07、歓声の中に僕は独りで悲しむ

 自分の秘密をすべて打ち明けたからか、その後の羅秀雅は、とてもリラックスした愉快な者になった。

 彼女は方既明の家で、時折、簡単な家事を手伝った。

 方既明はソファの上の汚れた服がなくなり、堆積したゴミが片付けられ、帰宅するたびにあの笑顔の姿が目に飛び込んできた。

「おかえり!ダーリン、今日はあなたの好物を買ってきたよ」まるで美しい妻と結婚したかのようだった。

 復讐という目的を失った後、方既明は羅秀雅の今後の予定を聞かなかった。

 おそらく、聞きたくもない答えが返ってくるのが怖かったからだろう……。

「ただいま」忙しい一日を終えて、リビングルームのソファに座ったとき、方既明は心からリラックスすることができた。

 彼は、スマホを開いてその日の未読メッセージをチェックした。

 その中にある高校の同窓会に関するメッセージを見たとき、彼は一瞬固まった……。

「何じっと見てるの?」羅秀雅が遠慮なくやってきて、画面のメッセージを見た後、「同窓会か……行くの?」

 その質問に、方既明は少し黙ってから「……考えとく」と答えた。

 高校の同級生の今の様子に興味はあったが……。

 彼のそばに座った後、羅秀雅は、「社会人になってから、同窓会に行くのは大半が『自慢したいから』らしいよ」と言った。

「職業や家族を自慢する……要するに、成功している人ほど、参加したがるんだって」

 そうだとしたら、自分には自慢できるものを何も持っていないな――方既明は黙ってそう思った。

 ところが、羅秀雅が次に吐いたのはこんなセリフだった……。

「ダーリンはとても優秀なんだから、同窓会でみんなをぎゃふんと言わせなさいよ!」大げさな口調だったが、その意図は真摯なものだった。

「……本当?」

「もちろん!」羅秀雅は胸を張った。「ダーリンはとても素敵だから、ハゲてもカッコいいよ」

 彼女は、方既明が本当は行きたいのに、何となく躊躇している様子に気づいた。

 彼女は、普段の方既明は休日でもインドア派なのに、今は行くか迷っているのなら、だったら自分が後押ししよう、と思った。

「あの……僕、まだはげていないよね?」方既明は、彼の『妻』が本当に自分のことを好きなのだと信じ始めるようになった。

 ――少なくとも、彼女はこんな言葉で自分をからかうのが好きなのだ。

 ともかく、羅秀雅の言葉を聞いた方既明は決心した。

 よし、行ってみよう!彼はそう思った。

 何しろ、今の自分は、昔の自分とは違うのだから。


 同窓会の夜、一行はおしゃれな内装のアメリカンレストランに集まった。

 ビール飲み放題のこのお店は、久しぶりに会った人たちが集まるにはもってこいの場所だった。

 方既明が仕事を終えて駆けつけると、ほとんどの同級生がすでに到着していた。方既明の登場に、同級生は皆少し驚いた。

「方既明か?ずいぶん変わったな!」

「眼鏡を外したら、完全に別人じゃん」

 久しぶりに会う方既明の姿に、ほとんどの同級生のテンションが上がった。

 そして、同級生たちは彼の現況を聞き始めた……。

「服装がすごい決まっているな、今どこで働いてるんだ?」

 方既明の今の仕事内容を知ると、少しばつが悪そうに恐る恐る離れていく同級生もいれば、興奮気味に仕事中に『心霊現象』に遭遇したことがあるか、と聞いてくる同級生もいた。

 その時、方既明の脳裏には、すぐにある美しい女性の姿が浮かんだ。しかし、少し間をおいてから、「ないな」と答えた。

「職場の人はいい人ばかりだし、仕事も辛いこと時もあるけど、僕はこの仕事が大好きだよ」

 自分の仕事は、実際は普通の仕事なんだと同級生に語りかけた。

 彼らは猟奇的なエピソードを期待していたようだったが、想像したような「クライマックス」はなかった。

「そっか……」何度か会話を交わすと、最初は興味本位で方既明の周りに集まっていた同級生たちも、次第に散っていった。

 彼の見た目は変わっても、中身はほとんど変わっていないことに気づいたのだ。

 ――それは、以前のように真面目で、つまらない人だった。

 自分の席に座り、誰からも話しかけられることもなく、ふとどうしていいかわからなくなり、食事やビール以外することがなかった。

 自分から話しかけたい……と思っても、高校時代の同級生に親友はおらず、少し言葉を交わした人も卒業後はほとんど話さなくなり、音信不通で他人みたいになってしまった。

 何の話題を切り出して、何を話せばよかったのか、彼は本当にわからなかった。

 同級生たちが自分のそばでおしゃべりに夢中になっていた。しかし、そのどれもが自分とは関係がないようだった。

 自分と周囲と、まるで二つの世界に分かれているようだった。

 方既明は、自分はもうどうでもいい思っていたが、このとき、それに反して、口では言い表せないやるせなさがあった……。

「方既明、だよね?久しぶり」その時、美しく上品な女性が歩み寄ってきた。

 彼女は通っていた高校のクラスのマドンナで、昔は多くの人に囲まれていたが、今でも彼女は登場するなり人目を引くようだった。

「……久しぶり」方既明は小声で彼女に挨拶した。

 クラスの人気者である中心人物、マドンナはいつも親切で熱心だったが、この時も例外ではなかった。

「方既明、眼鏡を外すと、ずいぶん印象が違うわね。カッコよく見えるよ……」

 周りの音楽がうるさいからなのか、方既明はマドンナと何を話しているのか、何を答えているのか自分でもよくわからなかったが、頭の中で過去のある記憶が鮮明になった……


 高校生の頃、このマドンナが好きだった……彼女は初恋の人だった。

 当時、彼女のことが好きな人はたくさんいたが、その中でも方既明は一番地味だっただろう。

 方既明は無口な人間で、ほとんど自分の席に座り、黙々と自分のことをこなしていた。

 絵を描くのも好きだった。専門的な授業は受けていなかったが、長年練習を重ね、自分の描いた絵に命を吹き込むことができるようになった。

 ある日、テレビで『Love Letter』という映画を見た。

 図書カードに好きな女の子の絵を描いた映画の主人公を……方既明はすごくロマンチックだと思った。

 若い頃は誰でも一世一代の勝負をしようと思ったことが一、二回あるはずだ。そして方既明も、夢見ただけでなく、実行に移した。

 方既明はマドンナの似顔絵を描き、彼女に愛を告白した。

 一瞬の沈黙の後、彼女は微笑んで彼の絵を受け入れた。

 告白にOKはもらえなかったが、それは方既明にとってどうでもよかった。

 自分の気持ちを真剣に受け止めてくれた。それで十分だった。

 しかし、その直後、方既明は偶然にもマドンナと親友のおしゃべりの内容を聞いてしまった。

 近くにいた方既明に気づかなかったからか、二人の会話のボリュームが下がることはなかった……

『……ねぇ、知ってる?数日前に、方既明から告白されたんだ』

『方既明?あいつもあんたのこと好きだったの!?見えなーい』

『しかも、自分で描いた私の似顔絵までくれたの』

『マジで……どこ?見せて見せて』

『あれ……捨てちゃった。彼、いつも無口で話さないし……実際にこっそり私を見つめてると思うと……ちょっと怖かったんだ』『確かに……方既明は根暗な感じがするよね』その後、方既明は彼女たちの話を聞くことをやめた。

 ……いつも笑顔で接してくれるクラスのマドンナが、心の中で自分のことをそう思っていたなんて、彼は思いもよらなかった。

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