天童さんはそう言うと僕から手を離し、目の前で向かい合うように位置する。
そうして一回咳払いをした。
「えっと……和泉君」
「はい……」
「よかったら私と、付き合ってくれないかな?」
和泉春……高校一年生終盤にて、人生初めての告白をされた。
僕には好きな人がいた。
その人は目の前の彼女ではない。
けれど天童さんをこれまで女子として意識してこなかったのは、あまりにもはるか高みに君臨する、いわば高嶺の花だと思っていたからだ。
「そ、その……僕でよければお願いします……」
迷うことなく僕は天童さんと恋人になる選択を取る。
「やったぁ! これからよろしくね! 和泉君!」
「うん。よろしく、天童さん」
和泉春……高校一年生終盤にて、彼女が出来た。
☆☆
「うわぁ! また負けちゃったよぉ……」
場所は変わり、ここは僕の部屋。
現在、僕はついさっき出来た初めての恋人と共に、テレビゲームをしている。
僕は妹と母さんと生活しているが、妹が帰ってくるのは基本夜、母さんは夜勤が多いため朝方に帰ってくることが多い。
だから今この屋根の下には、僕と天童さん二人だけだ。
ちなみにゲームはレースでアイテムを駆使しながら一位を目指すという、これまでほとんどゲームをしてこなかったという天童さんにとって取っつきやすい内容になっている。
僕が傍で指示しながら、天童さんが操作を覚えていくといったかたちのまま、かれこれ一時間ほどが経過した。
それにしても……なんだこの高揚感は。
これが、僕が長年追い求めてきたあれなのだろうか。
「あのさ、天童さん」
「……ん? どうかした?」
テレビには次のレースを待つ画面が映っている。
話しかけるならここだと思い、僕は一番気になっていたことを聞こうと声をかけた。
「なんで僕と付き合いたいなんて思ったの?」
これまで会話もしたことのない彼女が、どうして平凡な僕なんかに告白したのか、いくら考えても答えが出なかった。
もしかしたら友達との罰ゲームとかで、僕と付き合うみたいな流れになっていたのかもしれないなど、少々恐ろしいことも考えられたが、それはないことに期待したい。
「え!? えっとねぇ……内緒!」
天童さんはニコッと笑いながらも、僕の問いかけには答えてくれなかった。
「お、始まる始まる」
まもなく次のレースが始まろうとしている。
天童さんは若干慌てながらコントローラーを手に取ると、目の前の画面に集中する。
まあ、これが彼女にとって罰ゲームとか何かだったとしても、あの天童さんとこうしてラブラブ出来るのなら、別にいいかとも思えてきた。
「えっとこのコースは――」
次のレースが始まろうとしていたため、僕は教え役モードへとスイッチを切り替える。
さらに時間が経過した。
外はすっかり暗くなっている。
「あぁ楽しかったー!」
天童さんは座ったまま上半身を伸ばして感想を述べた。
「楽しめてもらえたならよかったよ」
僕はコントローラーをしまおうと手を伸ばす。
「そうだ。和泉君」
「ん……なに?」
彼女の言葉に、僕の動作は止まる。
「……キス、しない?」
「…………えぇ!」
思いもよらないその提案に、思わず尻餅をついたまま後方へと下がった。
あまりの勢いに背中が勢いよく壁に衝突する。
「ねえ、しようよ」
「え……ちょ、それは……」
動揺全開の僕とは打って変わって、天童さんはもの凄い落ち着いた様子で、四つん這いのままこちらへと迫ってくる。
「嫌だ?」
「い、嫌とかじゃないけど……そ、そういうのはもっとこう、段階を経てからというか……」
おかしい!
明らかにおかしい!
あの天童さんがいきなり告白してきて、さらにキスまでしようとしてくるなんて、絶対に何か裏がある!
「嫌じゃないならいいじゃん。ほら、目閉じて……」
「う、うん……」
所詮は健全な男子だ。
ついさっきまで彼女という存在に飢えていた僕は、言われるがままに目を閉じる。
「……いくよ」
僕は首を縦に振って応える。
もしかしたらこの後、これよりももっと凄いあんなことやこんなこともするのだろうかと、欲望垂れ流しの想像をしていると、一向にやわらかい感触が伝わってこない。
……あれ。
目を開こうとした時だった。
カシャッとシャッターを切る音が室内に響き渡る。
目を開くと、目の前にはスマホを構えた天童さんの姿があった。
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