自分勝手な冒険者②

「行ったかな……」


「あぁ。……悪いな、いつも説明を任せっきりで」


「いいよ。そういう役割分担だし。それに、恐怖と後悔で歪む顔を見るたび、ゾクゾクして愉しいんだ〜」


「そういえばお前はそういうやつだったな」


「んふ。……任務達成のご褒美に酒場でも行こうよ」


「こいつらは?」


 『異界の魂』が抜けた肉体は、本来の魂が戻るまで眠り続けたままになる。

 あと数分で目を覚ますだろうが。


「寝かせておけば?」


 任務を終えた途端に興味を無くすのは相変わらずだな。

 あいつらに同情心を誘っておきながら。


「はぁ……。一応、神官師に言っておくか」




「かんぱーい!」


 行きつけの酒場に着いた途端、ワインを頼んで早々に飲み始めたこいつ。

 白いフードを外して、茶色の髪と黒色の瞳を露わにする。

 『魔術師』と詐称して、エルフではありえない色彩の瞳を持つ、通称『梟』。

 俺らは依頼を受けて任務を遂行する、エルフに擬態した諜報員。


 にしても、ワインはそうやってガブガブと飲むものじゃないと、何度言えば分かるんだ。


「いやぁ〜、今回は上手く行って良かったよ。脅しはしたけど、殺さなかったし、ちゃんと女神の元へ行ってくれた。……殺してたら僕が怒られるからねぇ。よかったよかった」


「怒られるだけで済むなんて優しいじゃねぇか」


「またまた〜、閣下の怒りが怖いの身に沁みてるでしょ〜?」


「へぇ。僕は怖いんですか」


「うぇ!? 閣下!?」


 梟の耳元で囁き、悪魔の如き微笑みを携えている『閣下』と呼ばれている人物。

 龍族の『貴族』であり、四席の一席『伯爵』のコウ様。

 我々鳥族の雇い主であり、主君でもある。


「君たちに朗報です。今まで1ヶ月間、よく働いてくれました。明日からは1ヶ月間お休みです」


「えぇえ!? 閣下! 僕ら解雇ですか!? 役立たずでしたか!?」


「すんません。閣下。黙らせますね」


 酒に酔って煩く喚く梟の喉を剣で刺す。


「あは、は、ごめん。目ぇ覚めた! だから斬らないで! 烏!」


 魔法で防がれたが、酔いは覚めたようで何よりだ。


「君たちは相変わらず仲がいいね。良いことだ。……さて、皆も聞いてたよね?」


 ここは酒場。

 俺たち他国へ潜入する鳥族のアジト。通称『エルフ王国支部』。

 マスターも料理人も全員エルフに擬態した鳥族。


「我が国は先月、女神の愛し子である姫様が誕生なされた。その日からぶっ通しで情報収集に励んでくれて感謝する。幸い、姫様も無事に過ごされて精霊が見えるようになった。そんなわけでエルフ王国の諜報活動を一時中断とし、姫様のお披露目会をすることになった。……君たちにも大切な人がいることだろう。里帰りと行こうじゃないか」


「御意に!」


 皆の声が1つになった瞬間だった。


「さぁ皆! 祝杯だ! 費用は僕が持つよ」


「ひゃっほーい!」


 わいわい、がやがやと。

 ここではこのように夜が更けていった――。

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