二柱の会話

「あははっ! いい気味〜! 女神直々の案内をスキップするからいけないんだよ〜?」


 僕は眼前に広がる、数多のプレイヤーをモニターで観察していた。

 このゲームは実在する異世界だ。

 それを知らずにプレイするあまり、横暴なプレイヤーがちらほら。


「まぁでも、それが君らの本性だってわかるからさ。別にいいんだけどね」


 羽目を外しすぎれば、女神が怒るだけだ。

 この世界の住人にとっては脅威だろうけど。


「にしても女神の提案は助かったなぁ。危うく魂たちを無駄にするところだったよ」


 僕が注目しているプレイヤーは5人。


 龍族に転生し『スイ』となった20代の女の子。

 ハイエルフ族に転生し『柊』となった20代の男の子。

 シャチ族に転生し『ライト』となった10代の男の子。

 吸血鬼族に転生し『ルミ』となった10代の女の子。

 天使族に転生し『さくら』となった10代の女の子。


 そして全員『送付型』を使用し、地球に未練がない自殺願望者。


「……彼らは皆、アイデンティティを失った者。家庭環境や学習環境、友人関係に職場関係。原因は沢山あった。その原因に耐えきれなくなる前に、このゲームを出した」


 『神の理想郷』

 このゲームは【地球】の神である僕と、【女神の理想郷】の神である女神が協力して作り上げた、世界間の転移術だ。

 地球の魂を女神の理想郷へ送付、もしくは付与させ、世界の活性化を起こすというもの。

 ゲーム機に転移術を施し、魂だけ転移させるので、地球の本体は無事だし、睡眠状態になるよう設定した。

 1つは『送付型』。主に現実逃避したい人、金持ち向け。

 メリットは、プレイ時間の制限なし。欲求の全てをゲームの世界で満たすことが可能。操作性の違和感皆無。

 デメリットは、プレイするまでの準備時間がかかる。機器の金額の高さ。


「要は神の術を満遍なく形にしたもの。まさに異世界転移と言って差し支えないよ」


 もう1つは『付与型』。主に気楽に遊びたい人、資金の無い人向け。

 メリットは、プレイするまでの準備時間の短縮。機器の安さ。

 デメリットは、プレイ時間の制限、食欲・睡眠欲・排泄欲のみ満たすことが可能。操作性の若干の違和感。


「女神に頼まれて仕方なく作ったやつだから、そんなに力は込めてなかったり……」


「お一人で楽しそうですね」


 背後から声をかけるのは、件の女神。


「やっぱ女神は優しすぎるんじゃない?」


「そうですか?」


「だってほら、案内人に化けてせっかくゲームの説明をしようとしてるのに、飛ばすバカどもの願う転生先にしてあげてるじゃん」


「まぁ、初回だけですよ」


「なんのために情報を遮断してるか分かってないのにさ」


 女神の膝の上に寝っ転がる。

 そうすると最近は撫でてくれるようになったのだ。


「ふふ。貴方は位が高くなっても、変わらずに甘えん坊さんですね」


 神は位が存在する。

 背中に生える翼の枚数によって決まるのだ。

 僕は8枚で、女神は4枚。


 先に世界を創ったのは女神で、結構後に僕は世界を創った。

 その時は女神が先輩だったから『お姉ちゃん』って気軽に呼べたのに、今は位のせいで『女神』としか呼べない。

 早く呼び方を元に戻したいから、地球の魂を転移させる案に同意した。

 でもその打算も女神にはバレているんだろうなぁ。


「ゲームの世界に籠もってもらうために、ゲーム内のSNSとか、プレイヤーと住人を見分ける機能を排除したり、いい塩梅をと頑張ったのに」


 『神の理想郷』を作るにあたって、参考にしたゲームがいくつかある。


 1つは、花札会社がいつの間にかゲーム界隈の大企業になっていた会社の、『伝説』と名がつくゲーム。

 1つは、ゲーム以外にも音楽事業や機器の開発に手を尽くしている会社の、『夏休み』と名がつくゲーム。

 1つは、ゲーム機の開発はしていないが出版事業に手を出している会社の、『クエスト』と名がつくゲーム。


 【女神の理想郷】にゲーム要素を作り出すため、名称やストーリーなど多少参考にさせてもらった。

 著作権? 神に通用すると思うなよ。

 まぁ訴えは、僕が責任者として擬態している会社に来るかもしれないけどね。


「とりあえず女神の案内は終わった感じ?」


「そうですね。1ヶ月もしたら情報を開示しても構いませんよ」


「りょーかい。んじゃ、1ヶ月進めちゃうか」

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