五大王種族定例会議

「皆様、お揃いのようですね。では、五大王種族定例会議を始めさせていただきます」


 五大王種族定例会議とは、その名の通り5つの王である種族が集まり、開く会議のことである。


「まず出席者の確認から行います。今回の開催国である『龍皇国』からは、皇王のカイ。そして進行役である私、皇太子であるセイが出席させていただきます」


 背筋を伸ばし、右腕は折り曲げ手を心臓の位置に。左腕は腰へ回し手の平を握る。右足の踵を左足の土踏まずに当て、角度を45度にする。そして腰から15度曲げて礼をする。

 これが皇国流の誠意ある礼の仕方。

 カイが行った後に、セイが行う。

 そうすることで、カイの立場の方が上と見做される。


「次に『海王の里』から、海王のシャン様。そして海妃のミラ様がご出席なさっています」


 背中を丸め、目を閉じ、両腕を組み自身の目元まで上げ、数秒保つ。そして下げる。

 これが里流の誠意ある礼の仕方。

 シャンと同時にミラも行う。

 そうすることで2人の立場は対等であると見做される。


「次に『ハイエルフの森』から、総師のレーヴェン様。そしてレーヴェン様の教育係であった、研究師の躑躅様がご出席なさっています」


 胡座をかき、両膝に握った両手を置き、目を閉じ、腰から15度曲げて礼をする。

 これが森流の誠意ある礼の仕方。

 レーヴェンだけが行う。

 そうすることで躑躅も同意であると見做される。


「次に『血の影』から、首鬼のサンティ様。そしてサンティ様の親戚であるリュヌ様がご出席なさっています」


 右膝を付き、左膝を立てる。左腕を腰へ回し手の平を握り、右腕を心臓の位置まで上げ、手の平を握り2回強く心臓を打つ。そして右手の薬指と小指以外の指を広げ、首から90度礼をする。

 これが影流の誠意ある礼の仕方。

 リュヌだけが行う。

 そうすることでサンティも同意であると見做される。


「最後に『精神の柱』から、虹の聖霊様。そして桜の聖霊様がご出席なさっています」


 2人は高位な存在のため、礼はしない。

 だが、笑顔で迎えてくれている。


「以上を持ちまして、出席者の確認を終わらせていただきます。今回の議題は『各国の現状』『世界の治安』『女神の愛し子』『新種族』について話し合います。なお人数が多いため、発言者をこちらが指名する形で行います。……よろしいですね?」


 異論は誰も無いようだ。


「では、始めます。まず各国の現状についてですが、皇王のカイ様」


「我が国は衣食住ともに不足分無し。成人後に暴れまわる者が数人いたが、対処済みだ」


「海王のシャン様」


「私の国は結構な数の魂が入ってきましたが、想定内ではあります。ただ、今後の食料が不安です。……こちらでも数人魂を乗っ取られた者がいましたが、概ね回復しています」


「海妃のミラ様はございますか?」


「いえ。水中都市は至って平穏ですので」


「……総師のレーヴェン様」


「『異界の魂』たちが本当に厄介。僕直轄の国はエルフの数が少ないから、そこまでの被害はなかった。けれど属国であるエルフの国は大変だったみたいで、急に言動が変わったり、予定を忘れたり、暴力を振るわれたりで被害は甚大。帝国は成人を迎える年の子を神殿に隔離していて、王国は成人後に神殿に来るよう呼びかけている感じでなんとかなってる」


「首鬼のサンティ様」


「私の国は今のところ何もねぇな。食料も血も安定してるし。……ただ数人、暗闇を急に怖がって逃げたやつはいるな。そいつらは結局新しく転生したみたいだが」


「虹の聖霊様はございますか?」


「ない。『異界の魂』はこちらに来ないし。強いて言えば精霊と妖精が少し騒がしいくらい」


「続いて世界の治安について。皇王のカイ様、どうぞ」


「我ら龍族は知っての通り空を飛べる。故に世界の監視者となって、国を見渡してきた。……5年ほど前、女神からのお告げにより各国は食料や水、住まいや衣服を間に合わせるべく調達してきた。それが想定内に収まったのは良いことだ。しかし、まさか『異界の魂』が成人後にも憑依し、肉体を乗っ取ることは想定していなかった。そのせいで治安が悪くなり始めている国をところどころ見かけた。……女神に聞いたところ、この件は『異世界の神』が関係しているらしい。ただ、乗っ取られた肉体を殺しても、傷つくのは『異界の魂』のみだと。肉体や本来の魂に影響は無く、気軽に殺せとのことだった。……女神と異世界の神が許可を与えた。よって、これからは『異界の魂』に乗っ取られた成人後の肉体に限り、一度殺すことを許可する」


 一番安堵したのは総師のレーヴェン。

 誰も顔に感情を出さないが、目だけは違った。

 『これで厄介事が1つ減る』と誰もが思ったことだろう。


「さて、続いての話題が本題である『女神の愛し子』についてです。聖霊様の国以外、各国に女神の愛し子が誕生されました。子の詳細をお願いします。皇王のカイ様」


「我が国に生まれ落ちたのは、水色の小さな龍。名をスイという。まだ転生してまもなく、こちらの生活に慣れていないようだが、よく食べ、よく飲み、よく寝ている。言葉を交わすのはもう少し時間が掛かるが、可愛い声だと確信している。最初の頃は遠慮がちで、涙をよく流していたが、今ではすっかり元気に育っている」


 どうやら冷淡なカイが、優しい目をして頬を緩め、思い出しながら話していることに皆が衝撃を受けているようだ。

 息子のセイだけはため息を付いているが。


「海王のシャン様」


「私の国は魂のいなかった第二王子に入りましてね。名をライトと言うんですが、まぁ自分の息子というのもさることながら、可愛いんです。もう『ぱぱ』『まま』と呼んでくれるようになりまして、第一王子である兄のことを『おにぃ』と呼ぶんですよ。それが可愛くて可愛くて。……ただライト自身は少し兄に遠慮気味で、そこを子供らしくさせたいなと思っております」


 カイが自慢話をしたためか、続くシャンも自慢話を話していた。


「海妃のミラ様はございますか?」


「夫と同意見でございます」


「研究師の躑躅様」


「儂は、久しぶりに知識を貪欲に吸収する奴を見つけた。名は柊。儂のことを『つつじぃ』と呼び、慕ってくれる。儂が世間話をする度、精霊との話をする度、目を輝かせて聞いてくれる。……たまにふと、瞳が暗くなるんじゃ。それを見る度心が苦しくなってのぉ。あの子の陰りを取っ払ってやりたいと何度も思う」


「親戚のリュヌ様」


「私はあの子を光だと思う。魂の輝きもそうだけど、髪の色も白で珍しいから。名は『ルミ』。彼女は私の職業を、忌避無く受け入れてくれた。だから私も、彼女が何者でも、受け入れたいと思う」


「皆様、詳細をありがとうございます。そして最後に、聖霊様からのお知らせである新種族についてです」


 ほわわんとしていた空気が一変する。

 この世界では新しい種族が生まれるなど、もう無きに等しい。

 だからこそ王たちは、関わっている聖霊様の話を聞き逃しはしない。


「うん。皆の話も面白かったからあとで見に行くかも。で、話なんだけど女神が新しく創った『天使族』って知ってる? 知らないよね。そりゃそうだ。カイはもう知ってるかもだけど、『女神の愛し子』は全員で5人生まれた。龍族、シャチ族、ハイエルフ族、吸血鬼族、最後に天使族。天使族の彼女、さくらって言うんだけど、彼女は自ら女神に直談判した。叶えたい夢があると。その心に感銘を受けた女神が直々に、彼女の記憶を頼りに種族を創ったっていうわけ。さすがに常識知らずのままほっぽり出すわけにもいかないから、ここにいる桜の聖霊にも着いてってもらってね。彼女も女神が直々に創ったさくら専用の聖霊だよ。……この世界を豊かにしてくれるから、女神も本腰を入れちゃったんだろうね。いずれ君たちにも分かるよ」


 ふぅ。と一息ついた後、もう喋ることはないと口を閉じてしまった虹の聖霊。

 王たちもそれで充分だという空気。


「では、これにて五大王種族定例会議を終了いたします。皆様、お帰りの際は気をつけてお帰りください」


 ここまでが名目上の会議。

 ここからが子を育てる保護者たちの、自慢話大会の始まりである。


 共感し、理解し、頷きあう王たちは、自ら持ってきたお酒とおつまみを片手に各々話し始めた。




 その影で話し合う者が2人――。



「レーヴェン。私のことはまだ恐ろしいですか?」


「……まだ40年しか経っていないんだ。正直、一生のトラウマものだと思うよ」


「そうですか……。小さい貴方には酷なことをしましたね」


「止めてくれ。貴殿が謝られるとこちらの立場が無くなる」


「……貴方が賢明な人に育って良かったです。前任者は愚かだったので」


「奴はハイエルフ族の歴史上、たった1人の劣化種だったよ」


「ふむ。どうやらまだハイエルフは使えるようですね。王にもそう進言しておきます」


「ありがたきお言葉」

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