010【ブロッコリー】
家に帰るとそろそろ夕飯の時間だった。
セレステは材料の準備を始め、そばで手伝うつもりだったイヴァンは、セレステがブロッコリーを取り出した後、真っ青な表情でこんな残酷な場面は見たくないと言い、裏庭にたばこを吸いに行った。
一人キッチンに残ったセレステは、可愛らしく微笑んだ。
イヴァンさんを可愛いと言うのは似合わないな、面白いと言うべきかしら?
ブロッコリーを切っている最中のセレステの頭の中は、彼女の死神さん、イヴァンのことでいっぱいだった。うっかり鋭利な包丁で手を切ってしまった。
セレステは慌てて確認すると指の腹から血が出ていた。傷口に痛みはなく、少し痺れた程度だった。セレステはやがて一つの問題に気が付いた。
自分が自殺した後、またイヴァンさんに会えるかな?
彼女は聞くのが怖くて、答えを知るのも怖い。だが、もっと怖いのはイヴァンが何も答えないことだ。色白の細い指から流れる血はうねうねしながら掌まで届いた。首の後ろにうっすらと鳥肌が立った。七日間の期限が近づくにつれて、得体のしれない恐怖を感じていた。それが死に対する恐怖なのかはわからなかった。
オーブンが「チン!」と予熱の終わりを告げるベルが鳴ると、セレステはすぐさま正気に戻り、慌てて料理に手を伸ばして危うく転ぶところだった。セレステは深呼吸をして、手でテーブルの縁を掴んで自分の態勢を安定させて、次にきちんと整えられたブロッコリーの上に厚いチーズをのせて、オーブンに入れた。だが、指の震えがまだ止まっていなかった。
「終わったか?」
ミトンをはめたセレステがオーブンからプレートを取り出したとき、イヴァンは後ろに立っていた。距離が近づくと、イヴァンの体から漂うたばこの匂いがセレステの顔を紅潮させた。
イヴァンはブロッコリーの皿を見て、顔をしかめた後、今にも吐きそうな声を出した。少なくとも二百年、三百年は生きているようには見えなかった。
最後の一皿をテーブルに置くと、セレステは両手を合わせて黙祷していた。向かいの席の死神は、スーツのズボンのポケットに手を入れ、椅子にもたれながら座っていた。荘厳、という言葉はイヴァンから少なくとも一光年も離れている。
祈りを終えたセレステは、イヴァンの皿にブロッコリーをフォークで載せて、「イヴァンさん、食べてみてください。とっても美味しいですよ。弟が偏食だった頃、私もよく同じことをしていましたの」
イヴァンは顔をしかめているが、期待に満ちたセレステの大きな目の前では、無理やり一口だけ食べてから大げさに吐き出すしかなかった。テーブルの上のボトルを手に取り、酒をごくごく飲んだ後、セレステを睨みつけた。
「考えてなよ、お嬢さん、俺を毒殺したらボディガードはいなくなるんだよ」。
「ごめんなさい。イヴァンさんがあんなに嫌がるとは思いませんでした」セレステは、「でも、弟はそれで本当に好きになったから、それで……」と弁解を試みた。
イヴァンはたまらず、「お前さんの人生、家族以外に何があるんだ?」と口走った。
セレステは動きを止め、そしてイヴァンを見上げた。それは悲しくて辛くて苦しい笑顔だった。「もう……ないんです」
空虚と困惑が再び訪れ、自分の魂が得体のしれない何かに少しずつ吸い取られ、心の中に何とか見出した小さな輪郭を消し去っていくのを感じたのだ。するとセレステは、もう震えていない、怖がっていないことに気がついた。セレステの目は、冷静に目の前の男に向けられていた。
「もう何も残っていないです」
イヴァンは何も言わずに、大きな口を開けて皿に盛られた肉を押し込んだ。
死神として、死にたいと思う奇妙な理由をたくさん見てきたのだ。しかし、セレステのように、自分のために生きることもせず、自分の人生を終わらせることを決意した人間は、これまで一人も……
「お嬢さん、まだ処女だろ」
「イ、イヴァンさん!いきなり何言い出すんですか!」
持っていたナイフとフォークが手から滑り落ちそうになり、セレステは慌ててそれを握りしめ、テーブルの向こうで平然とその言葉を発した男を居心地悪そうに見つめた。
「お前さんも可哀想な奴だよ」
イヴァンは大きなため息をつきながら、テーブルに腕を突いて立ち上がり、小さな四角いテーブルの上に身を乗り出して、男らしい顔をセレステの火照った頬に近づけてきた。
「心配しないでくれ。今夜はいい思いさせてやるさ」と。イヴァンは彼女の額に軽くキスをすると、「どうせ死ぬんだから、ね?」と悪戯っぽく微笑んだ。
話し終えると、イヴァンはもう十分食ったと言って、自分の部屋に戻っていった。その際、イヴァンはセレステに、今夜十時にシャワーを浴びてから自分の部屋に来るように言った。
遠くでドアが閉まり、テーブルに残されたのはまだポカーンとしているセレステと冷えたブロッコリーのグラタンだけだった。
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